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懐かしの場所で、ひとり

「ママがいなくてもいいなら、二人で公園行きなよ!もうママ帰ってこないから!」

そう言って家を飛び出してしまった私は、今銀座にいる。ここのところ、ずっと心が疲れていて遂に爆発してしまった。

事の発端は、今朝、家族で遠くの公園に行こうと準備していたときのこと。思わず私が「公園、毎日行ってるけどなぁ」とつぶやいたことだった。

春休みもほぼ毎日公園に行き、新学期が始まっても降園後は昼過ぎからほぼ公園に行っていた。本当はGWくらい、公園はお休みしたかったが、娘が「公園に行きたい」というので私が折れた。

そんな背景もあっての「毎日行ってるけどな」だったのだが、夫はこれを聞いて「そんなこと言うなら、一人で家にいれば?」と言った。

普段なら、ありがたく家でのひとり時間を頂戴するところだが、今日の私には何だか「ママはいらない」と聞こえて、すごく悲しくなった。多分、公園祭りの日々に加え、春休みから続いている娘の癇癪、愛犬の体調不良(深夜の看病)、新年度から増えた習い事の送迎、園のクラス幹事、進まない仕事…と、知らないうちに心身ともに疲れていたんだと思う。

先週、辛くなって夫に相談したが、「物理的に家にいないから、これ以上できることはないなぁ」と言われたものの、翌日から朝の犬の散歩は行ってくれるようになったので、今以上のことは諦めていた。そんな私を思いやって、「休んで良いよ」のつもりで言ってくれたのかもしれないが、今の私には冷たい言葉に感じてしまった。

思わず、「じゃあ、わたし一人で買い物でも行くから、二人で犬も連れて公園に行ってくれば?」と返事した。娘にも「今日は、パパと二人で遊んで」と言うと、無邪気に「パパ〜、砂場セットも持っていこう!」とはしゃいだ。

何だか、本当に居場所が無くなってしまった。多分私は「そんなこと言わずに一緒に行こうよ、と言ってくれたら」なんて期待していたんだろう。

アテが外れた私は、気付いたら半泣きだった。そして、「ママがいなくていいなら、二人と犬とで公園行きなよ!もう帰ってこないからね!知らんよ!」と言い放ち、勢いよく家を出てしまった。

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「あーやってもうた、どないしよ…」と思いながら、朝の9時過ぎに行く場所もなく、歩きながら大阪の実家に電話していた。

公園のベンチに座りながら、母に話した。結局公園やないか。母は、「うんうん、そんなこともあるよな」と言いながら話を聞いてくれた。ひとしきり話を聞いた後、「お母さんも、今のあなたと同じように、いろいろ思い詰めた時期があったのよ」と、はじめて打ち明けてくれた。

ひとりで私たち姉妹を育ててくれた、強く優しい母。私たちには弱みを見せたことがなかったから、人知れず思い詰めていた時期があったなんて驚いた。

「お母さんは、子どもたちへの責任を全うせなあかんと思って、立ち直れたんよ。何かアンタめっちゃ疲れてるから、今日は美味しいもの食べて、ゆっくり寝なさいよ」母にそう言われ、電話を終えた。

次に妹にも電話したが、妹も「お姉ちゃん、何か疲れてるから美味しいもん食べに行き」と言ってくれた。2人の男の子の、肝っ玉母ちゃんになりつつある妹は、「自分の心の健康が大切やねんから、家事は適当でいいんやで」と言った。そして、「相手がこうしてくれるかな、とか期待したらあかん。期待が外れたら、悲しくなるから。だから、せめて今日は自分のやりたいことを思い切りやって、気持ちを切り替えような。美味しいもん食べて帰って、普通にお風呂入って、いつも通り寝たらええんやで」と話した。

小さな頃は、どこに行く時も私の後ろに隠れていた妹なのに、いつからこんなにしっかりしていたのだろう。いつの間にか、幼いのは私の方だ。

電話を切った後、行くあてもなく電車に乗った。「誰かに会えないかなぁ」と思いを巡らせるも、ここは東京。昔からの友達は少ないし、数少ない友達には家庭もある。

一人、思い付いて連絡してみるも、「今、義理の実家やねん〜」とのことだった。みんな、妻業も母業も頑張っている。いま何業もこなせていない自分のことは考えないようにした。GWの満員電車で泣きそうだったから。

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気付いたら、銀座にいた。会社帰りに友達や夫とよく立ち寄った思い出の場所だ。何を買うわけでもなく、8年ぶりの思い出の場所をめぐる。新しい建物もできていて、お店も変わっているけど、懐かしい。

一人暮らしで予定のない休日を過ごしたカフェも、結婚指輪を買ったお店も、友人とウインドウショッピングした通りも見かけた。子連れだと来るのは難しかったので、来れてよかった。

来たかった懐かしい場所に来れて、私は、切り替えられるだろうか。世のお母さんたちも、みんないろいろあるんだろうな。でも、子どもや家族のために、諸々ひっくるめて飲み込んで、やっぱりたまに爆発しながら折り合いをつけて、母業や妻業や仕事をこなしているのかな。

久しぶりのデパートでも、目に留まるのは子ども用品ばかり。さて、何時に帰ろうか。またしばらく吸えないだろう、懐かしい空気を思い切り吸い込んで駅に向かった。

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(後日談)
暗くなり、気まずさを感じながら家に帰ると、お風呂上がりの娘が私に気付いた。そして、泣きながら「ママ、ごめんね、公園一緒に行きたかった〜!」と駆け寄って抱きついてきた。「謝らなくていいよ、ママの方がごめんね」といいながら、私は娘の頭を撫でた。

リビングに入ると、夫も正座しながら「きつい言い方してごめん」と謝ってきた。謝られると思っていなかったので、すごく驚いたが、謝られたついでに、日頃思っていること(家事育児の分担など)をちゃんと話し合った。

何はともあれ、家に私の居場所があってよかった。母業も妻業もライター業も、やっぱり頑張ろう。

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