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障害をもちながら生活する人々の心理的回復過程(障害の受容過程)

(1)ショック期:障害の発生直後で,肉体的には苦痛があっても現実におきている事態に実感がもてない状態。

(2)回復への期待期(障害否認期:救急的な医療ののち,身体的状況の安定とともに出てくる反応で,「傷(病気)さえなおれば」と回復への期待をもつ。もとの状態に回復するという望み以外の情報には耳を貸さず,「自分の努力で,他の病院で治療を受ければなんとかなるに違いない」と信じて疑わない。

(3)混乱と苦悩の時期:障害が永続的なものになり,もとの状態に回復できないことをみとめざるをえなくなる時期。回復という目標は消え去り,障害の壁が自分の前に立ちはだかる。「なぜ他人でなく,この自分がこんな目にあわねばならないのだろうか」というやり場のない怒り,自分の不注意への悔やみ,「すべて失ってしまった」「なにもできなくなってしまった」嘆きや抑うつ,また治療や世話に関する医療職や家族など周囲の人々への攻撃や怒りなどが激しい。この時期に自殺を考えることもある。

(4)適応への努力期:周囲の人々とのこれまでとかわらない関係や支え,同じ障害のある人との交流を通して徐々に事実をみることができるようになる。
そして障害があっても自分の人間としての価値はかわらないのであり,「現にいま,生きてある(存在している)ことが重要である」とみずからの存在意義,生命の価値の本質に気づく。障害をもつ人々を含む周囲の人々との交流が活発になり,生活上の問題を解決するための情報や方法を学習する。

(5)適応期:障害を負う前の自分と比較したり,周囲の人々の考えを気にすることなく障害をもつ自分を自分として生きることができるようになる。生活上の問題が生じても主体的に解決できる能力と方法で対処することができるようになる。
この障害の心理的回復過程は障害受容のプロセスであると表現されることがある。しかし障害を(しかたなく)受け入れるという消極的なプロセスではなく,障害をもつ人々がいままでの健常者としての自分自身のイメージに固執するこ
となく,また健常者をあたりまえとする周囲の固定観念にふりまわされることなく,人間として生きることの本質を見つめ自分を再発見するという非常に積極的なプロセスである。たとえ周囲の偏見から心理的な打撃を受けたとしても,
それに対処することのできる力を獲得する過程であるといえる。しかし,人生の中途で障害を負った人や障害が外見的に見えやすい人,人の目を気にしやすい傾向の強い人には心理的回復が困難なプロセスである。
価値観の転換
障害の心理的回復過程の核となるのは価値観の転換であり,とくに「こんな身体で生きていけるのか」「生きている価値があるのか」といったさまざまな問いと思いのなかで,新しい自分を見つける作業が行われる混乱と苦悩の時期がとくに重要である。どのような価値の転換が行われるのだろうか。
・価値の範囲の拡大:自分が失ってしまったと思っている価値のほかにいくつもの価値があり,それらを自分はいままでとかわりなくもっているのだということに気づく。
・障害の与える影響の制限:障害があってもそのことが自分の価値を下げることはないのだと考える。
・身体の外見を従属的なものとする:外見よりも内面的価値があることに気づく。
・比較価値から資産価値への転換:他人と比較することをやめ,自分の本来の価値,資質に価値をおく。

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