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積立王子と考える長期投資~セゾン投信中野会長とNVIC奥野特別対談~その3

皆さん、こんにちは。NVIC note編集チームです。

今回は、セゾン投信中野会長との対談記事、第三弾です。
ファンドの運用者としての受益者や販売員への思い、そして長期投資家として走り続けてきた10年超の時間を振り返った気持ちを率直に語っています。

本シリーズラストです。お楽しみください。

全員が同じ船に乗る長期投資

司会者:次のテーマに行きたいと思います。
セゾン投資さんの2ファンド、NVICの「おおぶね」シリーズ。それぞれをお客様に勧めるにあたって、大切にしてもらいたいことは何でしょうか?


中野会長
:これは当社の商品に限りませんが、買ってもらうことが目的になってはいけません。資産運用というのは、買ってもらったところはスタートに過ぎず、長く持ってもらってしっかりと資産を増やしてもらうことが目的のはずです。

日本の運用業界の慣習として最悪だったのは、買ってもらうところが目的、ゴールになってしまい、その後お客様の資産がどうなったかということが全く顧みられなかったことです。いくら投信を販売した、いくら手数料を稼いだということばかりが記録され、そのお客様一人一人が結果として幸せになったのかどうかは忘れ去られてきました。

投信販売担当者の皆さんにお願いしたいのは、おおぶねであれ、セゾンのファンドであれ、皆さんが良いと思ってお客様に勧めた商品が、本当にそのお客様を幸せにするのか、最後まで寄り添っていただきたい。つまり最終的に成果を出すまで見届けて初めて、皆さんは仕事を果たしたことになる、ということは意識していただきたいですね。

少し基準価額が上下するとすぐに売りたくなってしまうお客様も多いのです。そんなときには是非皆さんが基本に立ち返らせて、合理的な行動に促していただきたい。「何のためにこの投信を買ったんですか?30年後の資産づくりのためでしょう」そんな風に元に戻してあげてほしいんですね。

コロナのときだって同じですよね。お客様は怖いんだと思います。でもそんなときに「コロナなんかで何も変わらないですよ」と奥野節をそのまま伝えてあげればいいんです。「長く続けた人は必ず報われる。歴史が証明しています」ときちんと諭してあげる。そんな風に支えてあげながら、お客様の一人一人を最後まで見届けてあげてほしいなと思いますね。


奥野:もともと当社の「おおぶね」シリーズは、JAバンク以外では積み立て購入とiDeCoのみの提供とさせていただいています。

これは「そもそも投資のタイミングなんか選べっこない」という考えを反映しています。もし僕がタイミングを選べるなら、頑張って投資企業を選ぶ必要なんかありませんし、運用者なんていう仕事をやらなくても、もっと簡単にお金持ちになれるはずです。「楽して儲かる方法なんかない」ということは肝に銘じてもらいたいですね。

タイミングが取れないんだとすると、考えなければいけないのは「時間分散」です。市場環境が良いときも悪いときも、とにかくコツコツ買うことが、経済的にも、精神衛生上も合理的だと思います。

とはいえ、個人個人ではやっぱり短期的に売買してしまう人もいると思います。タイミングを見て頻繁に出入りされると、その人のためにならないばかりか、ファンドにも無駄な売買が発生しますので、長期投資をしたいと思っている他のおおぶね受益者にも迷惑が掛かります。それを避けるために最初から買い方を制限しています。

JAバンクでは一括購入も可能にしているのは、皆さんがそういった趣旨を理解して、きちんと説明してくれることを期待しているからです。僕はファンドの中身のことはいくらでも話しますが、最終的にお客様に寄り添えるのは、中野さんも仰ったように、皆さんしかいません。

そういう意味でJAという組織は、きちんとお客様に寄り添うことができると思っています。皆さんは、普通の銀行や証券会社と違って、お客様と同じコミュニティの一員です。窓口カウンターを挟んで、向こうとこっちに分かれて対峙している関係ではない訳です。だからこそ僕は、皆さんはきちんと説明をして、長期投資を促してくれると信じています。

実は先日うれしい話を聞きまして、兵庫のとあるJAで窓口を訪れたお客様が、少しまとまった金額で「おおぶね」を買いたいと言ったそうなんですね。実はその人は僕の知人で後から話を聞いたんですが、応対をしてくれた窓口の女性が、「一括購入はタイミングリスクがあるので、10回に分けて投資しましょう」と促したそうなんですね。普通に考えれば、一括で買ってもらった方がすぐに彼女の成績になるから良い訳ですけど、彼女はちゃんとお客様のことを考えてそう提案したわけですよね。そういう風に売ってもらえると、運用者としても安心です。


中野会長:それは良い話ですね。きちんとお客様のことを考えている訳ですね。


長期投資家として走り続けてきて

司会者:折角の機会ですから、お二人がお互いに聞いてみたいことってありますか?


奥野
:今日は本当に久しぶりに、10数年ぶりに中野さんにお会いしました。当時はまだお互いに始めたばかりで、たぶん中野さんが「積立王子」と呼ばれる前だと思います(笑)
お聞きしたいのは、この10数年やってこられて、一番苦労されたのってどういうところですか?


中野会長:恐らく奥野さんも同じだと思うんですが、私も異端児なんですね。「あいつ頭おかしいんじゃないか」と、本当に色んな人に言われてきて、もう言われ慣れちゃっているというところがあります。

私はセゾングループという大きな企業の中でセゾン投信を立ち上げた訳ですが、当時セゾンの中でひそかにあだ名が付けられていまして、「金融テロリスト」と(笑)。私は知らなかったんですけどね。後から聞くと、みんなそう呼んでいたそうです。そんな風に言われながら、本当に自分がやりたいことを貫こうとすると、悪口を言う人とか、邪魔をしてくる人もたくさんいました。

特に苦労したのは株主との関係です。企業である以上、株主は親分な訳ですよね。株主がやめろといったら、やめざるをえない訳です。ちょっと言葉は悪いですけど、それをどうやってだまくらかして、自分の信念を貫くかといったことは常に課題でした。

特に初期のころは、なかなか短期的には利益が出ない仕事も多い訳ですよね。そうすると「もっとファンドを増やせ」とか、「なんで積み立てだけなんだ」とか、もう本当に色々言われました。それをのらりくらりとかわしながら、自分が正しいと思うこと、本当にお客様の幸せにつながる形というのを追及していくのは、本当に苦労しました。

今となっては、ファンドがこれだけの大きさになっているというのは、私がやってきたことが、お客様、世の中に理解してもらえているという証拠だと思いますし、株主にもしっかりと利益貢献できているので、やってきて良かったなと思っています。

実は奥野さんにも同じことを思っていて、奥野さんも相当な変わり者だと思うんですね。農中さんに転職された訳ですけど、本当にいい会社ですから、黙ってやっていればそれで人生安泰だったと思うんです。それを敢えてイバラの道を選ばれて、会社まで立ち上げてやっていらっしゃる。そこにはどんなモチベーションがあったんですか?


奥野「金融屋として価値を創りたい」という思いですね。金融屋って、ともすれば右から左にお金を流して、濡れ手に粟で儲けているような印象を持たれてしまいます。学生時代に就職先を選ぶときにも、金融志望の学生とメーカー志望の学生ってなんとなく分かれていて、モノづくりをやるメーカーの方が偉いみたいな意識がちょっとあると思うんです。

でも、僕は金融屋だからこそ付けられる価値というものがあると信じています。それを僕は最初に入った長銀で、もうつぶれた銀行ですけど、なんとなく見つけました。企業に寄り添って、長期の資金を提供して、財務部長とひざ詰めで議論しながらその企業の未来を考える、みたいな話ですね。当時は若かったのでその企業を良くするというところまでしか頭が回りませんでしたが、今となっては、それが結果的に社会を良くするというところまで想像力が働くようになりました。

そういうことを考えている人が長銀にはたくさんいましたし、農中にもたくさんいたんですね。そういう人たちが支えてくれたんです。たぶん、僕も9割がたの人には「バカなんじゃないの?」と思われていたと思いますし、今でも思われているかもしれません(笑)。でも、残りの1割の人が僕の想いに強く共感してくれて、ものすごい勢いで支えてくれました。それでここまで来ちゃって、もうやめられないというのもあります。

これからの話で言うと、個人投資家さんの中にも、僕たちの投資のやり方に強烈に共感してくれる人が1割くらいはいるんじゃないかと思うんですね。今はまだ、そのうちのほんの一部にしか届けられていませんが、より多くの方に共感してもらって、その人たちに価値を届けたいと思っています。


中野会長:奥野さんが戦ってきた姿を見て、ようやく社会がきちんと正当に評価するようになってきたということかもしれませんね。10数年前、奥野さんと初めてお会いしたときのことはよく覚えていて、本当に必死でした。「自分はこれがやりたいんだ」という強烈な信念を感じました。今日は久しぶりにお会いしましたが、お互いに言っていることが当時と何も変わっていないなと思いましたね。


奥野:僕も久しぶりに中野さんのお話しを聞いて、僕がこれまでやってきたことが間違っていなかったんだなと、改めて勇気をもらいましたね。ありがとうございました。

(本シリーズ終わり)