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#2 分子栄養学と一般的な栄養学の違いとは? それぞれの違いを具体的に解説

一般的な栄養学と分子栄養学の具体的な違い

では、もっと踏み込んで、分子栄養学と一般的な栄養学の違いについて具体的に解説していきましょう。

まず、一般的な栄養学が用いられている場面としては、学校や病院などにおける給食計画や、健診における健康指導などがあります。主に「栄養士」「管理栄養士」の方が、厚生労働省の定めた栄養摂取基準である「日本人の食事摂取基準」に基づいて給食計画を立てたり、指導方針を決めたりしています。

この「日本人の食事摂取基準」とは、厚生労働省から出されているガイドラインの1つで、健康な個人または集団を対象として、国民の健康の維持・増進、エネルギー・栄養素欠乏症の予防、生活習慣病の予防、過剰摂取による健康障害の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示したものです。

例えば、ビタミンCの場合、成人では1日の推奨量が100mg(2020年版食事摂取基準)と設定されています。日本人の食事摂取基準では、年代と性別ごとに必要な栄養素量が記されていることが特徴です。

この説明文からも読み取れるように、一般的な栄養学では健康な人を対象として、主に食事からエネルギーや栄養素を摂取し、欠乏症の予防や生活習慣病などの予防を目的としていることが分かりますね。

また、似たようなものとして「栄養素等表示基準値」というものがあります。こちらは年代や性別関係なく、日本人一般に幅広く適用できる共通の"ものさし"として厚生労働省より設定されたものになります。

例えば、スーパーやコンビニなどで「これ一本で1日分のビタミンやミネラルが摂れる」というようなことが書かれた商品を目にしたことがありませんか? このような「1日分のビタミンやミネラル」という基準も、「栄養素等表示基準値」を元に設定されたものです。こちらも、日本人の食事摂取基準と同じように、栄養素欠乏症の予防などを目的として設定されたものになります。

このように見ていくと、一般的な栄養学だけでも十分な栄養が摂取出来るように思えるかもしれません。しかし、本来、個人ごとに必要な栄養素量は、年齢、性別、身体活動の程度、病態の有無などによって異なっています。

「日本人の食事摂取基準」や「栄養素等表示基準値」では、このような身体活動の程度や病態などの個人差までは考慮していません。あくまで、健康な人に対して欠乏症の予防、生活習慣病の予防などを目的として設定された目安です。つまり、これら基準値を守って栄養摂取を行っていたとしても、それが必ずしも自分にとって必要な栄養素の量とは限らず、生活習慣病の予防や健康維持に繋がるとは限らないわけです。

対して分子栄養学では、年齢や性別、身体活動の程度や病態の状態、消化吸収能の状態など個人差を考慮し、食事からの栄養摂取に加えてサプリメント(分子栄養学実践専用サプリメント)を用いて必要な栄養素を摂取します。

更には、病気の予防や治療といった枠を超え、「肌の状態を良くしたい」とか「もっと筋肉を付けたい」「疲れ知らずの毎日を送りたい」など心身ともに最高・最善の健康状態を目指すことが最大の特徴です。

この個人差や全身の状態を把握するために、分子栄養学を実践する際は専用の血液検査を行っています。この血液検査は、保険診療による病気を診断するための血液検査と違い、栄養状態を把握するために行われるものです。

この結果を基に医師が解析し、個人差や病態、薬とサプリメントとの飲み合わせなどを考慮したレポートが作成されます。(当方が推奨するオーソモレキュラー療法の場合)

その結果を参考に栄養アプローチを行っていくのが、分子栄養学であり、オーソモレキュラー療法です。

このような血液検査による個人差を考慮するか否かと、更により良い健康状態を目指すかどうかが、一般的な栄養学と分子栄養学の大きな違いになります。わかりやすくするために、次の表に一般的な栄養学と分子栄養学の違いを比較してみました。

一般的な栄養学では、病態や活動量、消化吸収能力など個人差に応じた栄養摂取量は考慮されていないのに対し、分子栄養学ではいずれも個人差を考慮し、個人個人に合わせた栄養アプローチを行います。

具体的にどのような違いがあるのかを、1つずつ解説していきましょう。


一般的な栄養学と分子栄養学の違い①『消化吸収能の考慮』

まず、一般的な栄養学ではその方の消化吸収能力などを考慮しないのに対し、分子栄養学では個々に応じた消化吸収能を考慮します。

例えば、いくら栄養満点の食事を食べたとしても、それがきちんと消化、吸収されなければ全く意味がありません。食べ物に含まれる栄養素は、しっかり消化・吸収されて初めて栄養となります。

一般的な栄養学では、食べ物に含まれる栄養素量が基準値以上摂れていれば、それだけで栄養が摂れたとされています。その食べ物がしっかりと消化・吸収されているかどうかまでは考慮しません。

対して、分子栄養学ではその人の消化酵素の分泌量や、ピロリ菌感染の有無、腸内環境の状態などを必要に応じて検査し、問題がある場合はケアをするなど個人個人に合わせた栄養アプローチを行っています。

例えば、食べ物をしっかり消化・吸収するためには「消化酵素」と呼ばれる酵素が十分に分泌されている必要があります。主な消化酵素としては、胃酸の分泌量を示す「ペプシノゲン」や脂質を消化吸収するために必要な「リパーゼ」、炭水化物を消化吸収するために必要な「アミラーゼ」などです。

食べた食べ物は、これら消化酵素がしっかり分泌され、きちんと消化・吸収されて初めて栄養となります。

しかし、このような消化酵素の分泌量には個人差や病態などが関係しているため、同じ食べ物を食べたとしても食べ物に含まれる栄養素の消化吸収量には個人差があります。同じ肉を100g食べたとしても、きちんと消化吸収出来る人も居れば、ほんの少ししか消化吸収出来ない人もいるのです。

このような差が出る原因としては、ピロリ菌の感染による慢性胃炎や、胆汁の材料となるコレステロール値の低下、慢性膵炎などによるアミラーゼやリパーゼの分泌量低下などが挙げられ、その人の状態によって食べ物の消化吸収能力は大きく異なります。また、加齢や遺伝的な要因でも消化吸収能力は変わってきます。

分子栄養学ではこのような消化吸収能を考慮し、必要な対策と栄養アプローチを行うために実施しているのが、血液検査によるスクリーニング検査です。

例えば、初回の検査時には、基本検査と併せてピロリ菌の感染有無とペプシノゲンの分泌量を測定する「Hp抗体」と「PGⅠ/PGⅡ」検査をオススメしています。

この理由としては、先ほども解説したようにピロリ菌に感染していると胃腸機能の低下や胃がんなどの胃病変リスクが増加するためです。ピロリ菌に感染していると、慢性萎縮性胃炎を引き起こす原因となり、胃酸の分泌量が低下してタンパク質など食べ物を消化する能力が低下する恐れがあります。

また、胃酸に含まれるペプシノゲンはタンパク質の消化に関係している事から、ペプシノゲンが十分に分泌されているかどうかのチェックも重要です。もし、ペプシノゲンの分泌量に問題がある場合は、消化酵素の摂取など消化サポートをオススメする、プロテインの代わりに消化の必要が無いアミノ酸の摂取をオススメするなどの対応も必要に応じて行われています。

他にも、小腸や大腸の状態、腸内細菌叢のバランスなども消化吸収能力に影響を与える事から、これらの考慮も行っています。

例えば、本来あまり腸内細菌が生息していないはずの小腸に腸内最近が大量に増殖してしまう小腸内細菌増殖症(SIBO)や、小腸粘膜の細胞同士に隙間が出来てしまい、そこから異物が漏れて血管内に侵入してしまうリーキーガット症候群、下痢と便秘を繰り返してしまう過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアの有無などです。

これら腸内環境の異常は、便秘や下痢を繰り返す、お腹が張る、アレルギーが引き起こされるなど様々な不調を引き起こす原因になり、食べ物の消化吸収能力も低下する原因です。

分子栄養学では、必要に応じてこれら検査も行い、必要に応じて対策や栄養アプローチを行います。このような、個人個人の状態や消化吸収能に合わせた栄養アプローチを行うか否かが、一般の栄養学と分子栄養学の大きな違いです。

ちなみに、一般的な栄養学における給食や病院食でも、その人の状態に応じて「刻み食」や「ミキサー食」などに加工する場合があります。こちらはどちらかというと消化吸収能力の考慮では無く嚥下能力(飲み込む力)の低下を考慮したものです。

確かに刻み食やミキサー食にした方が消化の負担は少なくなりますが、同時に噛む回数が少なくなるため、噛むことによる健康効果は得られません。例えば、噛むことによって唾液が分泌され、唾液に含まれるアミラーゼが炭水化物の消化を助けてくれます。

このことから、分子栄養学ではきちんと「噛んで食べる」ことも重要だと考えています。刻み食やミキサー食はあくまでエネルギーや栄養素の欠乏症を防ぐために行われるものであって、分子栄養学ではありません。この違いを理解することが、一般の栄養学と分子栄養学の違いを理解する上で重要です。



※この記事は、下記記事から一部を抜粋・改編したものです。記事全文は下記記事をご覧下さい。元記事はこちら↓


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