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#3 オーソモレキュラー療法は自宅でできる検査キットを使って実践できるのか? クリニックで受ける検査との違いや問題点を解説

タンパク質不足や貧血には必ず原因がある。オーソモレキュラー療法では、原因を調べて根本からアプローチすることが大切

ここまで、自宅でできる検査キットの問題点や、単に特定の項目だけを見て栄養が足りているか足りていないかを判断することの問題点について解説してきました。

自宅でできる検査キットを使用する方は、主にフェリチン値低下による隠れ鉄欠乏性貧血の改善や、それに伴う精神的不調、身体的不調の改善が目的かと思います。特に、メガビタミン健康法などでは「タンパク質不足や鉄欠乏性貧血を改善すれば不調が治る」として、フェリチン値を上げることが重要だと言われていますよね。

このように聞くと、単に「タンパク質と鉄分を摂取すれば良いのでは」と思われるかも知れませんが、実はタンパク質不足や貧血は、タンパク質や鉄分の摂取が足りない以外にも、様々な原因や栄養欠損が関係しています。

例えば、鉄欠乏貧血においては、ピロリ菌に感染している場合や、婦人科疾患による過多月経、スポーツにおける溶血、自律神経の乱れによる消化吸収能の低下、消化管からの出血、タンパク質やビタミンB群、亜鉛などの栄養欠損など、様々な原因が複雑に絡み合って発生しています。

加えて、例えその方が貧血だったとしても、貧血には様々な種類があり、その原因も様々です。例えば、亜鉛が足りなくて貧血になる亜鉛欠乏性貧血や、再生不良性貧血、大球性貧血や小球性貧血、慢性炎症における鉄の利用障害や、溶血性貧血など、貧血には様々な種類があります。

そのため、単にフェリチン値を調べて鉄やタンパク質を補給するのではなく、何故タンパク質不足や貧血になってしまったのかの原因をしっかり調べて行う事が重要です。

特に重度の貧血を引き起こしている場合には、消化管の出血や婦人科疾患など出血を伴う何らかの疾病が隠れている可能性があります。貧血を改善する際には、これら出血原因となっている疾病から先に対処する必要があるため、まずは疑わしい原因を特定するための検査を受けることが重要です。

また、造血を行うためには鉄分以外にもタンパク質やビタミンB群、亜鉛、セレン、マンガンなど様々な栄養素が必要です。鉄分を十分に補給してもこれら栄養素の摂取が足りない場合や、タンパク質が十分に消化吸収出来ない場合でも貧血となる場合があります。

この消化吸収に問題が起こる原因としては、先に挙げたピロリ菌の感染やIBS(過敏性腸症候群)、ストレスや自律神経の乱れなど、様々な原因があります。このような問題を抱えていた場合は、問題となっている疾病や症状の対処も同時に行う必要があります。

このように、貧血を含めた栄養欠損は、病態や生活習慣など様々な原因が関係しているため、その方それぞれに最適な分子栄養学的アプローチを行っていく事が大切です。

オーソモレキュラー療法ではこのような関連項目や病態、生活習慣を含めた幅広い情報を元に行っていく事から、単にフェリチン値のみを見て貧血かどうかを判断し、アプローチを行う事はありません。また、貧血の方に対して鉄分だけを摂らせることもありません。

加えて、メガビタミン健康法で言われているような「精神的な不調はタンパク質不足と鉄欠乏性貧血が原因であり、フェリチン値を上げれば改善する」というのも、すべての方に当てはまるとは限りません。

例えば、うつ症状との関連があると考えられる疾病としては、貧血以外にも様々なものが関係しています。

うつ症状との関連があると考えられる疾病の例

  • ピロリ菌感染による消化能力の低下と栄養欠損

  • 更年期障害

  • 低血糖症

  • 甲状腺機能障害

  • PMS、PMDD

  • SIBO(小腸内細菌増殖症)

  • リーキーガット症候群(腸漏れ症候群)

  • 機能性ディスペプシア

  • 過敏性腸症候群

  • 副腎疲労症候群

  • 脳の炎症

このような疾病は、消化吸収能の低下や自律神経の乱れを引き起こし、結果的にタンパク質不足を始めとした栄養欠損の状態になりやすくなります。栄養欠損の状態では、自律神経の調節に必要な栄養素が不足してしまうことから、うつ症状などが引き起こされてしまうことがあるためです。

そのため、うつ病だからといって症状だけで鉄欠乏性貧血だと決めつけるのでは無く、血液検査を通して客観的に判断し、それぞれ適切なアプローチを行うことが大切です。

特に貧血には必ず原因があり、消化管から出血している場合には、まず消化管からの出血を止めることが第一ですし、婦人科疾患によって出血量が増加していた場合は、婦人科疾患の治療を先に行うことも必要になります。ピロリ菌の感染やリーキーガット症候群などで消化吸収能が低下していた場合は、その対策も必要です。

この原因からきちんと対処しなければ、いくらサプリメントで鉄を補給したとしても、血液や栄養素がザルのように体外へ流れ出てしまってほとんど効果がありません。

オーソモレキュラー療法では、症状の背景にこのような疾病が隠れていないかどうかを血液検査や画像診断などで分析し、必要であれば疾病に対して薬物療法を行うなど西洋医学的な治療も併せて行われます。

そして、その人の消化吸収能や状態に合わせた「至適量」の栄養補給を行っていくのが正しいオーソモレキュラー療法のアプローチです。

自宅でできる検査キットでは、このような根本原因までは分かりませんので、ただ単にプロテインや鉄サプリメントを飲む事になります。これでは正しいアプローチが出来ず、隠れた病気や原因を見つけることも出来ません。

オーソモレキュラー療法は単に数値が低ければ栄養を足せば良いという単純なものではありませんので、自己流で行わず、必ず医療機関でオーソモレキュラー療法専用の検査を受けるようにしましょう。


Column : 今後、オーソモレキュラー療法に完全対応した「自宅でできる血液検査キット」は販売される?

ここまで自宅でできる検査キットの問題点を解説してきましたが、やはりクリニックなどで検査を受けられない方にとっては、自宅で血液検査ができた方が有り難いですよね。

では、今後フルセットの項目が検査できるなど、オーソモレキュラー療法に完全対応した血液検査キットは誕生するのでしょうか?

現在の自宅でできる血液検査キットでは、試薬の違いや検査項目の違いなどがあり、オーソモレキュラー療法で使うことは出来ません。しかし、試薬を統一したり検査項目を増やした検査キットが出来た場合はどうでしょうか?

検査結果に関しても、医師が解析してその結果を送って貰えれば、脱水や病態などの影響も考慮しなくて済みますよね。

しかし、現時点で自宅でできる完璧なオーソモレキュラー療法の検査キットが販売される可能性は、かなり低いと言えます。

その理由は、やはり採血は手法や手技、温度による影響が大きいことと、身体の状態を正確に把握するためには、最終的には目視での検査や判断が必要になるためです。

例えば、血液検査は検査する項目数が増えるほど採血する量が増える傾向にあります。自宅でできる検査キットでは指先に「ランセット」と呼ばれる針を刺して血液を押し出すのですが、この方法で多量の血液を採血するのは無理があります。人によっては血流や血管の状態から、十分な量の採血が出来ない場合もあります。

また、何回も手指を圧迫して血液を押し出すことで赤血球が壊れたり、採血に時間がかかりすぎたりすると検査値にも影響があります。加えて、冬場の寒い時期では低温によって血球内からカリウムが漏れ出て異常高値となる事もあるため、郵送でやりとりする検査キットでは正確な値は期待出来ません。

さらに、検査結果によっては超音波やカメラなど画像診断を追加で行う必要があったり、検査内容によっては遠心分離機にかける必要があったりもします。このことから、やはり自宅でできる検査キットでは完璧な検査は行えません。

そのため、自宅でできる完璧なオーソモレキュラー療法の血液検査キットが今後市販されることはほぼ考えにくいかと思います。

もちろん、テクノロジーの進化によって自宅で検査ができるようになる時代が到来する可能性はあります。しかし、現時点ではそれがすぐに実用化する可能性は低いでしょう。

クリニックが近くに無いなどでオーソモレキュラー療法の血液検査が受けられない方にとっては残念ですが、今後オーソモレキュラー療法の血液検査対応クリニックが増えていくことに期待しましょう。




※この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓


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