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約5%の少数派とお酒

令和と名付けられた今日では「俺の酒が飲めないのか」とか「酒は飲んで強くなるものだ」とか,そんな馬鹿げていることを口にする方々は流石にもう絶滅危惧種として指定されているものだと信じたいのだが,今回はそんな「お酒(との関わり)」について書いてみる。

導入から軽くジャブを入れたわけだけど,別に僕自身はお酒が悪いものだとは微塵も思っていない。アルコール発酵は(細かい話を抜きにすれば)人間が関係しない現象だし,遥か昔から供物としても扱われていることを考えれば,むしろ神聖なものだと捉えているくらい。

今日では様々な方面での規制や問題化のおかげで(場合によっては過剰に思える部分もあったりなかったり?),そしてこれがお酒についても例外ではないことで,お酒の強要やお酒に関する不適切な対応は徐々になくなろうとしている(と信じたい)。

しかしながら,情報のアップデートを止めてしまったかそれを受け入れられないのか自分と他人は同じだと考えているのかはわからないが,依然として「お酒は飲んで慣れるものだ」とか「自分も昔は飲めなかった(弱かった)けど,飲んでいるうちに飲めるようになった」とか言う方々は存在するし,僕も未だにそんな戯言を浴びせられることがある。

僕としては,もしかしたら飲めば慣れる人もいるのかもしれないが,決してそうではない人もいるということを知れと言いたい。

あと1つ加えるなら,大抵の場合はお酒は嗜好品なんだから,好きな人は好きな人内々で楽しめという話。


飲めるかどうかは遺伝子の問題

厳密な話は抜きにしてざっくりと言えば,お酒(エタノール)を体内に取り入れれば,代謝されてアセトアルデヒドに変換される。このアセトアルデヒドは人体にとっては有害な物質であるが,基本的には体内のアルデヒド分解酵素によって無毒化される。

さて,問題はここにあって,アルデヒド分解酵素が機能するかどうか,言い換えれば毒を無毒化できるかどうかは遺伝子によって決まるというものである。

具体的には,お酒に強いか弱いか,もしくは全く飲めないかは2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2: aldehyde dehydrogenase 2)という遺伝子がGG型かAG型かAA型かによって生まれながらに決定されているということ(当然これもざっくりとした説明で,厳密にはもっと複雑な話になる)。

ALDH2がGG型の人はアセトアルデヒドを無毒化する能力が高い。酒豪と呼ばれる人はまずこの遺伝子型なんだろうね。

AG型の人はアセトアルデヒドを無毒化する能力が低い。注意してほしいのは,この型の人はお酒が飲めるのではなくお酒に弱い体質であるということ。アルデヒドの分解能力はGG型の人と比べて約1/16しかないとか。

AA型の人はアセトアルデヒドを無毒化できない。アルデヒドの分解能力が全くない。極端な話,この遺伝子型の人の飲酒は単純に毒を取り入れていることと同じだよね。

そして日本人のALDH2の遺伝子型の分布はこんな感じらしい(図1)。

図1 日本人のALDH2の遺伝子型の分布。「分解できる」=GG型,「ほとんど分解できない」=AG型,「分解できない」=AA型。(GeneLife®Myself 2.0の結果画面より引用)

遺伝子型は普通は生涯不変なので,特にAA型の人はいくら飲んでも飲めるようにはならない。

もう気付いている人もいると思うが,僕は数少ないAA型の人間である(つまりレアキャラ。崇めよ)。

あと注意すべきことは,GG型の人でもアルデヒドの分解能力が高いというだけで,その人にとっての飲酒が全くの無害であるというわけではない。

遺伝子型の話からは離れるけど,以前は少量の飲酒なら健康に対して有益だと言われていたが,今日では少量でも健康に対してリスクがあるとされている。


AA型の例

これは100%僕の話だけど,全くお酒を飲めないということがどういうレベルなのか,市販の飲料を例に挙げて説明してみよう。

よく「アルコール度数3%はジュースだ」とか「ビール(アルコール度数5%)は水だ」とかいう声を耳にする。

アルコール度数1%未満の微アルコール飲料なども販売されているし,その度数からこれらは清涼飲料水扱いされている。昔からあるものだとホ○ピーとか,最近でもビ○リーとか出ているよね。

だがしかし,残念ながら僕はこの「清涼飲料水」でさえ1本(350 ml)飲み切る前に顔は紅潮するし頭も痛くなる。場合によっては吐き気も出てくる。5%のビール350 mlを飲み切ったこともあるけど,この時は上述のことに加えて平衡感覚もおかしくなった。もちろんどちらも体調に問題はないし空腹時でもなく,飲むペースもゆっくりな状態で。

世間のお酒を楽しむことができる方々,これを読んでどう思っただろうか(別に喧嘩を売っているわけではない)。飲めない人間の「飲めない」のレベルがどんなものか理解してもらえただろうか。


最後まで私の感想です

ということで,「お酒は飲んでも慣れません。訓練しても強くなりません」という話でした。

他方,「お酒飲めないなんて人生の半分損してるよ」という意見については,半分かどうかはわからないけど,飲酒によるポジティブな感情を経験できない点については損失があるなーと思うので真っ向から否定することはない(そもそも最初から持ち合わせていないんだけど)。

それに,沢山のお酒の中から自分好みのものを選んだり味比べをしたりすることを楽しめないという点でも,お酒を飲める人と比べたら楽しみの選択肢が1つ少ないのもまた事実だし。

まあその分,ストレスをアルコールに誤魔化してもらうという選択ができないことや,お酒を買わない分お財布に優しい生活になるというメリットはあるんだけど。

終わりに,繰り返しになるけど,飲めない人の「飲めない」は文字通りの意味です。


おまけ1

以前見たテレビ番組で,早く酔いたいから度数高めの缶チューハイをストローで飲んでいるという人がいた。

もちろんストローで飲んだところで酔いが早く回るわけないし,そもそもテレビ番組自体も人間が作ったものの1つだということは重々承知している。

で,ふと思ったのが,早く酔いたいんなら直腸注入するか気化させて肺で摂取した方が効率的なんじゃないかというね(極めて危険だからやっちゃいけないけど。いやほんとに。面白半分じゃなくても命落とすから)。


おまけ2

最初はこの記事のタイトルを「ルールとマナーを守って楽しくお酒を飲んでいてください」としようと思ったんだけど,飲めなくても飲んでその場の空気を壊さないことがマナーだった時代もあるんだろうなーとか,ノリを大切にすることをマナーだと捉えている人もいるんだろうなーとか,ルールではないのに遵守を求められるマナーとは何者なんだとか,そもそもルールでさえ絶対的普遍的なものでもないよなーとか,そういうことを考えたらこれって不適切だなと思ったわけで。

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