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#42 『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』を読んでみて

こんにちは。なびです。

突然ですが、みなさん、最近嘘をついたりごまかしたりしたことありますか?
残業時間をちょっとだけ上乗せしたり、定期テストでカンニングしたり。
犯罪に手を染める、というまではいかないにしても誰しもがちょっと考えてしまう、嘘とごまかし、あると思います。
そういった「嘘」や「ごまかし」というものは一体どのようなプロセスで発生が助長されるのだろうか、発生を防ぐためにはどうすればいいのか、と考えたことありませんか?

人間はずるい生き物だとか、(僕の妄想かもですが)巷でよく言われていると思います。そういった「ずる」について行動経済学的にどのように評価されるのか。
今回紹介する本は、「ずる」をテーマに人間の行動を分析したこの本です!

【読んだ本】『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』
【著者 / 訳者】ダン・アリエリー / 櫻井 裕子
【発行所】早川書房
【初版】2013年1月25日


ーーなぜ読もうと思ったか

自分も含め、人間はずるい生き物だと思っている節がありまして、どういう心理状態でこういったずるをしてしまうのだろう、とぼんやり思う時がありました。
そんな中、たまに読む行動経済学の分野でドンピシャなテーマで書かれているこの本を見つけて迷わずポチリました。

著者のダン・アリエリー氏はもともと知っていましたし、彼の著作を読んだことがあります。(読書ログも書いているのでこちらもぜひ!)

裏話ではあるのですが、本書を手に取る極めつけとして、著者が関与した論文についてデータ捏造の疑いがかけられていた、ということが明らかになりました。

おっと、、これは著者自らが不正に関与してしまっている。。?
と思い、この本ドンピシャじゃないか。。と感じ、本書を手に取りましたw
ちなみにですが、データの収集、入力についてはプライバシー保護の観点で関与していないと言明しており、データ捏造はデータ提供側の問題と釈明しているそうです。


ーーどんなことが書いてある?

表題のとおり、本書は「ずる」をテーマに人間の嘘やごまかし、不正について行動経済学の観点で解説した本です。

  • 不正はどこからやってくるのだろう。

  • 不正なことをするポテンシャルは人間にどれだけあるのか。

  • 不正は少数の悪人の仕業?それとも広く蔓延しているウイルスのようなもの?

これらの疑問に対して、様々な条件下で行われた実験により得られた行動結果から答えを明らかにしていきます。

また、従来考えられてきたシンプルな合理的犯罪モデル(Simple Model of Rational Crime; SMORC)では説明がつかない人間の非合理性を考える必要がある、とも述べられています。

シンプルな合理的犯罪モデルというのは、犯罪モデルのうち文字通りシンプルかつ合理的なモデルであり、費用と便益とを天秤にかけることで、判断を行うというものです。

例えば、もうまもなく始まるあるイベントに参加するために急いで車で移動していた時に、会場近くに駐車場がないシーンをイメージしてみてください。イベントに間に合わせる(便益)と違法駐車してレッカー移動される(費用)を比較して、便益が費用を上回ってしまう場合は、違法駐車してしまうというものです。

一方で、こういった単純な犯罪モデルでは説明がつかないのは直感的にイメージつくのではないでしょうか?
人間が持つ感情や信頼といったものに対する影響もあるはずだ、そういった不合理な力というものを反映することが重要だというのが本書の主張です。

しかし、もしSMORCのごく単純な不正観が、現実を正しく反映していないか、不完全にしか反映していないとしたらどうなる?その場合、一般にとられている不正対策は、非効率で不十分ということになる。
SMORCが、不正が起きるしくみのモデルとして不完全なら、まず人を不正に向かわせる本当の力を明らかにし、この正しい理解をもとに不正を減らしていく必要がある。それをしようというのが、この本のねらいだ。

ダン アリエリー; 櫻井 祐子. ずる 嘘とごまかしの行動経済学 (Kindle の位置No.97-101).

そもそも、行動経済学というものは、従来の経済学と異なる点として、

単純なモデルでは表せられない人間の不合理さ・不完全さ

にフォーカスを当てています。そのため、人間の心理に踏み込みつつ不正へ駆り立ててしまうその力を明らかにしていきます。

加えて、下記についても取り上げています。

  • 様々な実験を通して不正を駆り立てる心理要因や環境要因(利益相反・偽造品・誓約・創造性・疲労など)との影響

  • 不正の社会的側面(他人のふるまいが自身の善悪の認識にどう影響を与えるか)

この本の一番の目的は、不正行為を駆り立てると考えられているが、(これから見ていくように)実はそうではないことが多い、合理的な費用便益の力と、重要でないと思われがちだが、実は重要なことの多い、不合理な力について調べることにある。

ダン アリエリー; 櫻井 祐子. ずる 嘘とごまかしの行動経済学 (Kindle の位置No.138-141)


ーー印象に残ったこと

本書では様々なところでずるや不正というものに関する実験を行っています。
ずるや不正というものを定量的に測定するにあたって、本書では下記のような実験を行っています。

数字探し課題

  • 被験者に数字の行列が20個並んでいる答案用紙を配布する

  • 5分間という制限時間のうち、行列の中の複数数字から足し合わせると10になる2つの数字を探す

  • 正答1問につき報酬を与える

  • 【対照群】テスト終了後、被験者は解答を提出し、実験者が調べ報酬を渡す

  • 【介入群】テスト終了後、正答数を自分で数え、答案用紙を自分でシュレッダーで破棄してから正答数だけ実験者に伝える。伝えた成績をもとに報酬を渡す

  • 対照群と介入群の報酬の大きさから、条件によって不正が行われたかどうかを評価する

こうした実験をもとに、不正の度合いを評価しています。

個人的にですが、こういった心理学的な実験のフレームワークを考えるのは非常に難しそう&楽しそうだなと思いましたw
不正というものを評価するのは、最初はどうやるんだろうと疑問に思っていましたが、秘匿(シュレッダーにかける)としたときの便益(報酬)のバランスがなるほどなと思いました。

本書では、この実験をベースに多種多様な心理・環境条件を付けることで、どういったことが不正を助長、抑制するのかをまとめています。
本当に様々な実験が記載されているのですが、自分が面白いなと思ったところをピックアップします。

  • 不正というものは得られる金額によって左右されない

    • 多くの人はちょっとだけ多く不正する(すべて正答したとごまかさない)

    • 自分を正直で立派な人間だと思いたい動機と、ごまかしから利益を得てできるだけ得をしたい動機という2つの対立した動機が存在しており、そのバランスを保つために正当化する

  • 誓約書を設け、テストの前後で署名してもらうようにすると、テストの前に署名すると不正が減少する

    • 事前に道徳心を呼び起こすことは不正抑制に効果的

  • 事前に負荷が高い課題をやってもらうと不正は助長される

    • 疲労により意志力がすり減ってしまうと、正直さまですり減ってしまう

  • ブランドもののサングラスを渡し、「にせもの」と宣告された被験者は不正が助長される

    • 偽物と知りつつ身に着けると、道徳的な抑制力が弱まる傾向がある(マイナスの自己シグナリング効果)

  • 創造性が高い仕事をしている人ほど不正をする傾向が高い

    • 創造性は困難な課題を解決するための斬新な方法を生み出す助けとなることと同じように、不正に対して自身を正当化する理由を作ることができるから

  • 同じ社会集団に属している人が不正をする場合、他の人が不正に走る可能性が高くなる

    • 他人の不正により自身の道徳的指針が微調整され、「自分もやってしまおう」という思考に陥る

  • 一方で、自分と異なる社会集団に属している人が不正を行う場合は、逆に不正を抑制する方向に働く

    • 不正を行った人物やその社会集団から距離を置きたいという願望から倫理性を高める

いかがだったでしょうか。
直感に感じられるものやそうではないものも含まれていたかもしれません。
いずれにせよ、著者の綿密な実験により、不正の助長と抑制につながる心理・環境要因が言語化されているのは非常に興味深いところかなと思います。

これらの結果がなぜ導かれたのか、どういう条件で実験が行われたのか知りたい場合は、ぜひ本書を手に取ってみてください!

ーー本書を読んで

本書を読むことで、自分が抱いていたなんとなく、こういうことをすると不正が増えそうだなとか、少なくできそうだなという経験上のイメージはブラッシュアップされたかなと思います。
経験上確かに、と思うものもあれば、おお、なるほどそういうものもあるのか、といった驚きなどもあり不正に対する人間の心情理解が進みました。

ここから、じゃあ社会に役立てるためにはどうするかということが次の課題となってくるでしょう。そうした問いについて、著者は下記のようにまとめています。

不正行為を促すとふつう考えられている合理的な力が、実は何の影響もおよぼさないことを見てきた。また不正行為と無関係だと思われている不合理な力が、実際にはそうした行為を促すことがわかった。(中略)
不正はどこにでも見られるのに、わたしたちは自分がどうやって不正に魔法をかけられるのかを本能的に理解することができず、それに何より、自分が不正をするなどとは思ってもいないのだ。(中略)自分の望ましいとは言えない行動が、本当は何によって引き起こされているのか、それをよりよく理解すれば、自分の行動をコントロールし、結果を改善する方法を見つけられるようになる。これが社会科学の真の目的なのだ。

ダンアリエリー;櫻井祐子.ずる 嘘とごまかしの行動経済学(Kindleの位置No.3581-3590)

著者が述べているように、個人レベルとして不正に手を染めないようにするということが主題ではありますが、企業や組織レベルでも、こういった情報をもとに改善ができるのであれば、やっていくべきだと思いました。


いつも読んでくださりありがとうございます!!
それでは!

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