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#2 ピロリ菌に感染していると低血糖症発症リスク大。ピロリ菌と低血糖症の関係と、除菌成功率を高める分子栄養学的アプローチをご紹介

胃腸機能の低下から更なる糖代謝悪化の悪循環へ

ピロリ菌感染によって引き起こされる低血糖症は、血糖値の乱高下による機能性低血糖症以外にもあります。それが、消化吸収能力の低下や栄養欠損によって引き起こされる「無反応性低血糖症」です。

無反応性低血糖症とは、何を食べても血糖値の上昇が殆ど見られない低血糖症のことです。空腹時血糖、食後血糖値共に80〜70を下回っている状態が続いている場合は、無反応性低血糖症と推測することが出来ます。

この無反応性低血糖症の原因は副腎疲労などいくつかありますが、その原因の1つとして考えられるのが消化吸収能の低下です。私達が食べた物は胃で消化され、小腸で吸収されて利用されています。この消化吸収能が低下してしまうと、食べた食べ物がうまく消化吸収出来なくなり、身体が栄養不足に陥って血糖値の正常なコントロールができなくなってしまいます。

この消化吸収能が低下してしまう主な原因が、ピロリ菌の感染による「慢性胃炎」「萎縮性胃炎」です。

https://www.pylori-story.jp/disease/disease/gastritis/より


例えば、私達が摂ったタンパク質は胃でアミノ酸まで消化し、小腸で吸収されています。このタンパク質をしっかり吸収するためには胃の働きが重要で、胃酸がしっかり分泌されていることが必要です。健康な人であれば十分な胃の働きと胃酸分泌量がありますが、何らかの原因でピロリ菌に感染していると、ピロリ菌の出す毒素によって胃粘膜に炎症が発生していきます。この炎症が慢性的に続くことによって胃の粘膜がうすくやせてしまう「萎縮」が進み、萎縮が進むと胃の粘膜の胃液や胃酸などを分泌する組織が減少して「萎縮性胃炎」の状態に陥ってしまいます。

萎縮性胃炎の状態では、健康な胃の状態に比べて胃粘膜が薄くなり、胃酸の分泌量が低下します。この胃酸の分泌量が不十分の場合は、タンパク質をアミノ酸まで十分に消化することが出来ません。すると、せっかく摂ったタンパク質が小腸で吸収出来ず、食べていても栄養不足に陥ってしまいます。このタンパク質が体内で不足することによって、低血糖症を始めとした様々な悪影響が引き起こされてしまう原因になるのです。

タンパク質不足が不足することで低血糖症を引き起こす理由の1つとしては、血糖値をコントロールするためのホルモンが十分に合成出来なくなってしまうことです。血糖値を下げてくれる「インスリン」というホルモンや、血糖値を上げてくれる作用のある「アドレナリン」や「ノルアドレナリン」「コルチゾール」などのホルモンはすべてタンパク質を材料に作られています。タンパク質不足になってしまうということは、これら血糖値をコントロールするためのホルモンの合成や分泌量が減ってしまう事でもあります。

また、タンパク質不足はインスリンの合成不足を招く以外にも、筋肉量の低下を招きます。この筋肉量の低下も低血糖症の原因です。理由は、私達の身体は筋肉を動かしたり脳を働かせたりするために「ブドウ糖」をエネルギー源として貯蔵、利用しています。このブドウ糖は筋肉にも貯蔵されており、必要に応じて利用することで低血糖症を防ぐ仕組みが備わっています。

この時、ピロリ菌感染などによる消化吸収能の低下でタンパク質不足が進行していると、筋肉の元となるタンパク質が不足して筋肉量が低下してしまいます。この筋肉量が低下すると貯蔵できるブドウ糖の量も減ってしまい、少し動いただけでエネルギー切れを起こして疲れやすくなるなどの不調に繋がってしまいます。

加えて、筋肉量の減少はブドウ糖をエネルギーとして利用する量が減ってしまうことにも繋がります。私達が摂取したブドウ糖は、筋肉を動かしたり体温を維持したりするエネルギーとして使われていて、筋肉量が低下するということは、これら基礎代謝や筋肉を動かすエネルギーの消費量が減ってしまうということです。

エネルギーとして消費できなかったブドウ糖は血中内に溢れ、そのぶん血糖値も急上昇しやすくなってしまいます。このことから、タンパク質を始めとした栄養不足や筋肉量の低下は、機能性低血糖症や無反応性低血糖症の発症に繋がってしまう原因です。

しかも、筋肉量が減ることで低血糖症に陥る原因はこれだけではありません。筋肉量の低下は脂肪肝など異所性脂肪が付いてしまう原因となり、これらは更に糖代謝を悪化させてしまう原因になります。

筋肉量の低下は脂肪肝の原因に。脂肪肝は糖代謝を更に悪化させる

筋肉量の低下は、更なる糖代謝の悪化に繋がります。それが、基礎代謝の低下に伴う肥満や、脂肪肝など異所性脂肪が付くことによる新たな病気です。

異所性脂肪とは、肝臓や膵臓、心臓など本来脂肪が付くはずがない臓器に脂肪が蓄積してしまう状態のことです。この異所性脂肪が肝臓や膵臓、筋肉などに付いてしまうことで、インスリンの分泌が減ったりブドウ糖の貯蔵、利用量が減ったりして、更なる低血糖症の悪化を招いてしまいます。

この異所性脂肪が臓器に付いてしまう理由の1つとして、筋肉量の低下が上げられます。先ほども解説した通り、筋肉量の低下はブドウ糖をエネルギーとして貯蔵、利用する量が減ってしまうことに繋がります。

ブドウ糖をエネルギーとして使えなくなってしまうということは、そのぶん血糖値も急上昇しやすくなるということです。急上昇した血糖値は大量のインスリンを分泌して下げることになり、インスリンの働きによってブドウ糖はすべて中性脂肪として身体に貯えられてしまいます。この時に余分な脂肪が臓器に貯蔵されることで、脂肪肝など異所性脂肪の発症に繋がってしまうのです。

この異所性脂肪の中でも特に脂肪が溜まりやすく、低血糖症と関連が深いのが「肝臓」です。肝臓は筋肉と同じように、「グリコーゲン」という貯蔵型のブドウ糖を貯える働きがあります。このグリコーゲンが、血糖値が下がったときなどに必要に応じて血管内に放出し、血糖値を一定に保つ働きをしています。

この時、筋肉量の低下などによってブドウ糖の消費量が落ちると、使い切れなかったブドウ糖が肝臓内に溢れてしまいます。一定量は肝臓内でグリコーゲンとして貯蔵できますが、一定量を超えるとそれ以上は貯蔵することが出来ません。貯蔵できなかったブドウ糖は、脂肪として肝臓に蓄積してしまいます。こうして脂肪が肝臓に蓄積していくと「脂肪肝」となり、やがて「肝炎」や「肝硬変」などの病気へと進行する原因となります。

そして、この脂肪肝を抱えているとインスリンの働きが悪くなる事が分かっています。順天堂大学の研究グループが正常体型に見える人々を調べたところ、内臓脂肪が無くても脂肪肝があるとインスリン抵抗性が高く、逆に内臓脂肪があっても脂肪肝が無ければインスリン抵抗性が低いという事が分かりました。

インスリン抵抗性とは、インスリンの働きが落ちている状態のことです。インスリンの働きが落ちていると、血糖値をうまく下げられなくなり、血糖値が乱高下する原因となります。このため、痩せているように見える人でも、脂肪肝や異所性脂肪の状態によっては機能性低血糖症などのリスクが高まってしまうのです。

また、脂肪肝になっていると肝臓に貯えられる「グリコーゲン」の量も減ってしまうことが明らかになっています。これは、肝臓に脂肪が付くことで肝機能が低下してしまうためです。グリコーゲンは、血糖値が下がったときなどに必要に応じて利用され、低血糖症になるのを防いでくれています。このグリコーゲンの貯蔵量が減ってしまうことで、血糖値を正常範囲に保つことが出来なくなり、低血糖症に陥ってしまうリスクが高くなります。

このようなことから、脂肪肝など異所性脂肪と低血糖症には深い関係性があります。従来、この脂肪肝にかかる人と言えば、お酒をよく飲む人がかかるという認識でした。しかし、近年ではお酒を全く飲まない方でも脂肪肝になったり低血糖症にかかってしまう方も増えてきています。

この理由としては、炭水化物や甘い物の摂りすぎもありますが、ピロリ菌感染などによる消化能力低下やタンパク質を始めとした栄養不足、運動不足も関係しています。低血糖症は糖代謝の悪化だと思われていますが、「タンパク質の代謝能力が低下すること」も根本原因として関係しているんですね。

このように、タンパク質が上手く消化吸収、代謝出来なくなる事は、血糖値の正常なコントロール能力が失われてしまうことに繋がります。特にピロリ菌感染によって発症する萎縮性胃炎は消化能力を著しく低下させ、栄養欠損を生じやすいことから脂肪肝や筋力低下、低体重などに繋がりやすい病気です。

他にも、消化吸収能力が低下すると腸内環境も悪化します。その典型的な症状が、小腸内細菌増殖症やリーキーガット症候群などです。このような腸内環境の悪化も低血糖症と関連があることから、ピロリ菌の感染はますます血糖コントロール能力が低下してしまう原因になりえます。




この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓


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