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言葉を紡ぐ責任

「ペンは剣よりも強しって言うけど、下手したら命を奪うからな」

記者のころ、取材先から言われた言葉だ。
当時、ある事件を担当していた私は、容疑者・被害者どちらの周辺も取材していた。どちらにも家族があり、人生がある(あった)と知ったから、冒頭の言葉がどんなことを意味するのか、容易に想像できた。

ただ、いくら取材先に普段よくしてもらっていても、真実を世に伝えるのが報道の使命だ。馴れ合っていてはいけない。時には取材先を裏切ってでも、情報を出さないといけない場面もある。

そんな場面で言われた「下手したら命を奪うからな」

新卒あがりのひよっこだった私は、その言葉の重さに正直怖くなった。
それでも、ようやく世に出した情報は真実だという自負があったから、必死で「これが私の仕事です」と強がった。

紡いだ言葉を世に出すことがどれほど責任を伴うことか、あの時の光景と言葉は、今も鮮明な記憶のままだ。

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今は、記者やライター、作家など言葉を紡ぐことを生業とする人でなくても、SNS等で気軽に発信できるようになった。悩みに悩んで発した言葉も、何気なくつぶやいた言葉も、不特定多数の人の目や耳、そして心に入るようになった。

だからこそ、どんな人にも、言葉が誰かの命を奪う可能性を持つ剣だということを知って欲しい。

そしてこれからも私は、言葉が持つ大きな力を、誰かを勇気づけたり、社会を少しでもよりよくするためのものとして使っていきたい。

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