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鳥屋野潟の娘の5400秒‐ep.26 fin-

11月24日 J2リーグ第42節 2月からの長いシーズンの最終日となった。

初戦の京都から始まり、全力疾走でここまで来た。

いつも通りスタジアムに入ったはずだった。しかし、練習を見つめて、チャントを歌っていると、何故だか涙が止まらない。

今日でシーズンが終わる。

目標であるJ1 昇格は叶わなかった。

目標が達成できないとわかった今、私がスタジアムにいる理由は何だろう。

今は目の前の試合だけを

この日の試合を迎えるに当たり、ものすごく覚悟が必要だった。

シーズンの総括としての試合であることはもちろん、多くの選手がチームを去ることが決まっていた。前章の通り、私の特に応援していた矢野選手も退団が決まった。

オレンジのユニフォームを身に纏い、戦う姿は今日で最後となる。

わたしにできることは何だろう。というより、わたしはいつも何かできたのだろうか。


試合に話を戻す。11月下旬にして、天候に恵まれすぎるくらい暖かい。そして、この大きな意味を持つ、最終節に多くのサポーターが集う。この老若男女が集う、このスタジアムはいつだって明るい。

全員のチャントを歌い終え、試合前の円陣が組まれる。ここに集う全員がその輪にいるような、そんな雰囲気だった。

ここまでのスタメンと変わらず、試合は進んでいく。退任が決まっている吉永監督が根付かせた、このサッカーはワクワクする。見違えるようだ。若手の台頭も目覚ましい。チーム全体が躍動しているように感じる。

いいところまで進む部分もあったり、脅かされるところもあったし、それでもいい試合だ。今日が総括になるといい。

前半はスコアが動かず。それでも、いい形で前へ進んでいる。今日は何としても勝って、全員で笑って進んでいくんだ。

さぁ後半立ち上がり。と思ってすぐ、ゴール前フリーで受け取った目下得点王のブラジル人選手、振り切った一閃、ネットを揺らす。

なんて美しいんだ。

駆け寄る選手たち。歓喜に沸くスタジアム。いいぞ、このまま独走して得点王になろう。

今度はセットプレー。このまま得点を重ねて突き放したい、そう思った最中、高いヘディングからまたもやネットを揺らす。

この一体感に満ちたスタジアム。この中で、見送るべき選手を気持ちよく送り出す。きっとピッチに立つ選手もそうであったように、スタンドの私たちもそうだった。

後半76分。

矢野選手が交代でピッチに立つ。この目にそのプレーを焼き付けるべく、動きを追うが、うまくいかない。やっぱり涙が止まらない。

3シーズン前の最終節、矢野選手のプレーに魅せられてから、多く励まされてきた。さぁ、今日も泥臭くいこうじゃないか。みんなで歌おう。

俺たちと共に戦おう 矢野貴章 オメキメレキショー

広島のスタジアムにてこのチャントを歌った時の高揚感、未だに覚えている。新潟の言葉で、しかも選手本人に(ゴールを)決めろって、このクラブに3度目の所属となり、愛されている証なんだろう。

いつもながら、高さのあるプレーと、諦めない姿勢、この目に焼き付けておかないと。それでも涙で 視界が滲む。懸命に守備に攻撃に走る姿、そう、この姿が好きだったんだ。

チームとしても追加点を狙いながら進む。ただし、簡単には勝たせてくれない。1点を返され、少し嫌な予感。ここで崩されたら、成績が 上がらなかったころのチームと一緒だ。今日はいろんな人の思いがこもった試合。なんとしても勝たなければ。アディショナルに入り、2−1で進んだゲームももう終盤。そこでスタジアムにはどよめきと歓声が響く。

ゴールキーパーの交代だ。わたしはここ数シーズンしかアルビを見てないので、そのプレーを見たことはなかったが、周囲のサポーターからこの野澤選手がものすごくチームの象徴であることが窺える。最後の最後、シーズンを通してフルタイム出場がかかっていたスタメンのキーパー、大谷選手の記録がこの交代によって途切れることとなるのだが、この2人が抱擁を交わし、交代の野澤選手を送り出す。なんと胸が熱くなることか。野澤選手のチャントは、彼のことを“俺たちのヒーロー”と称している。まさにヒーローだ。

長いホイッスルが響く。

チームは2−1で勝ち切った。シーズンの最終節、勝利で締めくくり、10位でシーズンを終えることとなった。

ここにいるヒーローたち

最終節の試合終了後、セレモニーが催される。これで本当に最後だ。選手・監督・スタッフの声を聞いて、気持ちよく送り出す。そして、来季もまた、このスタジアムに集うことを誓う。

それぞれのスピーチ、とても気持ちがこもっていて、共通するのはこのチーム・土地を愛しているということ。他のクラブのことはよくわからないけど、ここまで愛されるクラブは本当に幸せだと思うし、こういったクラブを愛することができることが幸せだ。

みんなからヒーローと称される選手は、自身の後ろに並ぶ若き選手たちを、ヒーローと呼んだ。そう、ここにいるのは、誰かのヒーローなんだ。

送り出すのは寂しい気持ちでいっぱいだが、サッカーを愛していれば、きっとまたどこかで会えるはず。

早々と来季の監督や体制が発表される中、誰のユニフォームを見に纏うのか、それを楽しみにオフシーズンを過ごしていきたい。

飛び立つその白い鳥は

セレモニーが終わり、帰り支度をするサポーターが最後どよめいた。

スタジアムを見上げると、一羽の白い鳥が 飛び去って行った。

きっとチームのルーツでもある白鳥だろう。

来季こそ、大きく羽ばたいて、目標のステージへ。

その飛翔に期待を込め、来季もこの世界一美しいスタジアムで多くの仲間、 そして選手・クラブと進んで行く。

一歩、そして前へ。

アイシテルニイガタ

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