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チャレンジの神様が宿る島「隠岐の島海士町」 奥野一成 離島へ行く(中編)

会社は社長のものではない

奥野:皆さん、株式投資を今までやったことってありますか?

受講者A:自社株とあとタバコ会社とか、ちょっとだけやったことがあります。

奥野:自社株?

受講者A:前職の会社の…

奥野:ああ、持ち株会みたいなやつですね。

受講者B:自分でちょっといいなと思った会社がいくつかあって株を買ってみました。

奥野:なるほど!株式投資をリアルにやってらっしゃる方ですね。それなら話は早い。その会社の株を買うことで、そこの会社の社長さんがある意味部下になるということなんです。少しイメージ湧きにくいかもしれませんけど、本質的にはそういうことなんですよ。そういうふうに教えてくれる人って今までいなかったと思います。

受講者B:そうですね。これまで聞いたことない話です。

奥野:そうなんですよ。今日は高校生もいらっしゃいますが、これから将来就職すると、文字通り「会社で働く」ということになるわけです。そうすると上司がいて、そのずっと上に社長がいて、ともすれば「上の言うままに働かされる」という状態になるんですね。

あまり「会社のオーナーになる」っていう発想って持たないと思うんです。みんないい会社に勤めたいとは考えるんですけどね。でもいい会社に行ったとしても、結局それって社長に働かされてるだけで、もっと言うと社長も実はオーナーに働かされてるだけなんです。会社に勤めるということはそういうことです。

会社で一番偉いのは誰だと思いますか?

高校生A:やっぱり社長じゃないですか?

奥野:そう思いますよね。
新入社員なんかに「将来何になりたいの?」と聞くと、「頑張って社長になりたい」とか、「役員くらいにはなりたい」と言うんです。社員として会社に入って、ちょっとずつ偉くなって、係長になって、課長になって、部長になって、役員になって、上り詰めて社長になるんだ!って言う人、そういう人は結構いるし、そういうふうに仕向けられる部分もあります。

でも、実際のところ社長だって雇われ社長で実は労働者だったりします。普通の社員と一緒で単に会社に働かされてるだけ。オーナーは、全然違う次元なんです。

会社の株式を保有している人が株主です。当たり前ですね。
株主が集まる株主総会という会議で、その会社の「取締役」を選びます。この人たちは文字通り、経営者を「取り締まる」、監督するというのが会社法という法律で決められている本質的な考え方なんです。だからどんなに頑張って社員から役員、社長になったとしても、会社は自分のものにはならない。これが会社という概念です。

「労働者2.0」を目指せ!

奥野:これを個人の働き方という概念に落とし込むと、会社で普通に働いているというのは「他人に働かされてる」という状態になります。この人の働き方って何かというと、実は「時給で働くこと」になるんですね。

アルバイトだと時給1,000円ですけど、正社員になったら例えば時給換算で3,000円くらいで働いて、「頑張ってできるだけたくさん働こう、残業すれば給料が増えるぞ」っていう考え方が、一般的な「働く」ということで、あんまり面白くないはずなんです。

一方で、「株主になりましょう」っていう話までいくと、ちょっと極端ではあるのですが、先ほど言ったように社長を部下にして働かせる、ミッキーマウスに働いてもらうというのが株式投資の概念になるわけです。

でも、いきなりここに行きつくのは難しいですよね?
そこで提唱しているのが、「労働者2.0」っていう概念です。要は「他人に働かされるのではなくて、自分で能動的に働こうよ」と。自分の時間ではなく自分の才能を売る。そういう発想の転換です。

じゃあそれに向けて何をやるべきかというと、要は自分の才能を大きくすればいいわけです。これがこの「労働者2.0」に近づく考え方になると思っています。そういう意味でいうと、高校生であっても、一日24時間という時間っていうのは、みんなに平等に与えられているとても重要な資産なんですよね。

時間と能力を投資せよ

その「時間」を使って、「能力」を手に入れることができます。勉強すると能力が身に付きますよね?よって「時間」と「能力」は交換可能なんです。

高校生の皆さんはまだお父さん、お母さんにお金を払ってもらってる人が多いから、ここの「お金」という部分は切り離されてるんですね。これから大学生になって、その後社会人になっていくと、今度は「能力」を「お金」に換えることができて、これがまさしく「働く」ということですね。

「お金」を使って「能力」を買う、つまり誰かを雇ったりするということは、お金で人を雇うことができるという観点で言うと、「お金」を「能力」に換えることもできるわけです。

同時に「お金」と「時間」を交換することもできます。例えば、移動したいときにタクシーに乗ったら、お金を使って時間を節約することができますよね。あるいは時間を使って、会社で働いたらお金を得ることができますよね。

まとめると、「時間」と「能力」と「お金」っていうのは、常に交換することができるということなんです。

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そういう観点では、この能力を大きくすればするほど、最終的に大人になったときのお金は大きくなりますし、結果的に時間も自由になります。この三つが交換可能なんだっていうことっていうのは、すごく重要な概念ですよ!とりわけ若い皆さんがいま唯一持っている資産は時間です。この時間を何に使うのかということが将来を決めるわけです。

例えば、日本電産っていう会社がありますけれども、そこの社長である永守さんは世界の名だたる経営者です。彼は27歳のときに会社を興しています。そのときに彼の持っている「時間」と、「才能」と、それまでに貯めた「お金」を27歳のときに全投下するわけです。それで京都に工場を作って、日本電産という会社をスタートしたら、いまや時価総額が8兆円をうかがう大会社になったわけです。

皆さんも今はこの「時間」と「能力」と「お金」っていうのが切り離されてるかもしれないけれども、だんだんここが近づいてくるタイミングがありますし、そのタイミングを念頭に置きながら、できるだけ自分の時間を価値あるものに投じるようにしましょう、ということを、声を大にして言いたい。

なんでこんなことを言ってるかというと、私自身がある意味、親のレール、つまり親が「こういう子に育てたい」というレールに結構乗ってきたなと思うんです。つまり、いい高校に行って、いい大学に行って、いい就職をすれば、この子は安定した生活ができるんじゃないかと、私はずっと多分親の考えてきたレールに乗っていたんだと思うんですね。

振れ幅の大きいキャリアを描け

奥野:そういえば自己紹介をちゃんとしてなかったんですけど、私自身奈良出身なんですが、洛南高校という京都の進学校を卒業して、京都大学にいって、日本長期信用銀行に入りました。

この銀行は皆さん恐らく知らないと思いますけれども、1998年に日本で一番最初に潰れた大きな銀行です。これが潰れた後、僕はUBS証券っていう、これまたヨーロッパで一番大きな証券会社行きました。銀行に入るまでは、要は親の敷いたレールでずっとあまりブレのない人生をずっと歩んできたんですね。

でも入った銀行が潰れちゃったもんだから、さあ大変ですよ。だっていい銀行に入ったら、このまま安泰に生活できると、ある程度思うじゃないですか?でも潰れちゃったときに、これはびっくりしました。明日からどうやって生きていこうかと…。

潰れたときは28歳でしたから、これからどうしようかと考えた時、「じゃあもっと自分が一人で生きていけるだけの能力を見つけなきゃいけない」、とりわけこの金融の世界の中で、「自分の腕で食っていけるようにならなければ」と思って、じゃあ最初に考えたのがビジネススクールだったんですね。

ビジネススクールっていうのは、いわゆるMBAを取りに行く場所です。大学行っただけだと学士ですけど、更に修士というものを取って、ワンランクアップするわけです。ワンランクアップするためには当然のことながらいろんな勉強をしなければいけない。ちょっと難しい話なんですけど、企業買収の勉強をしたりとか、マーケット、市場でのトレーディングの勉強をしたりとか、いろんな勉強をするんです。

銀行が潰れてからもう必死ですよ。ちなみにその当時は既に結婚してたんですけど、奥さんに「一緒にロンドンに付いてきてくれないか」とお願いして納得してもらって、ロンドンに行って仕事しながら勉強しました。結果的に修士を取って、その後、農林中金という会社に入って、今に至ります。

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今はすごく楽しいですよ!自分の好きな仕事を好きにやらせてもらってるので。なので、銀行が潰れたことにはある意味感謝してるんですよ。もちろん色々大変でしたが、もし、親の敷いたレールにずっと乗って、この銀行が潰れなかったら、超くだらない人生になってたかもしれないと思ったりします。

タラレバの話をしてもしょうがないですが、銀行の同期入社の人と今でも飲んだりするんですけど、やっぱりあんまり面白くなさそうなんですよね。皆さん50歳ぐらいになると、それこそ「もう他に面白い仕事ないのかなあ」みたないことを普通に話したりします。

以前だと寿命が60歳、70歳ぐらいだったからあまり深刻に考えなくてもよかったんですけど、今人生100年時代ですよね。50歳になってもここから更に40-50年生きなきゃいけないわけです。面白くない仕事をしながらそのまま生きていくなんて嫌じゃないですか?

たまたま僕の場合は勤めていた銀行が潰れたんで、こんな風な面白い人生になりましたけど、皆さんに是非ぜひ申し上げたいのは、キャリアや自分の生き方を、初めから安全なところに持っていこうと思わないで欲しいということなんです。

皆さんリスクは取りたくないので、できるだけ安定したものを求めるんですけど、実はそれが一番リスクだったりします。これからは安定しているものなんていうのは世の中にはないと思った方がいい。安定っていうのを求めると、かえって安定しない人生になるんですね。そう、安定は不安定なんです。

むしろ本当に安定したければ、自分の腕を磨かなきゃいけない。そのためには自分の得意なことに注目することが重要です。僕の場合は「投資」が得意だったからこれをやりましたけれど、皆さんは「自分は詩を書くのが得意です」「自分は人と話すことが得意です」「自分は数字に強いです」とか、いろんな「得意」はあると思うんですね。それをどんどん磨いていくことが多分最も安定したものを得られると思います。みんなと同じことをやっていては多分駄目だし、結果的に安定しないと思うんです。

もしかしたら皆さんのご両親の言っていることと違うかもしれない。でも親が生きてきた世界と君たちがこれから生きていこうという世界は、全然違います。多分君たちが生きていこうという世界は、もっと変動が激しい時代になります。どんな大企業でも簡単に潰れます。僕はたまたま長銀っていう銀行が潰れましたけど、これから、「えー、そんな会社が潰れるの?」っていうような会社がどんどん潰れていくと思うんです。それぐらい厳しい世界になっていきます。

だからこれからしっかり生きていこうと思ったら、先ほど話に出た「時間」と「能力」と「お金」っていうのが交換可能ということを念頭に置いて、その能力をちょっとでも増強できるように、できるだけ色々なことに挑戦したほうがいいですね。

選択肢をどんどん増やしていくには、自分の活動の振れ幅を大きくした方がいいです。「え、こんなことするの?」っていうことも、とりあえず一回チャレンジしてみて、やってから考えればいいじゃないですか。失敗するっていうことは、ある意味すごく素晴らしいことです。失敗しながら学んでいくので。

失敗したら、ちょっと恥ずかしいですよね。でも君たちは全然若いんだから、何も失敗したことを恥ずかしがる理由はどこにもない。「チャレンジして失敗、当たり前だろ!」ぐらいに思っとけばいいんだと思うんです。そういうやり方をしていくと、どんどん振れ幅が大きい人になることができます。そうすると、振れ幅の大きい世界でも対応ができるような人になるんじゃないかなと思います。

以前母校の洛南高校で講演をしたときにも話したんですが、洛南の生徒みたいな、いわゆる偏差値が高くて、いい大学に行って弁護士になったりとか、医者になったりとか、そういうキャリアを普通に歩んでいく生徒に対してとにかく言いたかったのは、「これからの時代、弁護士の資格であったり医者の資格だけで安定が保証される世界は全くない」ということなんです。

弁護士になっても、ちゃんとビジネスのセンスであるとか他の能力も持っていないとやっていけない。例えば極端な例で言うと「医師免許を持った弁護士」であれば競争力ありますよね?

もちろん二つの分野を組み合わせるのはいいアイデアなんですけど、それよりももっと大事なのは、さきほどのコカ・コーラの話で言えば、コカ・コーラの向こうを張って、炭酸飲料をもう作りたくないと思わせるほど強いかどうかなんですよ。そのぐらい強いからコカ・コーラはものすごい儲かるわけですね。そういう人になってもらいたいんですよ。人と違う、何かの能力があって、「もうその人とは戦いたくないな」と思わせる人です。

例えば、「医者」だけだったら世の中にたくさんいますよね。だから医者の中で、トップになるのは結構難しい。ところが医者なんだけど弁護士資格を持ってますという医者はすごく限られます。そうすることで競争がものすごく緩やかになって、その中で、競争優位のある人になるのは割と簡単かもしれません。「医者」の中で唯一無二の人になるのは難しいけど、医師免許を持った弁護士であれば可能性は広がるんですね。

「キャリアを組み合わせよう」、「マルチのスキルセット」、「マルチなキャリア」と言ってるのは実はそういうことです。弁護士だろうが医者になろうが、投資家だろうが、それだけで食っていくのはこの先ますます難しくなると思います。

有能の境界に集中せよ

奥野:「いやいや、そんな難しいこと言われても時間がないです。だってテレビも見たいし、YouTubeとかSNSも見たいし」みたいに思いますよね。実際ほとんどの人がそういう状況なのかなあと。結構時間をどこに使うかとかいうのは確かに判断が難しいです。人間は全然関係のないことに気を取られたりしますから。このイラストを見てもらえますか?

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何かというと、上が自分で、下が他人です。左が過去で、右が将来です。ここで四象限に分かれます。

この左下、例えば「芸能人の誰かが不倫しました」みたいな話は、そもそも自分以外だし、しかも過去の話ですよね。こんな話の場合、数分でも時間を取られるのは時間の無駄です。こんなことに時間を投じても、結局何も返ってこないですよね。要はどうでもいい話なわけです。

じゃあ自分の事だけど過去の出来事、例えば「彼女に振られました」みたいな話だったらどうですか?彼女に振られたことをいつまでもくよくよしてても、結局やっぱり自分の未来を良くすることには全くつながらないわけです。

じゃあどこに集中しなきゃいけないかというと現在から将来に向かっての話なんです。ところが自分以外の将来の話、例えば「明日、晴れるかな?」っていうような話。どんなに「天気良くなったらいいのに」って思ったって、天気は良くならないですよね。「エレベーター早く来ればいいのに」と思ってボタンを連打したところで、絶対早く来ないわけです。

それでは自分はいったい何に集中すべきなのか?やはり「自分の、いまから将来に向かう出来事」ですね。自分の能力を上げたり、自分が満足を得られることに自分の時間とお金をどれだけ集中させるのか、これが「有能の境界」という話です。

英語で言うとcircle of competence。私が投資家として一番尊敬している人でウォーレン・バフェットっていう方がいらっしゃるんですけど、今90歳で数兆円ぐらいの個人資産を持っている、世界第4位か第5位の大金持ちです。

circle of competenceは彼が言ってた概念で、投資をするときに一番重要なのは、自分がコントロールできることに、自分が制御できることに集中しましょう、ということなんです。

例えば、「トランプ大統領がこんなことツイッターで言った」とか投資の世界の中では、結構重視されたりするんですよ。「トランプが再選するかな」とか、「バイデンになったらこう変わる」みたいな話が投資の世界では結構重視されるんですけど、考えてみれば「トランプが大統領になるか、ならないか」なんて、誰も分からないわけですよね。であればそんなことに集中してもしょうがないから、自分は目の前の企業分析をしっかり行う、要は「自分がちゃんとコントロールできること」に対して集中しようというのが、ウォーレン・バフェットさんが言っているcircle of competence、「有能の境界」なんですね。

実際、大統領選がこの11月にありますし、トランプさんが再選されるかどうかっていうのは恐らくマーケットでも大きな話題になります。でも私の場合「そんなの予想してどうすんねん」っていつも思ってるわけです。

何を言ってるかというと、ちょうど4年前も同じように「トランプさんが大統領になるか、ならないか」というのは大注目だったんです。みんなトランプさんは大統領にはならないと予想していたから「トランプさんが大統領になったら大暴落する、ヒラリー・クリントンが大統領になったら株が上昇する」っていうのが、ずっとマーケットの見立てだったんですね。ところが何が起こったかというと、トランプさんが結果的に大統領になって、株価は大暴落するどころかずっと上がり続けたんですね。

結局「マーケットのプロ」だと言われている人たちの予想は二重で外れてるわけですよ。そもそも大統領選を見誤った、しかもトランプがなったにもかかわらず株も上がった。つまりそんな自分のコントロールできないことに集中してもどうしようもないということなんですね。

皆さんは若いのでまだ時間がたくさんあります。その中で何に時間を使えばいいのか?SNSをやるのは無駄だと言ってるわけじゃないですよ。SNSをやるのは、多分この下半分の話ですよね。「〇〇ちゃん昨日はこんなことしたんだ」「こういうふうに思ってるかもしれない、メールすぐ返さなきゃ」っていうのは、過去か未来かはともかく、「自分以外」の話です。

これが無駄だと言ってるわけじゃないです。「これをやってるという自分」をしっかり認識すればいいんです。例えばSNSを使っているときは「これって、ちょっと気晴らしにやってるんだ」ということが、ちゃんと分かっていればいいですよね。これを認識しないで、まるで「SNSが自分の中心である」かのように思ってしまうと、結果的に時間を浪費しますよということです。

「構造的に強靭な人」を目指せ

ちょっと教訓めいたような話になりましたけど、結論としては、みなさんに是非「構造的に強靱な人間」になって欲しいということなんです。

「構造的に強靭な」という話は初めて出てきましたが、例えば先ほどのコカ・コーラは本当に強い会社なんです。コカ・コーラの向こうを張って、炭酸飲料作ろうという人すら出ないような強い会社です。

これと同じように、「本当に構造的に強靱な人材」になってもらいたいっていうことです。さっきの弁護士資格を持った医者、会計士資格を持った投資家でもなんでもいいですし、いろんなキャリアを組み合わせて、能力を組み合わせることで、あなたにしかできないような人になってもらいたい。

そうすると自分だけの人生が開けます。今までは普通に親の言うレールの上をずっと乗ってきてるんだと思うんですけど、それは親の人生であって、自分の人生ではないんですよね。「構造的に強靭な人間」になるためには惜しみない自己投資をしましょう、というのが今日一番伝えたい私からのメッセージです。

(後編につづく)