見出し画像

長期投資はすなわち知の総合格闘技である〜N高等学校投資部の授業から 質疑応答〜

最後に

ここまでお話ししてきたところが今日のお題でございまして、その取っ掛かりとして、皆さんは本当に村上さんから良い機会をいただいていると思ってください。

その中で本当にやらなくてはならないのは「20万円を上手く倍にすること」ではない。逆にどんどん失敗してください。失敗するときに、自分なりに物事を冷静に考える。
ビジネスについても考える、チャートでもいいです。どんなやり方でもいいです。自分で考える、これが一番大事です。

この後『四季報』の読み方について講義があると聞きました。物事を考える際の助けになるのが、『四季報』です。
残念なことに長期投資の観点からは、日本の会社は投資に適さない会社が多いので、『四季報』を見ても、本当に見るべき会社ってすごく少ない。
でも『四季報』って本当に情報が良くまとまっています。

例えば儲かっているのかどうか、営業利益率を見てみる。
例えば電子版だと資本構成が絵で出てきます。これは凄くいい機能です。
これである会社はほとんど金を借りていない会社であるということが分かるわけです。
金を借りていないってことは、つぶれることはないです。会社をつぶせるのは最終的に銀行だけですから。じゃあ、この会社は安全だな、とか。

チャートも当然出てきますので、見てみてください。
たとえばR社。先ほどお話しした参入障壁がビジネス上全くない。最初の思い付きは良かったと思います。でも、本当に参入障壁はそこにあるのか、あれは真似できないのか?と考えた時に、実は真似できないことはないわけです。
身の回りを見たら、同じような業態がたくさん出てきました。結果的に株価は落ちます、ということですね。

質疑応答

(生徒)長期的に投資をするのと、短期的投資をするのは最終的にはどちらが成果が出るんでしょうか?利益が出るスピードだけ見てしまうと、どうしても短期投資の方が最終的に利益が出やすいというイメージで考えてしまうのですが。

(奥野)いい質問ですね。
中国の故事に、『朝三暮四』ということわざがあります。例えば猿に木の実を「朝に3つと夕方に4つ」を渡すのと、「朝に4つと夕方に3つ」を渡すのと、果たして猿はどちらが喜ぶか?後者なんですね。

結局みんな「簡単に早く儲けたい」と思うわけです。これは人間の性です。だからそうじゃないことをするのは、実はすごく難しいです。

でも、私もこの世界にもう何十年もいますが、ひとつ真実があるとすると、人と違うことをやる人だけが儲かります。世の中は2割の人しか勝たないようにできているんですよ。

人間が短期投資がしたいというのは、もう本能だと思います。本能の中に皆が殺到する。でもその世界は血の海(レッドオーシャン)を泳いでいるようなものです。

従ってあまり楽しくないし、結果的には、長期投資が勝つと自分は思います。

(生徒)農林中金の大量保有報告書を見てみると、大体は食品関係の企業が多い印象なのですが、やはり、投資においても食品関係の企業が得意だったり、その分野に特化した分析をしているということはあるのでしょうか?

(奥野)それは親会社(農林中央金庫)の話ですね。我々は全く違います。

我々の投資先企業は、大量保有報告に絶対出てきません。なぜならどんなに多く投資をしていたとしても、我々は報告書に出ないようなやり方をしていますので。

すなわち我々は「助言会社」として投資をしているので、実際に株式を保有しているのは信託銀行であったりします。ついでに言うと我々の投資先企業は食品とか農業とかは全く関係ありません。先ほど申し上げた3つの条件を満たしていれば、業種は関係ありません。

(生徒)長期投資において売ったり買ったりはしないという話をされていましたが、そうは言ってもいつかは売らないといけない時は来ると思うのですが、その売るタイミングというのは一体どういう場面なんでしょうか?

(奥野)売る必要は特に無いと思っています。
ずっと持っていてそのまま株価が上がってくれさえすれば我々の投資家さんは喜ぶと思いますし、特に利益を確定する必要はないです。
もちろん、資金を引き出したいという投資家がいらっしゃれば、一部売却をしなければいけないですけど、そういうことがなければ売る必要はありません。

あとは、我々の投資仮説が間違えていたことが判明したとき。投資を検討する時は、先ほどの3つの視点で全部大丈夫だと考えたけど、途中で投資を検討した際の前提とかそもそもの環境等が変化してしまうことが時々あります。

頻度としては2年に1回ぐらいでしょうか?そのような事象が発生した場合は売却を行います。

(生徒)将来起業をしたいと漠然と考えているのですが、もし高校生に戻れるのならばこれをやっておけば良かった、ということはありますか?

(奥野)仮に「ゲーム」というものがこの世の中に存在していなければ、自分はもうちょっとまともな人間になっていたと思います。実は高校生の頃は本当にゲームばかりやっていました。

それはさておき、何をやったらいいか?
まずはビジネスの共通言語としての会計。いま高校生としてやるのであれば、統計。加えてプログラミング。これはコンピューターの言語ですからね。絶対やっておいたほうがいい。あとは英語。英語は若い頃からやるに越したことはないです。

実はうちの息子にも小学生のときから、「基本的には数学と英語以外やらなくていい」と言っていました。国語は日本人なら何とかなるだろうと思って。でも奥さんからは「そんなことばかり言っているからあなたみたいな情緒のない人間になるのよ」って怒られる(笑)。

でも実際に数学と英語ができて、加えてプログラミングができればそれでいいと思っていました。実際にプログラミングの学校に息子を行かせてみたりしたんですが、結局ゲームしているだけで終わってしまいました(笑)。でもプログラミングは是非皆さんチャレンジしてください。

(生徒)自分も若いうちに起業をしたいと思っているのですが、自分でビジネスの企画を考えるときに、本日話のあった付加価値の高い産業であるとか競争優位性とか長期的な潮流であるとか、どのように見つけるのが効率的ですか?そのコツみたいなのはありますか?

(奥野)一番いいのは実際にやってみて失敗することです。実は「自分ができる」と思ってる時点でそこに「参入障壁がない」と言っているのと同じことが多々あります。

例えば「Uber」。空いている車を活用するというアイデアは良かったのかもしれませんが、いまでは同じような企業がどんどん上場していますよね。「同じような会社が次々と上場している」ということ自体が、実はそこには「参入障壁がない」ということなのです。

だから最初からできることをやって成功しなくてもいいと思います。
色々やりながら、「どうやったら参入障壁を築けるのだろうか?」と常にそれを考えることです。
最初は参入障壁なんかあるわけないです。あったら始められません。まずやってみて、どうやって人が入ってこないように立て付けるのか。そこからが経営者の勝負所だし、最も重要なポイントだと思います。だからどんどん失敗してください。

(司会)ウェブ上からも質問がきています。奥野さんは昔から長期投資家なのですか?という質問がきています。いかがでしょうか?

(奥野)2007年からこの仕事をやっていますので、かれこれ12年半ぐらい長期投資をやっていることになりますが、そういう意味では昔からやっていると言えるかもしれません。

ただ、自分は1992年に日本長期信用銀行に入って、長期で貸し出しをする仕事をしていました。そこで徹底的に叩き込まれたのが、「産業をしっかり見て、企業の優位性を分析して、長期潮流を考えよう」という話なので、そういう観点では銀行員をやりながら、長期投資を実践していた、ということができるかもしれません。
ということであればかれこれ20数年長期投資をやっていると言えるでしょうか。

(司会)ありがとうございます。これはちょっとお答えが難しいかもしれないのですが、奥野さんの失敗談を聞きたいという質問が来ています。

(奥野)いっぱいありますよ!
企業に投資をするときに、いい会社なんだけれども、ここの長期潮流がもうちょっと足りないなとか、参入障壁についてもうちょっと考える必要があるな、とか思うことがあるわけです。
でもそんな風に分析している間に株価がぶち上がってしまう。こういう失敗が多いです。つまり「やらないことによる失敗」。それを失敗というのであれば大失敗だらけかもしれません。

分析するときにものすごい時間をかけて分析します。その会社の競合企業にも行くし、その会社のまわりの企業にも全部行く、ということをやっていると、ものすごい時間がかかるので。
逆に投資して「見誤った」というのは、2年に1社ぐらいでしょうか。

(司会)ありがとうございます。これも、お答えできる範囲で結構なんですが、実際に投資している企業を教えてもらうことと、その投資理由も知りたいですと。

(奥野)日本企業ということでいうと、私の名前でGoogleを検索すると大体4社ぐらい名前が出てくると思います。日経新聞の記事等でお話ししているので。

例えば信越化学。信越化学という会社はすごい会社なんですね。
すごい会社というのは先ほどの3つの観点からですよ。

例えば皆さんが持っているスマートフォンとかタブレットとかの中に入っている半導体、すべてシリコンウエハーからできています。もっと最初は土です。

スマートフォンとかタブレットとかは、発展途上国でも、だんだんお金に余裕が出てくると必ず使うようになります。その時にシリコンウエハーの世界シェアの3分の1を信越化学はもっているわけです。
先ほどのコカ・コーラと似てますよね。そういう状態を信越化学は作り出しているのです。

我々が投資してる企業は全部この3つの視点で分析していて、それを全て一言で言える会社ばかりです。それをしっかり言えるぐらい常時、企業の経営者と対話をしながら確認していくというのが自分の仕事だと思っています。

(司会)1時間にわたってお送りしてまいりました。奥野先生どうもありがとうございました。

(以上)