見出し画像

何者かの成れの果てアメリカン・スナイパー

あるいは主体なき殺人。

僕はロボットアニメが大好きだ。特に富野ガンダム。しかし、2015年にGのレコンギスタのTV版を見た後に多少の停滞感を感じた。その時に会食デートした女性(恋愛関係ではなく観光案内だが…)が洋画好きの人だった。なので、ガンダムとかアニメとかばっかりではなく実写の名作を見て見聞を広めるのもよかろうと思った。その時に流行っていたのがアメリカン・スナイパー。クリント・イーストウッド監督は富野監督以上に高齢ながら刺激的で重厚な作品を撮る監督であるし。ダーティハリーシリーズは世代ではないが、日本人として硫黄島二部作も見ごたえがあったし。で、見ようと思っていたのだが、結局、Gレコの2周目の考察をしたりなんなりで、5年後の先日のゴールデンウィークに熱が出ているのにレンタルでアメリカン・スナイパーを見た。
 ちなみに、5年前の映画なのでネタバレはする。えーと、端的に言うと沢山死にます。

しかし、5年前の映画なので今更感想を書いても対してアクセスは伸びないと思うのだけど、ここは僕のチラシの裏だし、僕は一度着想を得たら書き終わるまで頭の中でぐるぐるするので書く。


肩透かしを食らった


 視聴動機がそのような「ガンダムよりも硬派な映画を見るぞ」というものであったため、アニメでは味わえない重厚なリアリティとか哲学を期待していたのだが、意外とエンターテイメントで肩透かしだった。



主人公の狙撃手のクリス・カイルが書いた自伝を原作にしているが、西部劇的な決闘をクライマックスに持ってくるなどのエンターティンメント的な現実改変がある。
 まあ、そういうテクニック的な面はそれとして、いろいろなものが単純化されていると思った。

事実であるが、クリス・カイルが最初に狙撃する相手は子供である。クリス・カイルは戦場にいるうちにPTSDを発症する。強い男がPTSDになる理由として「子供を殺さざるを得なかったから」というピースを置くのはテクニカルに効果的だ。
 また、戦場であるイラクも武装組織(正規軍なのか、アルカイダなのか、その他の武装軍閥なのかはイマイチ映画を見るだけでは判別しない)に支配されており、武装組織の屠殺人(ブッチャー)と仇名される幹部はアメリカ軍に協力したイラク人の民間人の手足を切り落としたり、子供を殺害したりする。

「子供を殺すのは良くない!」
 これは政治的信条とは関係なく、大抵の人が直感的に同意する価値観であろう。そういうわけで、子供を殺さざるを得なかった主人公の狙撃手が心を病むのは当然であるし、子供を殺したり、子供に武器を持たせる中東人は悪い、みたいなことが単純にイメージされる。

ここから先は

12,855字

¥ 100

サポートのおかげで、これからも執筆活動などができます