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今週のピストン中本

 どうもこんにちは。

 今まで1本の映画について語ってきましたが、今回は最近観て面白かった映画や読んだ本などについてゆるく語っていきたいと思います。

・『シンクロナイズドモンスター』

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 会社をクビになった事がきっかけでアル中になり彼氏にも振られ、故郷の田舎に戻った主人公のグロリア(アン・ハサウェイ)は、パブを経営している幼馴染の男性と再会し、そこでアルバイトを始める。一方、それと同時に韓国のソウルで怪獣が出現。その怪獣はグロリアの動きとシンクロしていることが分かり...。

 監督はスペイン出身のナチョ・ビガロンド。彼のインタビューを読むと意外な事を語っていました。なんと世界で一番好きな映画監督がヒトシ・マツモト!そう、あの言わずと知れたカリスマ芸人、松本人志作品の大ファンで、『シンクロナイズドモンスター』は『大日本人』の影響を受けているんだそうです。

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 全く関係ない2カ所で起こっている事が、後に繋がる展開は『しんぼる』みたいですよね。

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 日本では松本作品の評価が一般的にも玄人的にもめちゃめちゃ低いので、一ファンとしては嬉しいところです。

・『ザ・ファイブ・ブラッズ 』

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 前回ご紹介しました『ブラック・クランズマン』のスパイク・リー監督最新作のNetflixオリジナル作品です。

 ベトナム戦争帰還兵のアフリカ系アメリカ人のお爺ちゃん4人組が戦死した戦友の遺骨を回収する為にベトナムに舞い戻るのですが、実はもう一つの目的が戦時中に発見して埋めた金塊を探し出す事だった。その金塊を狙う地元のギャングに襲われたり、途中で仲間割れが起きてグチャグチャになるのですが、この映画がすごいのは、その話の中にベトナム戦争や現在のBlack Lives Matterなどの問題が盛り込まれていて情報量が半端じゃないんです。

 この映画の劇盤のように使われているのが、マーヴィン・ゲイの『What's Going On』というアルバムです。

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 興味を持って聞いてみたら、陳腐な表現ですがオシャレで、最近ずっと運転しながらこのアルバムを流しています。そしたら聞いた事がある曲を発見しました。それは『Mercy Mercy Me』という曲で、調べると2003年にトヨタ自動車「ラウム」のCMソングとして起用されていたんです。アルバムと同タイトルの曲『What's Going On』はマーヴィン・ゲイがベトナム戦争に出征していた弟からの手紙にインスパイアされて作った政治的な内容なので、『Mercy Mercy Me』はどんな内容なのかなと思ったら、環境問題をテーマにした楽曲でした。

「あの青い空はどこに行ってしまったの?
風に乗って毒が広がってるのです」

「油が大海をだめにしてしまいました
私たちの海も 魚たちは水銀まみれです」

「放射能が 土の下にも 空にも
近くで生きていた動物や鳥たちも死にかけてます」

 歌詞の内容とかトヨタはチェックしねえのかよ!と思いましたが、まあその辺りはいいかげんなものなんでしょうね。

・『キネマの玉手箱 』 大林宣彦 (著)

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 この前亡くなった大林宣彦監督の遺作、『海辺の映画館―キネマの玉手箱』の公開が間近に迫っていますが、同タイトルのエッセイ、『キネマの玉手箱 』は大林節で色々な映画を語っていて興味深かったです。

 特に「淀川長治に酷評されたスピルバーグ」という章。

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 淀川さんにとってスピルバーグは出来の悪い、かわいい学生だったと語っています。才能はあるはずだから、いつか傑作を撮るだろうという期待を込めて誰よりも早く観て、誰よりも先に貶していたと生前、淀川さんはおっしゃっていたんだそう。『シンドラーのリスト』については「黒澤明さんを尊敬するのはいいけど何も学んでいないわね。」と批判。有名な話ですが『シンドラーのリスト』は白黒で撮られていて途中、少女の着た赤い服にだけ着色されています。

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 これは黒澤監督の『天国と地獄』の重要な場面で、煙突の煙にだけ色がついている演出に対するオマージュと言われています。

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 因みにこの場面は映画版一作目の『踊る大捜査線』でまるまるパクられています。

 個人的に淀川さんが生きていたら『ブリッジ・オブ・スパイ』を観てどう評価するか気になるところです。絶対褒めると思うけどなあ。

・『呪怨:呪いの家』

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 いやあ、超絶面白かったですねぇ!Netflixのオリジナルドラマシリーズになるのですが、1話30分で全6話なので3時間の映画だと考えてもいいでしょう。

 『呪怨』といえば伽椰子の「アアアアアッ...」って声や白塗りのブリーフ少年、俊雄君がひょこっと登場するイメージですが、『リング』の貞子と同じ宿命で、シリーズを重ねるごとにパロディの対象になり怖くなくなっていきましたよね。

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 今回の『呪怨:呪いの家』お馴染みのキャラは一切出てきません。本作のテイストは実録犯罪路線の趣があります。劇中、実際に起きた90年代のいや〜な犯罪史、女子高生コンクリート詰め殺人事件、埼玉連続幼女誘拐殺人事件、神戸連続児童殺傷事件、地下鉄サリン事件などを網羅していきます。そして、その一連の事件が呪いの家とシンクロする展開になる訳です。

 本作が傑作になった理由の最大の功労者は、脚本を手掛けた高橋洋の手腕によるものが大きいと思います。高橋洋は『リング』の脚本で後に続くJホラーブームの火付け役となった超偉大な人なのですが、何故90年代の犯罪史とシンクロさせるストーリーにしたのか?映画秘宝のインタビューでこのような事を語っています。

 平成前夜の88年、黒沢清監督の家でホラー映画作家が集まり、これから来るべきホラー映画についてあれこれアイデア出しをしていたんだそう。それと同時期に連続幼女誘拐殺人事件があって、犯人がまだ捕まる前というのもあり、当時の街の雰囲気が異様だったとの事。犯人がどこに潜んでいるか分からない恐怖。そういう空気が後の Jホラーに繋がる想像力を後押ししていたと思うと高橋洋は回想しています。

 この事件に関して、彼に大きな影響を与えている事が『リング』を観ると分かります。呪いのビデオに頭巾を被った男が何処かを指差している場面があります。

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 これは高橋洋が連続幼女誘拐殺人事件の犯人、宮崎勤の現場検証報道で観たワンシーンから切り取って発想したものです。

 つまり当時のおぞましい現実が高橋洋を始めとするJホラーの作り手の想像力を産み出し、『呪怨』もまた、その中で作られた作品であるという事を打ち出したのが今回の『呪怨:呪いの家』のテーマであるという事です。

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