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見えなくても数学

自慢じゃないが、私は「数学ができないから私立文系」の典型である。

算数は小学校1年で、繰上りとか繰り下がりとかが理解できず、ドロップアウト。
「10の位を借りてきて」とか、よくわからなかった。

ちなみに理科も電池の直列はわかるけど、並列でどうして電気がうまく流れるのかわ
からなかった。いや、今でもわからない。

前回触ってもわからない話を書いたが、見えていてもわからない数学、見えない人は
どう理解しているのだろうか。

例えば、二次方程式は二つの式が上下に並んでいるのを全体として見て解いていたが
、点字では一つの文字しか追えないので、とりあえず問題の式を全部いったん覚えて
おくのだろうか。

中学生の時、図形の応用問題で丸の中にいくつか線が引いてあって、その中のわけわ
からん所の角度を求められるという問題があった。
私はこんなもんわかるかと思ったが、答え合わせで、いくつか補助線を引くと、既に
習っている三角形の角度などの規則を使って解くことができた。いやいや、そんな補
助線思いつくかいな!!

盲学校では、こういう「見えてなんぼ」の図形はどうやって勉強しているのだろうか



ちなみにはり灸科の教科書は全部文章だった。人体の地図とも言える解剖学の教科書
も、体のツボの位置も全部文章で表されていた。

「○○筋はここから出ていてここで終わっていてこの部分で二つに分かれている」み
たいな書き方をされている。ツボの説明も同様で、手首の外側上2寸と言うような感
じである。

筋肉も神経も血管もツボも、体中あちこち交錯しているはずだが、私は全体像が全く
把握できなかった。
見えなくてもできるという前提の鍼灸も、百聞は一見に如かずの壁に阻まれた。

実技の才能がない事に加え、座学のモティベーションもここらへんでついえた。

ちなみに見える人向けには解剖学もツボもわたりやすい図解テキストがある。

仕方ないので私はとにかく鬼の丸覚えで国家試験を突破した。
ちゃんと理解していたわけではないので、今はもう何も覚えていない。


卒業後、ツボの勉強には、経穴人形と言う体中のツボとツボのルートが書いてある人
形がある事を知った。
でも触ってわからない私は、きっと人形を使ってもどこがどこにつながっているか理
解することはできなかっただろう。


しかし、こんなハンデがあるのにもかかわらず、ほとんど授業にも出てこなかったク
ラスメイトの全盲チート君は、「この筋肉はここから出てここで終わっているからこ
う動くに決まってるよね」とちゃんと理解していた。

数学科を出ている別のチート君に図形の話をしたら、確かに見えないとデメリットも
あるけど、見えない方が有利な事もあるんだと言っていた。

見えると画像に惑わされてしまう事があるけれど、見えないと余計な情報がないから
想像で補える部分が多いとの事だった。

驚いた!彼らは視力がどうのという問題ではなく、脳みその作りが違ったのだ。


社会全体でもチートはごく一握りで後は普通とそれ以下である。

私のような普通かそれ以下の視覚障碍者は、触って何でもわかるわけではないし、一
目瞭然な物も何度も聞き返したり記憶したりしなければならない。

点字は一文字づつしか追えないから、文章を読み返そうとすると、目的の部分に戻る
のにとんでもなく時間がかかる。

数学はもちろんの事、文字処理のできない視覚障碍者が何かを習得するというのは見
えていた時には考えが及ばないくらい困難がてんこ盛りなのであった。


テストの点字受験は1.5倍、それ以上の時間をくれる配慮はあるが、これもいろいろ
な意味で大変。全盲の友人はトイレが心配で、公務員試験におむつを履いて行ったそ
うだ。


話は数学に戻るが、私が盲学校の鍼灸科にいた時も今も、高校の数学の先生は全盲の
人だ。彼らは私と同じ視覚障碍者だが、多分脳みそが違う世界の人なのだろう。

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