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抱っこの終わり

長男・いちくん(仮名)は、もうすぐ5歳。

来年には年長組に進級し、幼児期の終焉を迎える。

気づけば手足もにょきにょき伸びて、抱き上げると収まりが悪く、持て余す。

それでも今はまだ、「抱っこする人〜」と呼ぶと「はい!」と元気よく返事して、私の胸にぴょんと飛び込んでくるのだ。

「いちくんは、いつまで抱っこさせてくれる?」と尋ねると、首を傾げるので、「5歳は?」と具体的な数字を出してみる。

「する」「6歳は?」「する」「7歳は?」「する」……。

15歳まで「する」と答えたところで、「でも」と彼は言った。

「自分で歩けるときも、あるんだよ」

その言葉に頼もしさと嬉しさと寂しさと切なさとがないまぜになって、私は言う。

「ママに抱っこされるのが嫌だな、と思ったら、いつでも言っていいんだからね」

そう遠くない将来に、彼が母親と触れ合うなんてとんでもない、と思う日が来るのだろう。

夫は小学生のとき、義母と手を繋いで歩いていたら、「いつまで手を繋いでくれるのかなぁ」と呟かれ、「ずっとつなぐのになぁ」と不思議に思ったが、それからあまり時間を置かず、手を繋がなくなってしまった……という思い出があるらしい。

義母の気持ちが痛いほどわかるし、夫の成長は正常すぎるほど正常だ。

まだよく意味のわからない息子は、「うん」と真面目な顔でうなずいたが、しかしすぐに

「でも、その次の日はまた抱っこしていいよ!」

とはにかんだ。

私は息子をぎゅっと抱きしめた。

(終)

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