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#5 保険診療でオーソモレキュラー療法は出来る? 保険診療とオーソモレキュラー療法の違い、薬とサプリメントの違いとは

薬とサプリメントの具体的な違い。同じように見える物でも何が違う?③

ビタミンB製剤と、分子栄養学実践専用サプリメントで使われるビタミンBの違い

次に、病院で処方されるビタミンB剤と、分子栄養学実践専用サプリメントで使われるビタミンBとの違いについてです。

ビタミンBには8種類あり、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンの8種類を総称してビタミンB群(コンプレックス)と言います。

病院で処方されるビタミンB剤はこのうちの1種類を配合したもので、それぞれのビタミンBの働きと効果、病気によって使い分けられています。

例えば、しびれや痛みなど末梢性神経障害の治療に使われているビタミンB12(メコバラミン)、ビタミンB1不足によって引き起こされるウェルニッケ脳症や衝心性脚気、神経機能障害の治療に使われているビタミンB1(フルスルチアミン)、主に高コレステロール血症の治療や、口内炎や湿疹、ニキビの治療や結膜炎の治療に使われているビタミンB2(リボフラビン、FAD)、パントテン酸の欠乏による高脂血症や血液疾患の治療などに用いられているパントテン酸(パントシン)、口内炎や湿疹、ニキビの治療に用いられる他、末梢神経炎の治療に使われているビタミンB6(ピリドキサール)、同じく湿疹やニキビの治療に使われているビオチン(ビオチン散)、同じくニキビや肌荒れ、ペラグラの治療に使われているナイアシン(ニコチン酸アミド)、リウマチの治療時などで起こりやすい葉酸欠乏症の予防及び治療、巨赤芽球貧血(悪性貧血)や再生不良性貧血の治療に使われる葉酸(フォリアミン)などです。

こうして見ると、8種類のビタミンB製剤が目的別にそれぞれ単品で使われていることが分かりますね。では、これらビタミンBの薬を使って、オーソモレキュラー療法は出来るのでしょうか?

まず、これらのビタミンB製剤を処方して貰うためには、正当な処方理由に値する病態と診断されていることが必要です。ビタミンB製剤が処方される主な病気としては、脚気やウェルニッケ脳症、末梢神経障害や皮膚炎などがあります。

この中でも身近なものとしては、痛みや末梢神経障害、皮膚炎などで処方されるビタミンB6やビタミンB12でしょうか。これらは主に、手や足のしびれや痛みを抱えている方や、手足に力が入らない、感覚が鈍いなどの症状を抱えている方や、病気の治療のために処方されるものですので、病気と診断されていない方がこのようなお薬を処方して貰うことは基本的には出来ません。

また、もし病気などでビタミンB6やビタミン12等がお薬で処方されていたとしても、これらお薬でオーソモレキュラー療法を行う事は不可能です。

なぜなら、オーソモレキュラー療法ではビタミンBをそれぞれ単品で摂取するのではなく、8種類すべてをまんべんなく摂取する事が大切だと考えています。これは、それぞれのビタミンがお互い助け合って働くことから、複合体(ビタミンB群)として摂取する事が望ましいためです。

このため、当方が推奨する分子栄養学実践専用サプリメントでは、8種類すべてのビタミンBがコンプレックスとして配合されています。また、DNA(核酸)成分やL-カルニチン、ベタイン、イノシトールなど、ビタミンB群と協調して働く成分も配合されていることも特徴です。

では、なぜこのような8種類のビタミンBを複合体で摂取する必要があるのかというと、 それはビタミンBが三大栄養素(糖質、脂質、タンパク質)を利用するために必要な補酵素であり、単体のビタミンBを摂取したとしても、十分に働くことが出来ないためです。

具体的には、私達が食べたタンパク質や脂質、糖質は、ビタミンB群を使って、体内で細胞のエネルギー源となる「ATP」に変換され、利用されています。このATPとは、いわゆる「エネルギーの電池」のようなもので、このATPを利用することで私達は筋肉を動かしたり体温となる熱エネルギーを生み出したりと、あらゆるエネルギーの元として使われています。

このエネルギーの元であるATPを生み出すためには、ビタミンB群として8種類すべてのビタミンが欠かせません。つまり、1種類だけのビタミンBを摂ったとしても、体内では殆ど働くことが出来ないのです。

例えば、糖代謝の例で見てみましょう。よく言われるものとしては、ビタミンB1です。ビタミンB1には炭水化物に含まれる糖質をエネルギーに変える際に必要な酵素を助ける働きがあるとされています。そのため、ビタミンB1を摂取する事によってエネルギーがスムーズに作られ、疲労回復や精神を安定させる働きがあることがよく言われていますよね。

そのため、疲労回復を目的とした市販のビタミン剤やドリンクなど、幅広いものにビタミンB1が配合されています。

しかし、糖代謝に必要なのはビタミンB1だけに限りません。糖質をエネルギーとして利用するためには、ビタミンB1以外にも8種類すべてのビタミンB群が関係しています。

特に、糖質であるブドウ糖(グルコース)からピルビン酸に代謝される際や、ピルビン酸からアセチルCoAに代謝される際には、ナイアシンを始めとした各種ビタミンB群が関係しています。

また、エネルギーの元となるATPが作られる「TCAサイクル」においても、ビタミンB1以外にもナイアシンやビタミンB2、パントテン酸など様々なビタミンB群が必要です。このように、糖代謝に必要なビタミンはビタミンB1だけではありません。

また、タンパク質の代謝においても同様です。病院ではニキビや湿疹の治療を目的としてビタミンB2やビタミンB6、ビオチンなどのビタミン製剤が処方されることがあります。これらビタミン剤が処方される理由としては、肌の修復や再生にはタンパク質の代謝が関係しており、このタンパク質の代謝にこれらビタミンBが欠かせないためです。

ですが、これらビタミン製剤をどれか1種類だけ処方されたとしても、体内でのタンパク質代謝は上手く回りません。理由は先ほどの糖代謝と同じように、複数のビタミンBが協力して働くことではじめてタンパク質代謝がうまく回せるようになるためです。

特に、タンパク質代謝ではナイアシンやビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビオチンやパントテン酸など、様々なビタミンが関係しています。主な例としては、グルタミン酸の「アミノ基」と呼ばれる部分を外す(酸化的脱アミノ反応)ことによって、αケトグルタル酸とアンモニアに分かれる反応が挙げられます。この反応を行うためにはナイアシンやビタミンB6が必要です。

そして、このαケトグルタル酸は「TCAサイクル」に参加することができ、エネルギーとしても使うことが出来ます。このようにタンパク質を利用するためには様々なビタミンが必要です。

ちなみに、アミノ酸とはタンパク質を構成しているもののことで、人の身体は20種類のアミノ酸から構成されています。

これらアミノ酸は、私達が食べた肉や魚などのタンパク質が材料です。タンパク質は胃で消化され、アミノ酸まで分解することによって得られています。この過程をわかりやすく例えるなら「真珠のネックレス」を思い浮かべてみて下さい。

タンパク質はこのアミノ酸が「真珠のネックレス」のように数珠つなぎに繋がったもので、胃酸やすい液によって真珠のネックレスが一粒一粒になるまでバラバラに分解されます。

こうしてバラバラになったアミノ酸は小腸で吸収され、皮膚や粘膜を構成するための材料として使われるほか、体内で作られる酵素や脳の神経伝達物質の材料、各種ホルモンなど様々なものに使われていますこのようなアミノ酸を体内で利用する際にも、補酵素としてビタミンB群が必要です。

つまり、ニキビや湿疹の改善を目的に特定のビタミンBを処方されたとしても、オーソモレキュラー療法を行うにはそれだけでは足りません。タンパク質を利用して皮膚の再生を促すためには様々なビタミンB群が協力して働いています。また、そもそもタンパク質が上手く消化吸収出来ていなければ、いくらビタミンBを摂っても代謝は上手く回りません。

このような代謝を正常な状態に整え、あるべき身体の状態を取り戻すのがオーソモレキュラー療法です。このためには、特定のビタミンBだけを摂るのでは無く、ビタミンB群としてまんべんなく摂取する事が必要になります。

それからもう一つの例として、血液中を流れる赤血球が大きくなりすぎてしまう巨赤芽球貧血(悪性貧血)の治療に葉酸やのお薬が処方されることがあります。これは、葉酸が細胞分裂やDNAの合成に関与しているためです。こちらに関しても、正常な赤血球を作るためには葉酸以外にもB12やB6など複数のビタミンBが必要です。

具体的には、赤血球は「幹細胞」という骨髄にある細胞が分裂して作られています。そして分裂した赤血球の赤ちゃんが成長していって大人の赤血球になるのですが、その成長の過程には葉酸以外にもビタミンB12やビタミンB6が必要になります。

また、赤血球は細胞ですので、細胞の元となる「タンパク質」が欠かせません。このタンパク質を合成するためにも、エネルギーとして糖質や脂質から作られるATPが必要です。

つまり、巨赤芽球貧血(悪性貧血)の改善には、葉酸やビタミンB12以外にも、先ほどの糖代謝やタンパク質代謝で必要なビタミンB群が一通り必要になるということです。このため、オーソモレキュラー療法を行う際は必ずビタミンB群として摂取する事が重要で、単品で処方されるビタミンB製剤ではオーソモレキュラー療法を行う事は出来ません。

では、もしこれらの8種類のビタミンB製剤を保険診療ですべて処方してもらえた場合、これらを使用してオーソモレキュラー療法は出来るのでしょうか?

こちらに関しても、お薬のビタミンB製剤でオーソモレキュラー療法は出来ません。その理由としては、最初にも解説したように、お薬のビタミンB剤に配合されているビタミンBは「活性型」であるためです。


オーソモレキュラー療法と薬物療法の違い

薬物療法

  • 既に活性化したもの(薬物)を投与する

  • 栄養素や体内での働きを強制的にコントロールする

  • 速効性がある、誰にでも同じように効果が期待出来る

→副作用がある


オーソモレキュラー療法

  • 天然物を投与する

  • 栄養素の利用は生体内のコントロールに任せる

  • 速効性は無いが、人それぞれにあった効果が期待出来る。

→副作用が少ない


繰り返しになりますが、栄養素には、同じように見えても「活性型」と「前駆体」があります。お薬に配合されているものは「活性型」で、食品やサプリメントに含まれているものは「前駆体」です。

食品などに含まれる栄養素は、体内に入ってもそのままの形では働くことが出来ません。いったん身体の中で働ける形(活性型)に変えられてから、やっと働けるようになります。

前駆体は、この活性型になる前の状態を言い、食品やサプリメントに含まれる栄養素のことです。体内では、主に肝臓の働きによって必要に応じて前駆体から活性型に変換されて利用されています。

対して活性型の栄養素とは、既に身体が使える状態で入ってくるもので、ビタミンB製剤で言えばビタミンB12の「メコバラミン」やビタミンB6の「ピリドキサールリン酸エステル水和物」、ビタミンB2の「リボフラビンリン酸エステルナトリウム」などです。また、吸収を良くするために誘導体を付けられたものもあり、ビタミンB製剤で言えばビタミンB1の「フルスルチアミン塩酸塩」や「ベンフォチアミン」などがあります。

これらは吸収も良く、既に活性化されている状態である事から速効性があり、誰にでも同じように効果が期待出来ます。

このように聞くと、栄養素は前駆体で摂らずに活性型で摂った方が効果が高いのでは?と思いますよね。しかし、活性型で摂った場合は身体が本来持っている調節機能を無視して栄養素が働いてしまいます。そのため、場合によっては栄養素の働きをコントロールできなくなり、副作用が出たり逆に生体内の分子や代謝が乱れたりしてしまう原因になるのです。

このことから、処方箋で出されるビタミンB製剤を使ってオーソモレキュラー療法を行う事は出来ません。代わりに、オーソモレキュラー療法では活性型や人工的に加工された栄養素は使用せず、必ず食品と同じ成分で出来た天然由来の栄養素を用います。

このような天然である事、活性型になる前の前駆体である事を、クルードなプレカーサーと言います。クルード(Crude)というのは「天然の、ありのままの、加工していない」という意味で、プレカーサー(precursor)は「前駆体=活性化される前の形」という意味です。

なぜオーソモレキュラー療法では天然由来の前駆体の栄養素を使用するのかというと、栄養素は体内で酵素と結びついて初めて利用出来る状態になります。そのためには、限りなく天然に近い形である事が必要です。

本来、身体には必要な栄養素を必要なだけ活性型に変換して利用しています。これを正常に行うためには限りなく天然に近い形の栄養素が必要で、人工的に合成された栄養素や、もともと天然物を使っていても保存性や吸収性を良くするために誘導体をつけたり加工したりしたものでは、体内で酵素と結びつけずに、異物として排泄されたり効果が弱まったりしてしまう可能性が高くなります。

また、お薬のように活性型で摂った場合は身体が本来持っている調節機能を無視して栄養素が働いてしまいます。そのため、場合によっては栄養素の働きをコントロールできなくなり、副作用が出たり逆に生体内の分子や代謝が乱れたりしてしまう原因になってしまうのです。

対して栄養素の場合、薬と比べて重篤な副作用はあまりありません。食品やサプリメントに含まれている栄養素は、薬と違って生体内で自由にコントロールする事が出来ます。この、体内での栄養素の働きを身体にまかせるのか、それとも強制的にコントロールするのかが、薬と栄養素の大きな違いです。

ただし、薬で処方されるビタミンB製剤のすべてが悪というわけではありません。中には代謝障害や肝機能の低下などによって正常にビタミンBを活性化できなかったり、胃を切除してしまった方などでビタミンB12が上手く吸収出来ない方など、様々な事情の方がいます。

例えば、ビタミンBが活性型として働くためには、補酵素であるビタミンBが酵素と結びついて初めて働くことが出来ます。この酵素と補酵素の結合に必要な結合量や量には、個体差があることが一般的です。オーソモレキュラー療法では、この個体差を加味して至適量の栄養補給を行いますが、中には肝臓の病気や機能の低下、代謝障害によって栄養素を上手く活性化できない方もいます。このような方には、必要に応じて既に活性化されているお薬のビタミンB製剤を使用することも必要です。

また、ビタミンB12は他のビタミンBと消化吸収経路が異なります。ビタミンB12をしっかりと吸収するためには、消化管の状態がしっかりと働いていることが必要です。もし、胃を切除してしまったり、機能が低下していたり、代謝障害によってうまく活性化できない方は、既に活性型として配合されているビタミンB製剤を必要としている方もいます。

具体的には、ビタミンB12は唾液腺から分泌されるR-タンパク(R-binder)と結合します。このR-タンパクは、ビタミンB12の腸粘膜への吸収を促進する働きがあります。このR-タンパクとビタミンB12が結合した状態で胃を通過すると、ビタミンB12を吸収するために必要な「内因子」が胃から分泌されます。

そして、ビタミンB12が十二指腸に進むと、先ほどのR-タンパクが切り離されて内因子と結合し、この内因子の助けを借りて小腸から吸収されます。

つまり、ビタミンB12をしっかりと吸収するためには、このような胃と腸を含めた消化管の状態がしっかりと働いていることが必要です。もし、胃を切除してしまったり、機能が低下していたり、代謝障害によってうまく活性化できない方は、必要に応じてお薬のビタミンB製剤を注射で投与したり鼻腔内投与したりすることも必要になります。これら方法であれば、胃の内因子の影響を受けずに直接体内に投与することができるため、内因子の分泌不足など消化管の状態に関係なくビタミンB12を吸収することが出来るからです。

このように、サプリメントのビタミンB群と薬のビタミンBでは役割が異なります。通常医療で使用するビタミンB剤は、あくまで何らかの病気や障害によって必要とされる場合にのみ使われるものであって、日常的な栄養補給を目的としたものではありません。もし、8種類すべてのビタミンB製剤が処方されたとしても、お薬でオーソモレキュラー療法は出来ないのです。

ビタミンBというとみんな同じように見えるかもしれませんが、比べてみるとオーソモレキュラー療法と保険診療では、使う材料ややり方、考え方に大きな違いがあることが分かりますね。



※この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓


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