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これ、あげる!


「おつきちゃん!これ、あげる!」

満面の笑顔で手のひらから渡されたのは、
小さな石ころだった。



朝6時。
布団に後ろ髪を引かれながら起きる。スマホをチェックして、コーヒーを飲みながら身支度をする毎朝同じ、朝のルーティン。

ルーティンには(Podcast※を聴く)というものが含まれる。
※Spotify内で聴くことができる、音声配信のこと。


その日もいつも通りお気に入りのPodcastを聴きながら
ファンデーション、アイシャドウを纏っていく。

わたしのお気に入りは、寄せられたリスナーからのお便りを
読んで、その話題について掘り下げたり、感じたことを話したり、所謂よくある形式のものだ。

その日のお題は「宝物の定義」。
ホストの宝物についての定義、自分の宝物についてのエピソードを聴きながらふと思う。

宝物、久しぶりに見たいな。


わたしは幼い頃、宝物箱なるものを作って
宝物を大切に保管していた。

親にも中身は見せず
気が向いたときに1人で中身をひっくり返しては
眺めて楽しんでいた。

その箱の中には思い出せる限りいくつか物が入っていたはずだけど、
中でも色褪せることなく記憶しているものがある。

それは、初恋の男の子から貰った小さな石ころ。
(あまーーい!!! by心の中の井戸田)



この特別な宝物に関しては
嬉しすぎて父や母に自慢し
当時つけていた日記にも残し
絶対に無くすまいと小さなジッパー付きの袋にまで入れていた。

今でもこの宝物についてのエピソードを思い出すと
甘酸っぱいような、照れくさいような気持ちが襲う。


幼稚園に通っていた頃。
私は人生4年目にして恋をした。
みんなに優しくて、人が嫌がることを絶対にしない男の子。
人より目立つような子ではなかったけれど
周りを暖かく包み込む陽だまりのような男の子だった。

その子は車のおもちゃが大好きだったので
ここではトミカ君と呼ぶことにする。


トミカ君とはお友達として良い関係を築けていたと思う。
保育園が終わったあとお家にお邪魔させてもらったりしていたので親公認の仲である。
(語弊がある言い方になった)


わたしの通っていた保育園では、毎年秋に遠足があった。
その年はみんなでバスに乗って、秋を探しに行こう
という趣旨のもので
目的地の公園に到着したら、みんな思い思いに
秋を探しに駆け出していく。


紅葉、どんぐり、銀杏の葉。
色とりどりの秋が、子供たちによって見つけられていく。


わたしも友達と夢中になりながら
帽子の被ったどんぐりを集めていた。


その時。


「おつきちゃん!!!」


大きな声でわたし名前を呼びながら全速力でこっちに向かってくるトミカ君。

わたしの前で立ち止まると、

「手出して!これ、あげる!ハートの形してるんだよ!」


そう言ってなにかをわたしの手に握らせた。

満足したのか彼はポカンとするわたしをおいて
すぐに元いたところへ走っていった。

実際に見てみると
歪だけど、ハートの形をした石ころ。


好きな男の子からプレゼントをもらったこと。
しかもそのプレゼントがハートだったこと。

わたしは嬉しくて嬉しくてたまらなくて
大事に制服のポケットに仕舞い込んだ。



幼稚園を卒園し、
彼とは別々の小学校に通うことになった。

当時はケータイもスマホもないし
パソコンでメールをするのもまだまだ先の話で
連絡も全く取らなくなった。

トミカ君を好きという気持ちはいつの間にか薄れて
違う同級生を好きになった。


それでも、この宝物を見るたびに
彼のことと甘酸っぱい思い出を思い出す。


トミカ君は今どこで生きているんだろう。

あの頃と変わらず、周りを優しく包み込むような人だろうか。

また会えたらいいね。

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