見出し画像

「自分」とは何か? (2020年代版)

「これからの創造性」を考えるシリーズ、前回の自由意志に続いては「自分とは何か」です。

さっそくですが、「自分」とは何でしょう?

自分というものを考えていたらら良くわからなくなって、本当の自分を探す「自分探し」の旅に出る。何てことはよく聞く話ではないでしょうか。

今まさにインド辺りへ旅立とうとしている人もいるかもしれません。
でも、ちょっと待って! 

「自分とは何か?」という問いに対して、モダンな心理学、脳神経学では一つの見解が主流になってきていまいますので、それを聞いてから航空券を予約しても遅くはないです。

「自分とは何か?」について、以下の2冊の本をベースに説明します。

上2つの本は、進化心理学というジャンルの本です。進化心理学は進化論に基づいた心理学で、人間の体も進化の産物ならば脳だって心だっての産物だ、という考えの学問です。

というわけで、人間の進化のステップごとに追いながら「自分」がどうやってできてきたのか、見ていきましょう。

ステップ1 サバンナで1人でいると死ぬ

200万年前、我々ホモサピエンスの祖先である最初の人類が、チンパンジーの祖先の進化の系統から分岐しました。

この人類の祖先、木に登るのに適していなかったのでサバンナで暮らし始めます。自分より足の速い動物、力の強い動物が多いため、生存がかなり厳しい。猿の時代から群れて暮らしていましたが、グループに属することがさらに重要になったのです。グループに属することに適応していった者が生き残り、属さない個体は種を残さず死にぬことで、人類は進化していきました。

ステップ2 他人の心を読むのが上手い人が生き残る

グループの頂点や上位だけが生き残ったわけではなく、グループにおいて自分のポジションを上手くとった者も生き残りました。自分より強い者に従って食べ物を得たり、弱い者から配偶者を奪ったりなどによってです。これにより他人の心を読み取る能力が重要になっていきました。好意的と考えているか敵対的と考えているかなど、他人の心を想像する機能ができていきます。この他人の心を想像する機能を使って、自分の心がどうあったら生き残れるかを想像できるようになっていきます。

諸説はあります。過去の心理学では「自分の心を把握する機能があり、それ用いて他人の心を想像する」というものが大勢をしめていましたが、今ではその逆である先に他人の心の想像である説が広まりつつあります。赤ちゃんが自分の心の把握よりも先にお母さんの心を想像することは、その進化の名残とも言われています。

ステップ3 ズルいことをしてバレなかった人も生き残る

グループで生活をしている限り、タダ乗りや裏切りなど、ズルいことをする人がでてきます。ズルいことは低いコストで生存繁殖つながるため、見つからなければズルいことをする人は生き残る可能性が上がるからです。
しかし、ズルはグループにおいて非難の対象です。ズルを行なった人には加害や強制離脱などの相応のペナルティを与えられます。

ズルが非難されるのは人類だけではありません。
オマキザルを使った実験でも観測されています。その実験の動画がYoutubeにあるのですが、爆笑間違いなしなので必見です。

どういう実験か?
2匹のオマキザルがお互いが見える状態で金網に入れられています。オマキザルは、実験者に石を渡すとごほうびとしてエサがもらえることを学習しています。ごほうびに片方のオマキザルにはキュウリを、もう片方にはオマキザルの好物であるブドウが渡されます。

ここは是非動画を見てほしいのですが、キュウリを渡された方がめちゃくちゃ怒って実験者にキュウリを投げつけます。

他の個体して不公平というズルいことは、人類だけでなく猿でも非難の対象なのです。

そのため、いかにバレないようにズルをするかが生死を分けました。
ズルには嘘で騙すことも含まれます。嘘は、自分がグループで有利になるような虚偽の発言です。「自分」は強い、「自分」は繁殖のための価値がある、「自分」は繁殖のための資源を持つ、などです。こういった虚構の設定がバレなかった者が生き残っていきました。

人によって自分の態度が変わってしまう、と感じたことはないでしょうか。親には親と接する真面目な自分が、友達には友達と接する明るい自分、偉い人とは偉い人と接する萎縮した自分がいる、などです。これは対象によって有利になことがことなるため「自分」という設定を変えるのです。親に対しては投資に値すると判断させるような態度をとり、友達に対しては信用できるような態度をとり、偉い人に対しては何かを得るための態度をとります。このように「自分」というのは設定なので人によって切り替えることができるのです。

このように「自分」という虚構の設定が上手い人が生き残り進化していきます。

ステップ4 自分すらも騙せる人が生き残る

バレさえしなければズルい方が生存コストが安いので、バレないことが進化していきます。

詐欺師を思い浮かべてください。いかにも嘘をついていそうならあなたは騙されないでしょう。嘘をついてなさそうなほど、つまり本当っぽいほど誰でも騙される可能性はあがります。

最高の詐欺師になると、誰でも騙せます。
誰でもです。そう、自分もです。

自分も騙しきってしまえば、自分に有利になるような嘘だとしても他人からは本当に見えます。
自分で意識的に設定した態度をとっているより、無意識に設定した態度をとっている方が、他人に信じてもらうのに都合がいいがいいのです。

このように自分を騙しきった人が、ズルがバレなくなったため、ズルをしない人よりコスト安であったため、生き残った、というわけです。

自分を騙しきっているからこそ「自分ってなんだろう」などという疑問が浮いてくると言えるでしょう。それをわかることは生き残るには都合が悪いのです。

まとめ

あらためて「自分」とは何か?
他者との関係を都合よく進めるための虚構の設定を自己欺瞞するシステム、です。

特にSNSが発達した昨今、自己欺瞞しながら虚構の設定を作っている様子が目に見えるようになりました。Facebookは自分の有能さや金を持っているという繁殖価値があることを他人に示すための投稿ばかりです。そういった投稿は見せびらかしではない、ただみんなに言いたいことだ、と自己欺瞞します。実にホモ・サピエンスらしいですね。

企業での企画や物語の創作など何か創造力を働かせて具現化するときも、同様に自己欺瞞システムが働いていないかの注意がひつようです。

「これまでの創造性」では「自分をあるがままに表現すること」が美徳かのようでした。まるで自己欺瞞の度合いが高いほど美しいかのようです。人に見せびらかしたいという利己的な醜さが上がっているだけにも関わらず。

だからこそ「これからの創造性」は「『自分』をいかに無視するか」が鍵になります。

「自分」は進化の結果として遺伝子組み込まれてしまった仕組みだから、空腹になるのと同様に避けようのないことです。食べ物が冷蔵庫に十分あるときの空腹は気にする必要がないように、サバンナに住んでいたころと違って他者との顔色を伺うことが必須ではない現代で「自分」は無視することは意識して行う必要があるのです。

では、どうやって意識的に「自分」を無視するか?
「これからの創造性」で重要になるスキルですが、このスキルの鍛え方はまた後日お伝えします。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?