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十津川"架空"観光協会

十津川"架空"観光協会とは、その名の通り、架空の観光協会である。旅人である安達えみが十津川を実際に巡り、その様子を"架空"観光協会としてPR、発信する。十津川"架空"観光協会自体は実在しないが、巡った場所は実在の場所なので、是非実際に現地へ訪れてみていただきたい。
旅人:安達えみ(ホトケ女子)
旅行日:2021年3月9-11日

日本一大きな村・十津川

奈良県は縦に長い。奈良盆地=奈良県と誤解されがちだが、奈良盆地の南には広くて深い紀伊山地が広がる。「自然」と一言で言うには濃厚すぎる山と森。かの地には古来より原始の信仰が宿り、神代の歴史でも重要な役割を果たした。
今回の目的地はそんな奈良県南部にある十津川村。日本一大きな村であり、奈良県の約1/5を占める。今回はそんな大自然のエネルギー満ち溢れる十津川村に、2泊3日のワーケーションをしてきた。

トントン拍子!からの…

今回、十津川旅にあたり、素敵な出来事があった。1つ目は、友人づてに十津川村出身の方と出会えた事。とても聡明な方で、丁寧に十津川村のことをお話しいただいた。十津川村への期待が高まる。2つ目は、十津川村地域おこし協力隊・Kさん。この「"架空"観光協会」企画では、旅前に必ず地元の観光課や観光協会宛に企画書を送る。Kさんは、企画書を見てすぐにお電話をくださり、電話の翌週には十津川村旅行が決まった。これは十津川村に呼ばれている?
十津川村の入り口あたりに位置する谷瀬の吊り橋までは、奈良市内から車で約2時間ほど。旅初日は、谷瀬の吊り橋あたりでお昼を食べようと思ったので、そこから逆算して車を出発させた…はずだった。まさかの奈良市内大渋滞。郡山まで行くのに1時間…。おいおい、私はこれから十津川へ行くんだぞ、十津川に呼ばれてるんじゃなかったのか!出発早々、出鼻をくじかれた感のあるスロースタートの旅が始まった。

十津川村までの道は、基本的には国道168号線をひたすら南下する。山道をグネグネ進みながら見る車窓の風景は、ダムや橋が出てきたり梅が咲いてたりと、飽きることがない。前出の地域おこし協力隊・Kさんに「道中に是非聞いてみてください」といわれたオーディオガイド。地元のおっちゃんたちの生の声を聴きながらのドライブは、十津川村をただの平面的な観光地ではなく、人々が暮らす豊かな村へと印象を変える。
と、カッコいいことを書いたけれど、旅序盤の一番時間にゆとりがあったはずの渋滞中に聞くのを忘れていて、十津川村到着までに一部しか聞けなかった。これから十津川村へ行く人は必聴のコンテンツ。どこか現代版の日本昔話のようでよい。

谷瀬の吊り橋到着…?!

谷瀬の吊り橋は長さ297m・高さ54m。高所恐怖症の自覚のない私が、もしかして私…?と高所恐怖症を自覚してしまうような吊り橋。高すぎる上に長すぎる。ちょっとなら我慢して歩くけど、進んでも進んでもまだ1/4?!みたいなことになる。足元のベニヤ板もパコパコいってるし…。「おい!そこ!走るな!!」
今回もそんなことをしたかったのだが、なんせ奈良市内が大渋滞。谷瀬に着いたころには正午をまわっており、次の予定を考えると吊り橋はスルーせざるを得ない。吊り橋横の昭和全開の土産屋が個人的にツボなのだが、そこにも寄ることができす。吊り橋よりもそちらの方が残念。
急ぎ向かったのは吊り橋近くの蕎麦屋さん。ここも、十津川旅行には欠かせない。ツルツルしたお蕎麦と軽い食感の天ぷら、しめじの炊き込みご飯も嬉しい。

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紀伊半島の、いや日本の聖地へ

先を急いだのには理由がある。「呼ばれていないとたどり着けない」あの場所へ行くためだ。
いつも玉置神社へ行くときは、事前に何の予定もせず、朝起きて「よし、今日は玉置さん行ってみよう!」と運試しのような感覚で出かける。玉置神社までの長い道のり、倒木があるかもしれない、土砂崩れがあるかもしれない、途中で体調崩すかもしれない。それならそれで「今回はご縁がなかった」と帰ればいい。また行けばいい。普段はそんな感じでお参りしている。
ただ今回は違った。取材ということもあり、事前に宮司様にご連絡をしての訪問。お電話ではお話したものの、玉置神社の宮司様にお会いするため緊張しながらの参拝となった。
この日はちょうど、初午祭の2日前。境内には氏子さんたちが集まって賑やかにお祭りの準備をしている。

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準備中の皆様に混ざって作業着姿の宮司様がいた。手を止めて社務所内へと案内してくださる。十津川村生まれの宮司様は、会社勤めを終えて玉置神社へ入られたとのこと。会社員時代は全国を飛び回っていた宮司様。数十年ぶりに十津川村へと帰ってきて、今の生活がとても楽しいという。神職の傍ら、畑いじりや蜂の飼育などに勤しみ、温泉で疲れを癒す。忙しくも豊かな十津川村での生活を心から愛していらっしゃるようだった。「十津川村のことをいろいろ知りたい」と話すと、神社で働く元教師の女性をご紹介いただく。ちゃっかりSNSでお友達になる。「またいつでもおいで」そう言って宮司様に笑顔で送り出していただいた。
いつもは一人静かにお参りしていた。しかし当たり前だがそこには支える人たちがいて、その思いが続いているからこそ今の玉置神社がある。
境内に残る神仏習合の名残(社務所の襖絵、鐘楼、大日堂など)は、明治の廃仏毀釈では消しえなかった人々の思いが今もそこに残っているようで、改めてこの地の重厚な信仰を感じることができた。

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初対面は全裸で

夜は、地域おこし協力隊・Kさんと夕飯の約束をしていた。ただ、いかんせんこちらは冒頭の渋滞を経ての今である。予定がだいぶズレてしまい、本来であれば一緒に公衆浴場に行くはずが、食事場所での現地集合へと変更。宿にチェックインをして、一人、公衆浴場へ向かう。
十津川村は、全国初「源泉かけ流し宣言」をした村。奈良というと温泉のイメージがないかもしれないが、ここでは地元の人が普段から使う公衆浴場や旅館の日帰り温泉など、さまざまな種類の温泉が楽しめる。
この日行ったのは公衆浴場・滝の湯。どうやら露天風呂もあるらしいのだが、浴場内の案内では「階段70段おりた先」にあるとのこと。面白いので、もちろん行ってみる。途中まで進むと「マムシ注意」の張り紙と共に「スリッパに履き替えてください」。ここからは屋外。マムシには注意しなければいけないのに全裸。どこをどう隠していいかわからない状態で、長い階段を下る。ようやく露天風呂が見えてきた。先客2人が楽しそうに話をしている。近づくとこちらを見て「あだちさんですか?」と声をかけられる。えぇ?!

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滝の湯で声をかけてくれたのは、まさかの地域おこし協力隊・Kさんだった。この日やっている公衆浴場がここしかなかったこともあり、ここにいたらあだちさんも来るだろうと話をしていたという。なるほど。それにしても驚いた。
全裸での初対面を終え、夕食の場所へ。十津川温泉の中にある湖泉閣吉乃屋さんの宴会場で食事。ここで食べたシカ肉・シシ肉のフライが絶品!聞くと、十津川には腕のいい猟師さんがいらっしゃって絞め方がとてもうまいらしい。そのため全く臭みがない。牛肉や豚肉でももう少し匂いがするはずなのに。ジビエは栄養価高いし、ここまで美味しかったらもう牛も豚も食べなくていいのではないか。

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自然の中で暮らす

翌朝。地域おこし協力隊・Kさんが宿まで迎えに来てくれる。今日はKさんのアテンドで村内を巡る。事前に「地元の人に会いたい!」と伝えておいたので、どうやらオススメのおじちゃんのところへと連れて行ってくれるらしい。
出かける前にちょっと寄っていきましょう、と村内某所へ。美しい十津川の里山を眺めつつ、挽き立てのコーヒーをいただく。些細なことだけどとても幸せな時間。

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Kさんの車に乗り込み、村のおじちゃん・澤渡さんのところへ。十津川村のメイン道路である168号線を北上、そこから脇道へ入る。しばらく走ったところで車は停車、「ここからが澤渡さんち」と言われる。ここから…?

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川にかかる吊り橋、その名も「沢渡橋」を渡って対岸へ行くと、澤渡さんが待っていた。犬のシロ、ヤギ2頭、猫とウサギが数匹、アヒル、カモ、そして沢山のニワトリたち。いろんな動物があっちへ行ったりこっちへ来たり。今日のお昼はバーベキュー。
ステーキ肉はもちろんのこと、澤渡さんちで採れた原木椎茸が何よりも美味しかった。椎茸ってこんなに肉厚でうまいのか!
澤渡さんちの平飼いのニワトリたちが産む卵は、村内のホテル昴や県下の「よってって」などで販売中。十津川村のうまみを是非味わってほしい。

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澤渡家でお腹いっぱいになったところで「みんなで空中の村へ行こう!」という話になった。168号線まで戻ってくると道が渋滞している。車を停めて様子を見に行くと、どうやら少し先の風屋地区で土砂崩れがあったらしい。この道を進まない限りは空中の村には行けない。空中の村どころか宿にも戻れない。どうしたものかと頭を悩ませていると、たまたま現場近くにいた役場の方と合流。乗ってきた車でダメもとで先に進んでみようという話になった。Kさん、澤渡さんとはここでお別れ。役場の車でGO。バリケードを越え、土砂崩れ現場まで行く。土砂崩れの被害は大きなものではなく、片側は通れる状態だったため無事に通過。(ただしこの日の夕方17:30以降は全面通行止めに。)役場の方に宿まで送っていただく。本当にありがとうございました。

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毎日温泉に入れる幸せ

予定よりずいぶん早く宿に戻ってきてしまったので、この日も公衆浴場へ。Kさんも毎日仕事帰りに温泉入って帰るらしい。今日は泉湯にお邪魔する。地元の常連さんが来るような小さな温泉だけど、今日も化粧水いらずでつるんつるん。

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宿に戻ってからは、「そもそも今回は"ワーケーション"として十津川に来た」ということを思い出して、持ってきた仕事を片付ける。美味しいご飯食べて、温泉入って、仕事して。村の人にとってはあたりまえのことだけど、この生活がとてもうらやましく感じる。いろいろあった2日目も終了。

自然の中で暮らす 2

十津川旅・最終日。168号線は相変わらず全面通行止め。北上して帰ることができないため、午前中に十津川の南側を楽しみつつ、北山村経由で奈良へ帰ることにした。
朝一で向かったのは清納の滝。以前に友人たちと来た時に、滝と、滝を包むように囲む岩山の景色に感動し、今回もまた訪れたいと思っていた。この日は滝を独り占め。しばし滝の美しさに見とれる。

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続いて向かったのは、昨日行くことのできなかった空中の村。ここは、フランス人のジョラン フェレリさんが手掛けた森の中の遊び場。こちらも以前の旅行で来たことがあったのだが、ジョランさんに会うのはこの日が初めて。薪ストーブで暖を取りながらお話を伺う。元々林業を学んでいたジョランさんは、当時通っていた日本の大学の教授に十津川村を紹介され、それがきっかけで地域おこし協力隊として村に移住。更に2020年春には空中の村をオープンする。ジョランさんに空中の村の解説をしてもらい、さぁ出発。

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木と木の間に張り巡らされたネットの上をボヨンボヨンと進んでいく。子供の頃、雲の上を歩けたら楽しいだろうな、と思っていたけれど、まさにその感覚。子供が楽しむものと思われがちなアスレチックだが、むしろ新しい大人の癒しの場としてもアリ。実際に、木の上から十津川の山々を眺めつつドリンクを飲んだり、空中で横になりながら本を読んだりできるのは至福の時間だった。またゆっくりと来たいと思う。

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空中の村からの帰りに、道の駅「十津川郷」に立ち寄る。ここに来たら絶対に買うのが温泉プリンと、土日に駐車場で売っている串こんにゃく。温泉プリンは程よい甘さでトロンとしていて2~3個は食べられそう。2階のお蕎麦屋さんも美味しいのだが、この日のお昼は別のところに決めていた。

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旅の最後の食事は、Twitterのフォロワーさんにオススメしていただいた、村で唯一のラーメン屋「十津川らーめん 輝~teru~」。2018年にオープンした新しいお店にもかかわらず、昔懐かしい味の中華そばを出している。一緒に注文した餃子も肉と野菜のうまみが詰まっていて美味しい。近所にあったらしょっちゅう通ってしまいそう。奇をてらわず、きちんと美味しいものを出していて、なんとなく「十津川村らしいな」と思う。地元の人にも観光客にも愛されるお店として、ずっと頑張っていってもらいたい。

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強く“楽しく“逞しく

今回ご協力いただいた地域おこし協力隊・Kさんと話していたとき、十津川村の人の印象を聞いてみた。するとKさんは「実力がある」と言った。生きている姿が逞しいと。その逞しさは、生まれたときから十津川の人勝手に備わっているわけではなく、台風や土砂崩れなど、人間の力ではどうすることもできない圧倒的な自然と共存している中で、徐々に身につけられていったもの。実際に十津川に住む人は、複数の仕事や能力を持っている人が多いらしい。建築士をしつつ役場勤めをしたり、デザイナーをしながら猟師したり、神主をしながら蜂を育てたり、などなど。積み重ねられた分厚い人間力を武器に、山や里を駆け回っている姿は、生き生きとしていて実に楽しそうである。
Kさんは村のことを「遠いようでいて近い」とも言っていた。矛盾しているようだが、村の人と話すと、町との距離を遠いと思ってはいないようだった。かつては十津川から奈良市まではバスで8時間もかかったという。そこから考えたら今は随分と便利になった。地図を見ると、果てしなく遠い場所に感じる十津川村も、行ってみると思ったより近い。住んでいる人たちも不便なく暮らしている。むしろ町の人よりも日々を満喫しているように見えた。
逞しく、そして何より楽しく暮らす十津川村の人々。その人たちのエネルギーを感じに、また近いうちに遊びに行きたい。2泊3日の滞在では到底知り尽くすことなんてできない。なんせ十津川村は広いのだから。

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今回の取材は「遊ぶ広報」を利用して滞在させていただきました。
※十津川村での「遊ぶ広報」利用は2021年3月末まで。
遊ぶ広報:https://asobu-koho.studio.site/



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