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#1 分子栄養学と一般的な栄養学の違いとは? それぞれの違いを具体的に解説

栄養学には、基本となる一般的な栄養学の他にも、様々な栄養学が存在します。その中でも、栄養療法や高濃度ビタミンC点滴など「分子栄養学」を取り入れるクリニックが増えてきました。

分子栄養学は、人によって「分子整合栄養医学」や「オーソモレキュラー療法」などと呼ばれることもあります。この分子栄養学とは一体どのようなものなのでしょうか? 一般的な栄養学と分子栄養学とでは、どのような違いがあるのでしょうか?

今回は、一般的な栄養学と分子栄養学の違いと、分子栄養学がどのようなものかについてわかりやすく解説します。


分子栄養学と一般的な栄養学の歴史、目的の違い

一般的な栄養学と分子栄養学とでは、一体何がどのように違うのでしょうか?

まず、この2つは、その歴史も目的も全く異なります。一般的な栄養学では「この栄養が足りないとこんな病気になるので、その病気にならないようにこの栄養素を十分に摂りましょう」というのが一般的な栄養学です。

例えば、ビタミンCが足りないと「壊血病」という病気になることが知られています。壊血病とは、ビタミンCが欠乏したことにより血管や皮膚がもろくなり、全身の至る所から出血して最終的には死に至る病気です。

壊血病は、古くは15−18世紀の大航海時代において、主に船乗り達に発症する病気でした。当時は冷蔵庫という物が無かったので、新鮮な野菜や果物を積まずに航海に出発することが当たり前の時代です。このような中、航海が長引くにつれて乗組員の多くが壊血病になり、次々に死亡していきました。

この壊血病で亡くなった人の数は、16世紀から19世紀に至るまでに200万人を超えるとも言われています。当時は柑橘類を食べると発症が抑えられることが経験的に分かってきたものの、依然として壊血病の原因は不明のままでした。

その後、抗壊血病物質であるビタミンCが発見されたのは、20世紀に入ってからのことです。それまで壊血病の予防、改善にビタミンCが有効である事は知られておらず、ましてやビタミンC自体も発見されていませんでした。何世紀にもわたって大勢の死者を出し、原因不明とされてきた壊血病に終止符が打たれたのは、ここ最近の出来事なのです。

このような歴史などから「特定の栄養素が不足すると病気になる」ことが広く認知されるようになりました。そして、病気の予防のために必要な栄養素を摂取するという考えが広まり、発展してきたのが「栄養学」です。今となっては壊血病の予防にビタミンCが有効である事は、誰もが知るところですよね。

このように、「この栄養が足りないとこんな病気になるので、その病気にならないようにこの栄養素を十分に摂りましょう」というのが一般的な栄養学です。


分子栄養学の歴史とその目的とは

では、分子栄養学とは一体どのような学問なのでしょうか?

分子栄養学(ぶんしえいようがく)とは、食物から摂取した栄養素や食品成分が、体内でどのように働くかを分子レベルで解明する学問のことです。分子栄養学は、20世紀後半に北米で活躍した2名の科学者、ライナス・ポーリング博士(1901-1994 年)とエイブラム・ホッファー博士(1917- 2009 年)により確立されました。

先ほどの栄養学は欠乏症や病気を予防することが目的なのに対し、分子栄養学では、私たちの身体がもつ本来の力を最大限に引き出し、オプティマムヘルス(単に病気を予防するだけに限らず、心身ともに最高・最善の健康状態)の実現を目指す事が最大の目的です。

分子栄養学は、人によって分子整合栄養医学(ぶんしせいごうえいよういがく)やオーソモレキュラー療法、オーソモレキュラーニュートリション、栄養療法などと呼ばれることもありますが、基本的にどれも同じものを指しています。

これら言葉の利用傾向としては、基礎理論である座学に対して分子栄養学や分子整合栄養医学などと呼ぶことが多く、対してクリニック等で提供している分子栄養学を元にしたサービスに対しては、オーソモレキュラー療法や栄養療法と呼ばれる傾向にある印象です。

このサイトでも、わかりやすく解説するために分子栄養学の基礎理論を解説する場面においては「分子栄養学」とし、クリニックで提供されている分子栄養学を元にしたサービスを解説する場面においては「オーソモレキュラー療法」という表現を用いています。

オーソモレキュラー”Orthomolecular”という言葉の意味は、ギリシャ語の「正しい」という意味に由来するortho(正常な)と molecule(分子)を組み合わせた造語です。この言葉は、ノーベル賞受賞者でもあり、分子栄養学の第一人者であるライナス・ポーリング博士が提唱しました。


分子整合栄養の理念多くの疾患は、体内の分子が本来あるべき正常な状態ではなくなる事と考え、分子を正常化するために不足している栄養素を至適量補給することによって自然治癒力を高め、病態改善が得られる。

ノーベル化学賞受賞 ライナス・ポーリング博士


ポーリング博士は、自身が研究する鎌状赤血球症という病気の背景に、ヘモグロビン分子の異常が潜んでいることを発見し、「分子病」という病気の概念を新たに確立したことで知られています。

鎌状赤血球症とは、本来丸いお餅の真ん中をへこませたようなへん平な形をしている赤血球が、草を刈る鎌のような三日月に変形してしまう病気です。赤血球は全身に酸素を運ぶ役割を担っていて、本来のへん平な形をしていれば、細い毛細血管内でも柔軟に形を変えて通り抜けることが出来ます。

しかし、赤血球が三日月型に変形してしまうと、毛細血管など細い血管が通れなくなって詰まってしまい、壊れやすくなってしまいます。その結果、慢性溶血性貧血、慢性疲労、疼痛、臓器障害など、さまざまな症状につながってしまうのです。

ポーリング博士は、この鎌状赤血球症という病気の背景に、赤血球の中のヘモグロビン分子の異常が潜んでいることを発見しました。ヘモグロビンは、アミノ酸など様々な分子が組み合わさって出来ています。このヘモグロビンに含まれるたった1つのアミノ酸分子の違いが、鎌状赤血球症の原因となるのです。この発見こそが、分子の乱れが人間の病気の原因になることを世界で初めて示した瞬間でした。

それ以降、ポーリング博士は自身の研究を通じて「生体内の分子の乱れが病気の発症に関与しているのではないか」と考えるようになります。そして、前述した「多くの疾患は、体内の分子が本来あるべき正常な状態ではなくなる事と考え、分子を正常化するために不足している栄養素を至適量補給することによって自然治癒力を高め、病態改善が得られる」事を提唱したのです。

これは、私たちの身体の中に正常にあるべき分子(molecule)を至適濃度に保つ(ortho)充分量の栄養素(nutrition)を摂取し、それを適切に消化・吸収・代謝することによって生体機能が向上し、病態改善が得られるという理論です。

ここで言う分子とは、私達が普段摂取しているタンパク質や脂質、ビタミンやミネラルなどの栄養素のことを指しています。例えば、私達の身体は200種類以上、およそ数十兆個の細胞が集まって出来た細胞の集合体です。これら細胞が集まることで心臓や脳、肺や血管、皮膚や筋肉などの組織が作られ、組織が集まることによって私達の身体が作られています。

では、この細胞自体を作ったり、動かしたりするエネルギー源や材料は一体何なのでしょうか?

これこそが、「タンパク質」「脂質」「糖質」「ビタミン」「ミネラル」などの栄養素(分子)であり、生命活動を営むために欠かせない成分のことです。

私達の皮膚や組織などの細胞を一つ一つもっと深く見ていくと、やがてこれ以上小さく見ることが出来ない「分子」という状態になります。

分子はビタミンやミネラル、アミノ酸などの分子(栄養素)のことで、これら分子(栄養素)が集まって構成された物が細胞です。

そして細胞は、糖質や脂質などの分子(栄養素)をエネルギーとして利用することで体温を作り出したり、身体を動かしたりしています。

私達の筋肉や臓器、骨なども、タンパク質やミネラル等で作られている事はご存じですよね。これらタンパク質やミネラル、糖質や脂質などは、胃や腸などの消化管を通じて消化(繋がった分子をバラバラに)した後、血管を通って細胞に必要な分子が送り届けられています。

つまり、私達は食事を通じて細胞に必要な分子(栄養素)を得て、組織の機能を維持し、生命活動を行っているのです。もし、この時に胃や腸などの消化管に問題があったり、食事の内容やバランスが悪くなったりしていると、体内の分子(栄養素)の量やバランスが乱れてしまい、細胞の正常な働きが出来なくなってしまいます。

この乱れた分子(栄養素)を個人個人、必要な量を補給することで、細胞の働きを本来あるべき状態に整え、病態の改善や予防、オプティマムヘルス(心身ともに最高・最善の健康状態)を目指すのが分子栄養学です。

具体的には、分子栄養学では消化管である口、胃、小腸や大腸、胆嚢などの状態や、酵素の量、働き、ホルモンや自律神経など身体の代謝全般と、個人個人の状態や病態を考慮して栄養補給を行います。対して一般的な栄養学では、消化管の状態や自律神経、ホルモンの異常などの病態や個人差は考慮しません。

また、分子栄養学では消化、吸収した栄養素が血液に運ばれて実際に利用されるまでを考慮しますが、一般的な栄養学では栄養素を摂取するだけに留まっています。

このように、一見すると一般的な栄養学と分子栄養学は似ているように思えますが、その中身は全く違うものです。



※この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓


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