乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢の膝枕に転生してしまった

しろいねこのかわい いねこです。

はめフラネタで話を書きたかったのですが、なかなかストーリーを思いつけませんで
した。

しかし先日、高橋郁子さんの「月想」の練習をした後、アニメの「シャーマンキング
」を見ていたらいきなり話が降ってきました。

相変わらず今井先生、やまねさんの心の広さに胡坐をかきつつ、」月想」の幽玄の世
界までぶち壊してしまいました(汗)

「こりゃないっしょ」など、ありましたらいつでも取り下げますのでお知らせくださ
いませ。

相変わらず誤字脱字などあると思いますが、ご容赦下さいませ。





    乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令状の膝枕に転生してしまった



小刻みな上下運動が、脛の下の柔らかなクッションを介して伝わってきた。
地震が起きているのだろうか。
そもそも、ここがどこなのかワタシにはうかがい知ることができない。

振動が止まった。
ホッとしたのも束の間、背後から工場のプレス機のような音が聞こえた。
今度は、ギィという音と共に、暗闇がわずかに綻(ほころ)んだのを感じた。
次の瞬間、ワタシは自分の体が、持ち上げられたのに気付いた。
「うへ、おもっ。なんだこれ」
?と男の人の声が聞こえた。
まあ、レディに向かって重いとは何て失礼な奴だ。

「まくら……って重過ぎるだろ」
ワタシはお尻を下にした逆三角形の形で揺られた。

お姫様抱っこはね、足を伸ばすから安定するんだよ。

膝と腰への負担がピタッと止まった。
次の瞬間、体がフワッと浮いたように思った。
ワタシは2人の男の人の間を移動したのだということが分かった。
今度は、かかと、お尻、腰が正確に積み上がっているのを感じた。

周期的な振動が止まった。

「お嬢様、御父上からの贈り物です。」

扉が開き、執事らしき男がワタシを床におろした。

腰の上で、ガリッ、ビリビリという音がしたかと思うと、ワタシの世界はパッと明る
くなった。

すると、2本の小さな手がぬっとワタシの脇を通った。
ワタシはゆっくり持ち上げられ、今度はゆっくり降ろされるのを感じた。
なんということだ。ワタシは箱の中にいたのだ。

しかも、しかも、なんてことだ。
ワタシは腰から舌だけになっていた。
それも星座に固定されている。

第一ここは、とこなんだ。
少なくとも東京ではなさそうだ。
なんか、中世ヨーロッパの貴族のお屋敷!?・・まあ、実物を見たことはないけど、転
生物のラノベとか漫画に出てきそうな・・。

ええ!?もしかして、転生!?マジで転生!?

しかしなぜ腰から下!?しかも正座固定!?

パニックに陥っているワタシをよそに、小さな手がワタシを床に置く。

落ち着け、落ち着け、ワタシ!

「何?バージンスノー膝枕?」

女の子の声がした。

ええー!?膝枕だったんかい、ワタシー!!

スライムや蜘蛛に転生した話はあるけど、膝枕はないでしょう!

落ち着いて周囲を見回す。広くてきれいな部屋なのに、お菓子や本や何だかわからん
農機具みたいなのが残念なほどにとっちらかっている。

そしてこっちを見ている女の子。

「魔法のマコちゃん」に出てくる富田トミコかYAWARAに出てくるさやかお嬢様かと思
うほどの意地悪顔!

ひいいいい!!ワタシ、これから踏みつけにされるの?足蹴にされるの?壁にたたきつけ
られるの?
転生するや否やゲームオーバーなんてシャレにならんぞ。

女の子の表情が少し緩んだ。

「まったく、お父様、相変わらず意味不明なんだから。元気のない娘の差し入れにひ
ざまくらって・・。」

なんか様子が違うぞ。

「バージンスノー膝枕・・。じゃあ、あなたはスノーちゃん?いや、白いからしーち
ゃんね。」

いきなり距離縮まったーっ!!


意地悪顔の伯爵令嬢ヒサコも実は転生者だった。

ここはヒサコが前世でやっていた乙女ゲームの世界。
ヒサコは悪役令嬢でこの国の第一皇子グルコサミンの婚約者。
でも王子様は主人公に恋をする。
あぶれたヒサコは死刑かよくても貧乏農場送りになるエンディングである。

貧乏農場っていつの人生ゲームだよ!?

ヒサコは死刑をどうにか回避して貧乏農場行を覚悟している。
だから今から屋敷の庭に家庭菜園を作って農業の勉強をしている。
前向きで偉い奴だ。


ヒサコとワタシはすっかり仲良くなった。
アンとダイアナのような腹心の友となったのだ。


「ねえ、しーちゃん、そのボロボロの着物みたいなの、あんまりだから、こっちの白
いスカートにしない?」

ワタシは運ばれてきた時から、なぜかボロボロの着物のきれっぱしみたいな物を履い
ていた。
それを見かねてヒサコがかわいいレースのスカートに履き替えさせてくれたのだ。

しかし、どうしたことだろう。ワタシは着替えたとたん全身がゾワゾワし、いてもた
ってもいられなくなり、部屋中ゴロゴロ転げまわった。

驚いたヒサコは「ごめんね、メイドに洗濯してもらったらまた元の着物を着せてあげ
るからね。」と言ってくれた。

ごめんはこっちだ。でも、一体どうなっているんだろう。私にもわからなかった。


そんなことがあったにもかかわらずヒサコは仲良くしてくれた。

ワタシの膝でゴロゴロしながら庭師から教えてもらった野菜の作り方のコツや、パー
ティーで出たおいしい食べ物の話をしてくれた。

友達から借りてきたロマンス小説を読み聞かせてくれたこともあった。

ワタシとヒサコの友情は一層硬いものになっていった。


そんなある日、ヒサコがいつになく落ち込んだ様子で戻ってきた。
ワタシは膝をにじらせヒサコのもとへ駆け寄っていった。
ため息をついたヒサコはワタシに頭を預けると話始めた。

「しーちゃん、とうとう恐れていた日がやってくるわ。」

来月、伯爵家で盛大なパーティーが取り行われる。
そこで非公式に王子とヒサコのお見合い的な事が行われるらしい。
それだけならいい。そこに何と、乙女ゲームの主人公も招かれているらしい。

ゲームでは双子の王子は揃って主人公に恋をして、それを阻もうとしたヒサコは局系
に処されることになっている。

「どうしよう」
覚悟をしていたとはいえ、ヒサコは実際の乙女ゲームの悪役令状みたいな性悪ではな
い。
ワタシは友達としてできることはないだろうか。膝枕で心を少しでも和ませるくらい
しかできないのだろうか。膝枕な自分が恨めしい。


無策のまま時は流れ、とうとうパーティー当日が来た。
王子との初顔合わせなのに以上にテンションが低いヒサコに、伯爵も奥方もメイドた
ちも皆心配していた。

私の心配をよそに、完璧にドレスアップしたヒサコはメイドたちと部屋を出て行った


どのくらい時間が経っただろう。私はいてもたってもいられなくなり、パーティー会
場に膝をにじらせて行った。
忙しく立ち働く使用人たちの間を縫って、ヒサコを探す。

広間の中心にいる背の高い青年二人は双子の王子、グルコサミンとコンドロイチンだ


キラキラの金髪碧眼、さすが乙女ゲーの王子様の存在感は半端ない。

そして二人の間にいる清楚な美少女。主人公ちゃんだ。
三人はシャンパングラスを片手ににこやかに談笑している。

ヒサコはどこ・・・!

あの食いしん坊がケーキに見向きもせず真っ青な顔で部屋の隅にたたずんでいた。

しっかりしろ、あんたそんなキャラじゃないでしょう!

ワタシは思わず叫んでいた。

「オーバーソール、月想に出てくる奥さん!!!!!」

するとどこからともなくボロボロの小袖をまとった薄幸そうな女性が現れ、王子二人
の背中を手拭いで撫で、そのままさっと消えた。

えっ、何が起きたの?

女性の姿は誰にも見えていなかったようである。

すると突然、談笑していた王子二人が怒涛のように私のもとに駆け寄ってきた。

「いやー、やっと巡り合えたよ、君は私の運命の膝枕だ。
「「愛しているよ。今日から君は僕たちのものだ。」

パーティー会場が一瞬固まった。

そこに突然響いた大声。

「見つけた!こんなところにあったのか!!」

王子に続き、中年の男がワタシに駆け寄ってきた。


かれは魔法賞の物品管理官で、先ごろ盗まれた特急呪物である膝枕を探していた。
膝枕は幾種類かあり、それぞれに持ち霊がいる。
媒介を通じて持ち霊を召喚し、強い呪力で他者に不利益を与えることができるため、
魔法省以外には存在さえ極秘になっている。

先日その中の一つが行方不明になり、公表はされていなかったが、省内ではパニック
が起きていた。

ちなみに、バージンスノー膝枕の持ち霊は「月想に出てくる奥さん」。

平安時代、貧しさゆえ、相思相愛だった夫と引き離され、失意のうちに亡くなった女
性の霊。
彼女の死後、奥さんを忘れられなかった夫が戻ってきた時に死してなお夫と交わった
というシュールな逸話を持っている。

彼女が手拭いで背中を撫でると、その男はバージンスノー膝枕のとりこになってしま
うのである。
媒介は死して夫と交わった時に着ていた小袖。

・・・だからこのきたない着物のきれっぱしみたいなのを脱がされた時、いてもたっ
てもいられなかったのだ。


ヒサコが落ち込んでいた時、心配した伯爵が、魔法省の友達に、落ち込んでいる娘の
ために、何か慰めになる魔法アイテムはないかと相談した。
いろいろよくわかっていなかった文官である彼は、「膝枕なんていいんじゃね」くら
いの軽い気持ちで、伯爵に膝枕を手渡した。

奥さんの霊は使いようによっては、傾城と言われた花魁レベルで敵対する国の情勢を
ひっくり返すこともできるくらいの強力な呪力を持っているのである。

特急呪物ってわたしゃ両面宿儺かい!?


私は魔法省の位倉庫に戻されるはずだったが、それを阻止したのがキラキラ王子二人
である。

「膝枕は私たちが城で管理します。私の私室で管理しますのでセキュリティーは万全
です。」とグルコサミン。

「いや、武術に優れた私の部屋に安置したほうが安全です。」
とコンドロイチン

おおい、ヒサコ、どうにかしてくれー!!とひそかに叫ぶが誰にも聞こえない。

ヒサコを見ると自分の危機は去ったとばかりに床にへたり込んでいる。薄情な奴だ。


そうこうしているうちに、ワタシは再び箱に入れられ城へと運ばれていったのであっ
た。


それからどうなったかって?

私は一日おきに二人の王子の話し相手兼膝枕として国に貢献している。
王子は二人とも優秀で性格もよく、この国の将来は安泰である。

一つ、お世継ぎ問題以外は。

破滅フラグを回避したヒサコは相変わらず農業に従事しているようだが、、時々非公
式に王子に会いに来ることを口実に、ワタシに会いに来る。

一応、グルコサミンとヒサコの婚約は、表面的には何の滞りもなく結ばれた。


ヒサコはワタシが破滅フラグをへし折ったことは知らないけど、ワタシたちの友情は
、今も変わらない。

主人公ちゃんことマリアは、さすが主人公、とってもいい子で王子たちともヒサコと
もすっかり仲良くなった。

侯爵家やお城の離れで、4人は時々お茶会を開いて楽しい時間を過ごしている。

マリアはお菓子作りが得意で、そこら辺でも食いしん坊ヒサコと馬が合っているよう
だ。

めでたしめでたしである。

ワタシも王子たちといると、なぜか膝の具合がよくて、立ち上がれるのではないかと
思う事もある。
呪力もみなぎり、国の一つや二つは軽く滅ぼせそうだ。
これがなぜかは誰にもわからない。

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