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見えなくても読書

見えなくなって一番辛かったのは漫画が読めなくなったこと。
漫画だけじゃなくて読書も好きだったので、見えなくなったら本も読めないんだと絶
望的な気持ちになった。
視覚障碍者の読書手段は点字しかなく、自分が点字が読めるようになるなんて、考え
もしなかったからである。

しかし、見えない人の生活についていろいろ情報を集めているうちに視覚障碍者の読
書環境についても知ることができた。

どうやら、各地に点字図書館なるものがあり、ここには点字図書のほか録音図書とい
うのがある。これは朗読ボランティアさんたちが活字の本を音読し、カセットに吹き
込んでくれているものである。
私が見えなくなった当時は今は昔、カセットテープの時代だったのだ!!

世の中には音訳点訳されていない本もたくさんあるので、そういう本が読みたい場合
は、ボランティアさんに対面朗読をお願いすることもできる。
私も知らなかったが、地域の図書館にはたいてい対面朗読室と言う小さい部屋があっ
て、そこで対面で読んでもらえるのである。

当時、駅やコンビニで雑誌を買って読む事ができなくなってしまった私は、1時間待
ちの病院に行くときなどは、診察券は忘れても朗読カセットは忘れるなとばかり、カ
セットを何本もカバンに入れていた。


今は盲人世界にもデジタルの波が押し寄せ、カセットはほとんど駆逐され、録音図書
も音声DAISY(デジタルアクセシブルインフォメーションシステム)形式になった。
今まで、カセットを何本も持ち歩かなければいけなかったのが、SDカードに何冊分も
の本のデータを入れて、専用の小さい機械で再生したり、スマホで再生できるように
なった。

また、図書館からデイジーのディスクを送ってもらわなくても、サピエ図書館と言う
サイトから音声データをダウンロードできるようにもなった。
点字図書もここからダウンロードして音声出力することができるようになったので、
点字ができなくても点訳図書を読むことができるようになった。機械音声なので聞き
にくい事この上ないけど、何もないよりはましである。

点字ユーザーも、小さい点字ディスプレイの機械にデータをダウンロードして、読書
を楽しんだり勉強したりしている。

点字図書は活字本100ページくらいの物でも大きい点字本3冊くらいになる。以前はそ
れを郵便で図書館から送ってもらっていた。。
郵便局の人に届けてもらうのも大変な上、見えない人が巨大な本を何冊も持って郵便
局に返しに行くのはもっと大変。
だからダウンロードしたデータを小さい機会のピンディスプレイで読めるのは大変あ
りがたい事なのである。

でも、音訳点訳は制作に時間がかかるし、タイトル数も限られてしまう。
読みたい本を買ったその日に読めないどころか、何か月、長い時は何年も待たなけれ
ば読めなかった。


そうこうしているうちに、kindleがiPhoneのボイスオーバーで読めるようになった。
機械音声で漢字の読みもうじゃじゃけていたりするけれど、視覚障碍者的には買った
その日に本が読めるというのは夢のような話である。
それに、kindleには、ニッチすぎて点訳や音訳にはない本もあったりするので私のよ
うなオタクは諦めていた本にも出合えたりした。

そして最近はオーディブルと言う選択肢も増えた。こちらも音訳点訳にないほんがあ
る。
声優さんやプロのナレーターが読んでいるので、クォリティーも高く、ビジネス書も
充実している。


長いカセット時代を経て、ここ10年くらいのデジタル化の波は視覚障碍者の読書環境
をドラスティックに上げた。

半面、まだカセットにしがみついていたり、PCやスマホと言う高いハードルを越えら
れない視覚障碍者もいる。

この高いハードルを越えられるかどうかは偏に努力と根性なのかもしれない。

いつも面倒くさい事は避けて通りがちな後ろ向き盲人の私も、ここだけはオタクパワ
ー全開で頑張った。

漫画は読めなくなってしまったけれど、本はまだ読める。見えなくなってもできる読
書が趣味だったのは大きいアンラッキーの中の小さなラッキーだったのかもしれない


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