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プロ野球と社会人野球、その溝

 都市対抗野球大会、明日で大会も終わり、ようやく日本の野球も多くのところがオフシーズンを迎えようとしている。(もちろん私が知りえていないだけでまだシーズン中というところもあろう。そこが日本野球の深さであるのだが)

そんな中でこんなツイートを見た。曰く

 社会人野球の大会でプロ野球のユニフォームを着てこないでほしい。

 という事である。2016年以降プロ野球から離れ、野球史を中心に様々な野球に顔を突っ込んで以降、またか、という気持ちになりながらこれを見ていた。

 雪解けが成っている、といわれるプロ野球と社会人野球だが、まだまだ春は遠くにあるようである。

1,野球=プロ野球か高校野球、といった時代は終わりつつある。

 SNSの普及により今までプロ野球と高校野球一辺倒であった日本の野球でも様々な風が入るようになってきた。競技人口が減りつつある、と言われる野球でも高校野球以降も野球をしようとする人も増え始めている。

【Sec#5】 野球競技人口の激減〜大学の場合〜

 一般社団法人ジャンク野球団様からお借りした記事であるがこの2018年時点でも大学野球への参加人口は増えている。

 様々なことが考えられるが増加の要素の一つにはSNSでの活動普及も大きく関わっているだろう。今までよくわからない世界であった大学野球や社会人野球に、あらゆるチームや個人が試合のみならず普段の生活を報告することでどういった生活が営まれているかが想像しやすい時代になった。

 そのため「自分は野球が上手いから続ける」以外の「自分は野球を続けてみたいから大学でもやる」人が増えていることは間違いないだろう。

 これは社会人野球も全く同じことが言える。

 今まで企業に雇われている社員か一部ファンだけのものだった社会人野球がSNSやネット放送を通して認知度を上げてきている。勿論プロ野球や高校野球に比べるとまだまだ風前の灯火と言った状況であるが、社会人野球をちゃんと見始めて「プロ野球に行けなかった才能無しの集団」「オリンピックも失って存在意義を見失った野球」という印象は払しょくされているだろう。

 特に都市対抗野球大会などは東京近辺の人間以外も来ることがSNSで報告され、決してプロ野球だけが日本の野球ではない、と日本野球の底力を垣間見た。それをきっかけに興味のなかったアマチュア野球に参加してみた、という方も増えているのではなかろうか。

 また、インターネットで無料放送されているアマチュア野球の大会を観たりすることで、今まで遠かったアマチュア野球が近いものへと変化したと実感する野球ファンも多いはずだ。

 選手のみならずファンも含めてアマチュア野球の扱い方に変化が生まれている時代に突入している。

2,プロ野球ファンと社会人野球ファン

 では社会人野球とプロ野球、どういう歪があるのだろうか。

 勿論NPBとJABAには1950年以降大きな軋轢があったことは間違いない。別府星野組や林兼商店と言った社会人の強豪チームや選手から逃げられたために、選手確保のために生まれたのがかの補強選手であるし、1961年の柳川事件という単語は内容をよく知らなくてもプロ野球の起こしたトラブルと言えば聞いたことある方も多かろう。

 だが今回はそういった話ではない。勿論それらが原因でアマチュア野球からNPBが締め出される形になり、それが今日までのプロ野球とアマチュア野球の距離感と関わるのだろうが、ファンにはそんなことお構いなしだ。それを知らないと野球が観られないわけでもあるまい。

 むしろ問題は今という他にならない。

 例えばドラフト会議。現在の野球選手でプロにあこがれを持たない球児などほとんどいない。それは高校だけでなく社会人、独立リーガーまでに至る。日本でプロ野球に本指名されるのは120名。その中の栄えある一人に一度でもいいから選ばれたいと思うのは今更言うまでもなかろう。

 これが高卒や大卒であれば話はこじれない。何と言っても彼らは学生で期限が来たらそのまま卒業に至るのである。むしろプロ野球という狭き門をくぐれたことは誉であり、それは選手本人ならず関係者にも波及していく。それを祝わない人間はいないであろう。

 では社会人はどうか。

 彼らの一番いい時期に、彼らの一番いい選手が引き抜かれていくのである。「ドラフトだから」「選手の希望だから」という言葉と共に。現代でこそかなり良化した方で、それをよしとしないチームは未だにある。特に毎年力のある投手は出てくるが、社会人野球にやってくる強打者は稀。それゆえに難色を示すチームだってある。

 そしてそれは関係者だけでなくファンなどにも波及していく。「今旬の選手だから」と一方的にエースや四番打者が抜かれ、それに対する見返りらしきものもない。それどころか一部にはドラフト以降は「もううちの球団の所有物だから」と我が物顔で彼らに存在感を誇示しようとする。

 その「うちの所有物」もかなりいやらしいもので。本人がそういうニュアンスを含んでいないにしても、一部の社会人野球ファンからしたら「彼はNPBという天上界の住人だから」と言われているようにとらえてしまっている。

 数年前の全日本社会人野球選手権での無料放送にてドラフトにかかった選手が登場する場面で「〇〇(球団名)・ドラフト○○位」という板を動画にこれ見よがしに映した観客がいた時などは一瞬物議を醸したほどだ。

 そういった「社会人野球ファン的には一方的に選手を搾取され、しかもそれをきっかけにNPBを上の世界、言い換えたら相対的に社会人野球は下の世界に捉えようとする人もいる」といった現象から、あまり仲がいいわけはない。

 特に社会人野球ファンはそのまま大学野球ファン、ひいては高校野球ファンも一緒にしている場合も多く、一選手を大学、社会人と連ねてみているファンも多く、選手の成長を見届けながら上のリーグに行くことを喜ぶため、そういった経過を無視して選手をデータや評価で丸裸にしようとするプロ野球を快く思っていない人も多い。

 そういった関係性があるから基本的に社会人野球ファンとプロ野球ファンはあまり仲がよろしくない。

 私も社会人野球ファンに近い存在なので、隣で「こいつはプロに行ったらどう活躍するか」「こういう選手に似ているからこんな活躍をするんではないか」など目の前の試合以外の、プロ野球の話を延々とされて辟易することがあるために理解もする。

 プロ野球という眼鏡で選手を値踏みしたくてたまらない層、プロ野球が日本野球の天上界と言いたそうな顔をしている層が多くいるのを否定できない。

3,雪解けが進んでいないわけではないが、問題も出ている

 ファンはさておき、機構という点ではどうか。

 これは結構雪解けが進んでいると感じている。例えばMHPS(現三菱重工east)に在籍していた加治前竜一選手の応援に巨人のユニフォームを持って参加したファンがおり、放送席の実況、解説もそれを微笑ましくコメントしている光景があったり、大会パンフレットにプロ野球で活躍している選手にとってのその大会をコメントしてもらったり、と変化が見えている。

 慣習故に規制をかけこそするものの、社会人からプロ、プロから社会人といった交流に軟化を示しているし、それこそJFE東日本では現日ハムの今川優馬選手がツイッターで都市対抗や社会人野球の魅力を惜しみなく発信しているし、横浜DeNAで活躍し、JFE東日本に戻ってきた須田幸太選手もプロと社会人、両方の魅力を様々なメディアで伝えている。

 現在新日鐵住金かずさマジックの渡辺俊介監督は在籍した千葉ロッテマリーンズに始球式で向かう時はロッテのユニフォームでなく、あえてかずさマジックのユニフォームを着てくるし、中日ドラゴンズで活躍できなかった佐藤ツギオ選手はシダックス、ヤマハでまでずっと大切にされ続け、2020年引退後、現在ではヤマハでコーチを就任しているに至っている。

 正捕手としては微妙と言われ続けた細山田武史選手は毎年好投手を出すことで有名な投手王国トヨタ自動車にとって選手としてのみならずコーチとしても欠かせない存在となっている。熊本ゴールデンラークスに戻ったロッテ香月良仁投手などはコーチ兼任ながら「それは兄貴(元近鉄、オリックス、巨人など・香月良太)だよ」ネタでG.G.佐藤選手(元西武、ボローニャ、ロッテなど)にいじられてツイッターで存在感を出している。マイナーなところでは元広島西原圭大選手はコーチ兼任ながらまだ所属していたニチダイで投げている。

 もうそこにはプロ野球とアマ野球の垣根は薄くなり、どちらもレベルの高い世界なのだ、と讃えあうようになっている。プロで活躍できなくとも短期決戦の社会人野球だからこそ本領を発揮する選手も数多くいる。「ああ、そんなやついたね」「誰そいつ」とプロ野球ファンから冷たくあしらわれた選手が「このチームには彼がいるから」「プロ野球失格は選手失格にあらず」と存在感を出していたりする。

 プロ野球は天上界ではないし、社会人野球は下界ではない。それは機構以上に選手が肌身で感じているのだ。だからSNSを通してこのような交流も生まれてきているのだ。

 一方、プロ野球の変化で多少なりとも問題が発生しているともいえる。それは本指名ではなく今後大量に出てくるであろう育成指名の契約終了選手の方だ。彼らは本指名ではないものの、プロ野球選手として契約を交わした以上「元プロ野球選手」に所属することになる。彼らが社会人野球に入るのはほとんどケースとしてない。本指名だった選手が契約選手に落ちた、というような選手が一部いるものの、ほとんど稀で多くは独立リーグに活躍の場を求めていく。

 彼らをどうするのか、という問題がある。非常に長けたものがあるわけではないが、プロの目にかかった選手が大半である。それが数年のうちに活躍できなかったという理由だけで投げ捨てられ、野球浪人と化してしまう場面も少なくない。そういった「プロ野球に所属したがプロ野球選手に慣れなかった選手」をこのまま埋もれさせていっていいのか、と一野球好きとして疑問に残る。

 社会人野球などで彼らを元プロ野球選手の枠外として受け入れるようにはできないだろうかと考えている。なにも元プロとして扱うなとは言わない。しかし自身の歩み方次第では社会人野球で活躍をしていた可能性だって十分あるように思える。競馬でいう〇外ではないが、育成かつ一軍登録がなかった選手を元プロ以外の方法で受け入れられはしないだろうか、と思う。

 プロでは本指名どころか、といった選手が社会人野球という場所で咲ける花もあるのではないかと考えているのだ。

 現在育成契約から社会人に進んだ、または戻った選手は二名。それ以外の、進むべき道を失ったまま引退以外を選べなかった彼らを活かせないのか、と思えてしまう。一方で社会人野球から指名、再指名は本指名のみ、としてしまえば誰も損はしないだろう。

 そういった適度な距離感を持った交流がどんどん盛んになってこそ、また一歩雪解けが進むのではなかろうかと思うのだ。

4,まとめにかえて

 雑多な文章になってしまった。

 まとめてしまうと「現場レベルでは雪解けが進んでいるものの関係者やファンの間ではいまだに『社会人野球はプロ野球に搾取される場所』『プロ野球は社会人野球を搾取する場所』という意識がぬぐえてい」という事になる。

 多くの虫が暗い場所より明るい場所を目指して飛ぶように、やはり選手、ファンもまたプロ野球という華やかな場所を目指すし、まだ、その一方でかなり修正されつつも社会人野球はアマチュアだからという言葉と共に影を落としてしまっている。むしろ現役、元含む社会人野球に関わったプロアマ関係ない選手やファンたちがSNSなどの発信媒体を得ることでその影を払拭してきた歴史が紡がれ始め、そこをどうかじ取りしていくのか、JABAの上層部が真面目に考えるときが来ている。

 日本と野球は経済ってんと共に歪な構造を得てしまった。それゆえにアマチュアとプロという言葉で大きな溝を作り、今まではそれをどう修復していくかの歴史でもあった。日石カルテックスのプリンス藤田元司が巨人に入る事でどれだけの社会人野球ファンが「遊びで金をもらっている」と邪険に扱ってきたプロ野球にファンを増やしたか。新日鉄堺の野茂英雄がプロ野球のみならずアメリカでも通用することを証明してくれたことでどれだけプロ野球、社会人野球の価値を見出すきっかけを得たか。

 どちらが上ではなく、共存の道を選ぶ時代がついに来たのである。

 お互いが立場を崩さず、「日本野球のため」と手を取り合うところまで、やっときたのである。社会人野球はアマチュアとして高みへ、プロ野球はプロとして高みへ。お互いの全身をはっきりと見るところまで、やっと来たのである。

 だからこそ、お互いの尊重できる協議を今後もどんどん続け、融和するところは融和し、締めるところはきっちり締めて、お互い生きていけばいいいのである。

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