女は上書き、男は名前をつけて保存
「なんか今日ぜんぜん話せなくてごめんね」
覚えたてのたばこをふかしながら彼は言った。わたしは失笑した。
というのも彼は中学の同級生で、わたしがすきだったひと。この日は同窓会。
中学のころのピュアなわたしは、一匹狼的な存在でクールで切れ長な目でおおきめの鼻、ふとめの眉。そんな彼が大好きだった。
一方彼は、わたしと仲が良かったクラスの中心的な活発女子がすきだった。活発女子と、わたしと彼は同じ高校を受験したのだけど、彼は落ちていた。
中学卒業後の春休み、わたしは彼の家にあそびにいった。処女と童貞が(おそらく)おうちにふたりきりっていうのは今思えばとってもエロい状況だけれど、わたしは恥ずかしくて、ずっとくだらない話をしていた。
エロい状況にはならなかった。
ちょっとお話して、帰ったらメールが来て「ごめん、やっぱりまぬるとはそういう関係になれない、自分の気持ちは偽れないから」みたいなかっこいい誠実な内容だったので、さくっと高校での新しい出会いにわくわくすることに専念した。
そんなことがあって再会したのが20歳になってからの同窓会。
同級生の大きなおうちで15人くらいで宅飲みだったので、たばこは外で吸っていた。そんなときに彼がいて、「今日、あんまり話せなくてごめんね」なんて言う。
彼はまだ、わたしが彼のことを気にしていると思っていたからそんなこと言ったんだろうけど、わたしはバリバリのキャバ嬢になっていたし、彼のことなんかちっとも思い出していなかった。
わたしはこのときに世間でよく言われる「女は上書き、男は名前をつけて保存」を本当に理解した。
そんなことは言っても、彼は中学生にして誠実にちゃんとわたしのことを振ってくれたからわたしはすっぱり忘れられたわけだし、忘れたといっても現にここに名前をつけて保存しているから、男は、女はというよりは、相手にたいしてどれだけの情をもって向き合うかの違いかなとは思う。
なんにしても彼はダメ男ではないのでこちらに保存です。
おわり
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