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読書感想文 ハーベン・ギルマ著 「ハーベンハーバード大学法科大学院初の盲ろう女子学生の物語」

もう一年以上前に点字図書館にリクエストしていた本の音訳ができてきた。
点訳や音訳本はリクエストしてからできてくるまで1年以上かかるのはデフォルト。

最近はオーディブルとかキンドルとか、点訳音訳されていない図書も手に入るように
はなった。けれど、いずれにしろスマホが使えることが前提。今回この本を音訳リク
エストしたのはより多くの視覚障碍者に読んでほしいと思ったからだ。


ハーベンさんは盲ろうという事だが、弱視軟調でヘレンケラーのような全く聞こえな
い見えないではない。

両親はエリトリアからの移民。
恥ずかしながら私はエリトリアも知らなかったし、ましてやエチオピアとの関係も知
らなかった。まずはご両親がアメリカに来た経緯がそれだけでドラマになりそうな展開。


アメリカに移住してからも、親戚の結婚式などイベントがあると、家族でエリトリア
のおばあさんのところに帰っていたようである。親戚一同集まって準備をするのだが
、弱視難聴の彼女も不通に労働力として駆り出されていた。

ほとんど見えない子供に包丁を持たせて大人に混ざって手伝いをさせる。親も親戚も
意識はしていなかっただろうけれど、こういう環境が彼女を自立に導いた一助になっ
ているはずだ。

そんな両親も高校生の彼女がアフリカのボランティアに行くことには反対。「危ない
から」は世界共通。障害を持つ人たちにとっての一番の壁だ。親の立場ならわからん
でもないけれど、やはり壁は壁。

結局周りのサポートもあり、両親も説得し、アフリカに行くことができ、彼女はさら
に自信をつけていく。

その後大学に進学するけれど、そこでも苦労は絶えない。
全盲ではないからカフェテラスの行列には並べるけれど、メニューがわからない。騒
がしい場所では人の声は聞こえないので音読してもらうという選択肢はない。そこで
事務局にメニューの点訳をお願いするけれどなかなか通らない。

日本の障碍者差別禁止法も有名無実っぽい感じだけれど、障碍者の権利条約がしっか
りしていると聞いているアメリカでもこんなことがあるのかと驚いた。

その他でも大学生活の中でバリアを感じることはしばしば。それらを解消すべく彼女
はその後ハーバード大学法科大学院に進学する。そして障碍者の権利を主に扱う弁護
士として活動を始める。


「盲目であるという事は単に資格がないだけ。それ以上でもそれ以下でもない。」
彼女が大学に行く前に言っていたLCBという施設ではこのような考えの普及を目指し
ている。

必要なツールを使ってトレーニングすれば見えなくても見えている人と同じように何
でもできるはず。
その通りだと思う。でも実際はかなりハードルが高いのも事実。

アクセシビリティー的にお手上げな部分はともかく、努力すれば音声出力である程度
使えるはずのスマホが使えない視覚障碍者はまだまだたくさんいる。
見えれば一目瞭然のところ、見えないと課されたハードルが10倍の高さになるからだ



見えづらく聞こえづらいハーベンさんの前には進むたびに次から次に壁が立ちはだか
った。それでもその壁を乗り越えられたのは、高校時代から成績オールAを取れる能
力と根気強さがあったから。


障害を持たない人々に比べて障害がある人は劣っているというエイブリズムという考
えがまだまだ一般的だが、これは間違っている。
ハーベンさんより優秀な健常者がどれくらいいるか考えてみれば自明だろう。

彼女は極端な例だとしても、別に能力が高いわけでも何でもない私が料理をしたり、
電車に乗ったりしているだけでもほめそやされるのはエイプリズムの考えが根底にあ
るからだろう。
見えない人は何もできないと思い込まれているのだ。

しかし一方では本当に何もできない人もいる。鍵がかかっていないトイレから出られ
ない人、お弁当の蓋や缶ジュースのプルトップも開けられない人もいる。
障害が重くなればなるほど個人差が大きいので、個人を見てほしいというのはいつも
私が言っている事。


実社会でアクセシビリティーやインフラの不整備によって不利益をを被っているのは
能力の高い障碍者。
ハーベンさんのような優秀な人は必要なツールを使ってトレーニングすれば見えてい
る人と同じように、いや、それ以上に何でもできるはずだからである。


最後に、ハーベンさんは総括として障碍者向けのアクセシビリティーの向上、そのた
めに発信していかなければならないことなどについて書いている。
これはもうすべて私もその通りだと思ったのでぜひ実際に読んでいただきたい。

一言で障碍者と言っても考え方も能力も様々。
中途障害の私は「見えない」事の不自由さはもう不幸の領域だと思っている。

インクルーシブだ多様性だと耳ざわりのいいことがメディアで発信されているが、残
念なことに今も実社会のベースにあるのはエイブリズム。

ハーベンさんのような優秀で機動力のある人が中心になって、本当の意味でのインク
ルーシブな社会を作っていく推進力になってくれるなら、私のようないじけた後ろ向
きな盲人も虎の威を借る猫となって後ろからついて行きたい。
「合理的配慮何て絵に描いた餅」なんて愚痴っていても何の解決にもならないのだ。

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