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【プロローグ前のプロローグ】なんで編集者になったんだっけね。

物語を書く人になりたいなぁ、と思っていた。

幼稚園の頃、伯母からもらったマロンクリーム(サンンリオキャラです)(世代……)のノートに、マロンクリームの架空の物語を綴るという「無意識二次創作」を行ったことが、その後の人生を決定付けたのではないかと思う。

小学校に上がり、父親のお下がりのワープロ(時代……)をもらうと、そこに入っていた「ブラインドタッチ練習ソフト」で毎日毎日キーを叩き、反比例するかのように幼少期から習っていたピアノの鍵盤を一切叩かなくなり、母親を嘆かせた。

感熱紙(って知ってます……? ファックスとかレシートに使う紙のことですよ……)に、そのワープロで綴った物語を印刷するようになったのはそのあとすぐのことで、「私の物語が紙に!」と悦に入った(感熱紙はすぐに劣化し文字が読めなくなるのだが……)。

中学に上がると、後輩をモデルにした小説もどきやら、好きなアニメの二次創作やら、通っていた塾のフィクションとノンフィクションをまぜこぜにした話を書いては、誰かに読ませていた。
さらにこの辺りで、二つくらいの作文でショボい賞をもらい、ショボい割りに副賞が「図書券3000円分」などという即物的かつ当時にしては大金だったものだから、私は調子にのり、こう考えた。

「文章を書くことは金になる」

結果的に、現在読み書きしてお金をもらっている身としては、この「一歩間違えたら中二病的思想」が正しかったことになるし、この根拠のない(もしくは3000円×2という微々たる根拠が)自信が今の自分を作っているのだから、人生はわからない。

加えてこのとき、ネクラ女子にありがちな図書委員(キラキラ図書委員女子がいらっしゃいましたら深くお詫び申し上げます)、しかも委員長までやってしまったせいで、私の本に接する時間は格段に増える。
このとき、学習的図書だけは充実している図書室で古典名作とか近代文学に興味を示さなかったのが今となっては痛恨の極みだが、代わりに私が偶然手に取った本が、私の人生を決定付ける出来事その2となった。

タイトルは忘れたが、著者は忘れもしない、椎名誠氏だ。

「編集者時代、作家の原稿を見ていて、自分でも書けるんじゃないかと思って書いたら作家になった(意訳)」

頭に稲妻が落ちたような衝撃が走った。

(そうか、編集者になったら、作家になれるんだ……!!)

なれるかぁあ!!!!!!!

と当時の私に一本背負いを喰らわせたい。何がどうなってそんな思考回路に陥ったんだろう。
浮かれた女子中学生の頭、意味がわからない。
しかも後々私は編集者を目指した理由を
「椎名誠に騙されて……」
などと話すようになるのだから始末に終えない。
これは現在の話です。

とにもかくにも、幼少期に着々と積み立てられていた人生の土台に「編集者」という矢印つきの看板が建てられた。

***

三つ子の魂100までというかなんというか、昔祖父が手作りした落書き帳の表紙に「砂東先生の爆笑エッセイ!」(さくらももこのエッセイにはまっていたのだ)とかいて、20近く年の離れた従兄に大爆笑された、そんな「爆笑エッセイ」的なあおりを日々考える仕事をしているし、なんなら出版業界のお約束、ゴーストライティングという意味での自著は何冊も積み重なって、くだんの大爆笑した従兄の息子にあげた自分の本に「えっ、サインちょうだいサイン」なんぞと言われるようになった。
サインくらいいくらでもあげるけど、あの日傷ついた私の自尊心を返せ!と言いたい。

だがしかし「作家の踏み台」とかいうものっそい不遜な理由で目指した編集者という職業が、ものすごく人気職、かつ狭き門をくぐらねばならないという事実を知ったのは、生協に積み重なる「マスコミ就職」のガイドブックを呆然と眺めた大学一年のときだった。

おまけに、現代文学と創作、評論を学ぶ学科のオリエンテーションにて、教授は重々しくこう言ったのだ。

「今、君たちは作家になりたいと思っていると思う。でもそのほとんどが来年には『大手出版社の編集者になりたい』と言っているだろうし、その次の年には『どこでもいいから出版社に入りたい』と言っているだろう」

予言が正確すぎて二年後にどんびいたのだが、とどのつまり毎年同じような運命をたどる学生が多発したということだろう。

もちろん、私も。

苦しい思いをし過ぎて何度も泣いたり凹んだり凹んで甘いものでも食べてりゃ可愛いのに肉ばかり食べて後輩たちに引かれたり美容院でパーマをかける暇すらなく「わーっ、先輩縮毛矯正かけたんですか!?」とド直毛な髪にポジティブな誤解をされたりしたが、ひとまず私は編集者になって転職もしてそこそこ人並みに生きてはいる。

どうしてこんな話が始まったのか、理由は次に書くが、十年近く前の記憶をこの際だから徹底的に洗い出したい! と思っている。

サポートをご検討いただきありがとうございます! 主に息子のミルク代になります……笑。