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バスカヴィル家の膝

こちらは2021年5月31日からClubhouseで朗読リレー(#膝枕リレー)が続いている短
編小説「膝枕」(通称「正調膝枕」)の派生作品となっております。

二次創作noteまとめは短編小説「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯、膝番号、
Hizapedia(膝語辞典)などの舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。

短編小説「膝枕」と派生作品|脚本家・今井雅子(clubhouse朗読 #膝枕リレー)|n
ote
5月31日からClubhouseで朗読リレー(#膝枕リレー)が続いている短編小説「膝枕」
の正調、アレンジ、外伝まとめ。
note.com



突っ込みどころ満載ですがおふざけですので、コナン・ドイラーの方など、くれぐれ
も殺しに来たりしないでね。





バスカヴィる家の膝



休日の朝。独り身で恋人もなく、打ち込める趣味もなく、その日の予定も特になかっ
た男は、チャイムの音で目を覚ました。

ドアを開けると、宅配便の配達員がダンボール箱を抱えて立っていた。オーブンレン
ジでも入っていそうな大きさだが、受け取りのサインを求められた伝票には「pillow
」と書かれていた。

「え?!pillowって・・、枕?」

しかも配送元はU.K.。

「受け取ってもらって、いいっすか?」

配達員に急かされ、男は「取扱注意」のラベルが貼られた箱を両腕で受け止めると、
お姫様だっこの格好で室内へ運び込んだ。

とりあえず適当にガムテープを引っぺがす。箱を開けると、女の腰から下が正座の姿
勢で納められていた。届いたのは「膝枕」だった。白いレースのスカートから膝頭が
二つ、顔を出している。


同封されていた手紙はイギリスのおもちゃメーカーファントムハイブ社というところ
からだった。
新製品を開発したので、無作為に選んだ世界各国の人にモニターとして自社製品を使
ってもらい、アンケートに答えてほしいとの事だった。

手紙は当然英語だったが、男はぼちぼち英語が読めたのである。

「しかしなんで俺なんだ?!」


送られてきた商品は見た目も手ざわりも生身の膝そっくりに作られている。さらに、
感情表現もできるようプログラムを組み込まれているようだ。だが、膝枕以外の機能
は搭載していない。膝を貸すことに徹している。


男は恐る恐る膝枕に頭を預けてみた。マシュマロのようなふんわりとした感触が男の
頭を受け止める。白いスカート越しに感じる、やわらかさ。レースの裾から飛び出し
た膝の皮膚の生っぽさ。天にも昇る気持ちだ。

外国から送られてきたなんだかわからない商品。ちょっとヤバいかな?いや、相当胡
散臭いだろう。

頭ではわかっていたけれど、その心地よさに男はおぼれていった。

この膝があれば、もう何もいらない。

男は職場にいる間も膝枕のことが気になって仕事が手につかなくなった。


そんなある日、印刷された活字を貼り合わせた一通の怪しげな封書が届いた。またま
た英語である。

「生きることと理性の価値を尊重するなら沼地から遠ざかること」

「なんじゃこれは!活字の貼り合わせって、昭和か!?・・ってか沼地ってどこだよ!こ
の辺沼地ないし!}」

宛名は雑な手書きで、消印はチャリングクロス。

「またイギリス?」

さすがの男も何か言い知れぬ不気味さを感じた。

「この膝枕、明日になったら、二度と戻って来れない遠くへ捨てに行こう」

これで最後だと男は膝枕に頭を預けた。別れを予感しているのか、膝枕は身を強張ら
せている。

膝枕に頭を預けながら、男は今回の顛末について考えようとしたが、その心地よさに
いつしか寝入ってしまった。


翌朝、目を覚ました男は、異変に気づいた。

「あれ? どうしたんだ? 頭が持ち上がらない」

頭がとてつもなく重い。横になったまま起き上がれない。それもそのはず、男の頬は
膝枕に沈み込んだまま一体化していた。皮膚が溶けてくっついているらしく、どうや
ったって離れない。

「これじゃあまるで、こぶとりじいさんじゃないか」

いよいよ起き上がれなくなった男の頭は、ますます膝枕に沈み込む。

その時、車の急ブレーキの音とともに玄関のかぎが開き、一人の女性が飛び込んでき
た。

入ってきたのは半年前、このマンションを借りる時にお世話になった不動産屋「ホー
ムズ」の営業、ヒサコだった。

「ああ、遅かった!!」

ヒサコが悲壮な声を上げる。

男は膝枕を頬にくつけたまま車に乗せられ、いずこかへ運ばれていった。

「ヒサコさん、なんでうちの鍵持っているんだ?ああ、不動産屋だからか・・。」

男は運ばれながら、今更どうでもいいことを思った。


その後男が聞いたことを要約すると以下のようになる。

ヒサコはMI6の中でもXファイル的な事件専門のエージェント。
こういう人は世界各国に散らばっており、一般市民に混ざって生活しているらしい。

今回は、イギリスの大金持ち、バスカヴィル家の当主が亡くなりその後継者争いが発
端だった。

「そんな遠くの金持ちの事件がどうして俺と関係あるんだ?」

どうやら同じ時期に同じマンションの隣に引っ越してきたヘンリーさんという外国人
が、そのバスカヴィル家の正当な後継者だという事だった。英語がぼちぼちできる男
は、同時期に入居した好もあり、ヘンリーとは廊下ですれ違うと軽く話をするように
なった。

「えっ?!ヘンリーさんってカナダで農業やってたって言っていたぞ。」

ヘンリー・バスカヴィルは、今回後継者としてカナダからイギリスに呼び寄せられた
のだが、何か陰謀のにおいがするという事でイギリスの探偵から、ほとぼりが冷める
まで身を隠した方がいいといわれた。そこで、前から興味があった日本にしばらく滞
在することにした。

「それであの膝枕は何なんだ?!」

旧家であるバスカヴィル家には何世紀もの昔から「バスカヴィル家の膝」という呪い
伝説がある。これまでも生きた膝枕という呪いアイテムで、密かに政敵を暗殺してき
たらしいなんていう噂がまことしやかにささやかれてきた。

ファントムハイブ社というおもちゃメーカーはダミーで、「生きた膝枕」は「AI搭載
」という事にしていたらしい。

今回はそれを手に入れた傍系が密かにヘンリー暗殺をたくらんだ。

謎の昭和の手紙はロンドンの探偵からで、まだしばらくイギリスには戻ってくるなと
いう警告文だった。ちなみにバスカヴィル屋敷は沼地の近くにあるらしい。

「そんなの知るか!!しかも今は紙についた指紋もわかるし、新聞の活字何てどこのど
の輪転機で印刷したかもわかるそうじゃないか!大丈夫かよ、その探偵!!
第一なぜヘンリーじゃなくてうちに届いたんだ!!」

暗殺をたくらんだバスカヴィル家の傍系がヘンリーの居場所をつきとめたものの住所
を微妙に間違えた。それに加え日本の配達員がネイティブの人が書いた筆記体が読め
ず、住所がここだったから、ま、いいかと男のもとに配達した。要するにとんだとば
っちりである。

「なんつーいい加減!!ばかか!どいつもこいつもばかなのか!!」

男が突っ込む。

「それで俺が死んだらどうする?!犬死か?!」


間一髪で男は特殊施設で膝枕の呪いを解いてもらった。膝枕もそこで危険物としてお
焚き上げされ、もうバスカヴィル家の呪いはなくなった。


その後、殺人を企てた一族の傍系はロンドン警察によって一網打尽にされたらしい。

無事に莫大な遺産を相続したヘンリーは、事情を知り、お詫びに男が一生働かなくて
いいくらいの財産を贈与してくれたとかそうでもないとか。ル

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