日記:土地は見つめる/星を見上げる

最近読んだ本の感想でも……(書くのを忘れていた)

山内マリコ『東京23話』

東京23区それぞれの特徴や歴史を、擬人化された区自身が語っていく。かなりユニークな本。しかし読んでみて、実際に土地に紐づいた歴史を語るとなればこれはとても有用な手法なのではないかと感じた。例えば、その土地に長く生きる人を語り手に立てて歴史を述べていくとする。その際にどうしてもその人の生い立ちや半生に触れないわけにはいかず、そうなると紙幅はどうしても増えていく。その区自身を語り手にすることで、ある意味人という視点からはフラットな立場で、移ろう歴史を紹介することができる。

知らない街を歩いているとき、そこに流れていた時間を想像するのが好きだ。膨大な人の営みの積み重ねの果てに、いまこの世界が成り立っている。視点を人から土地に移すことで、より広いスケールでその歴史を語ることができる。土地はずっと見守ってきた。そこに流れる数々の人生を。そんな時間の流れに思いを馳せることができる、とてもよい一冊だった。


窪美澄『夜に星を放つ』

現代日本を描いた短編集。社会に生きる以上、規範とエゴは衝突する。自らの衝動を押し通すことができればよいのだが、現実はそううまくはいかない。我を通した先に幸せがあるのかもわからない。だからひとまず規範を優先させて、自分が心の何処かで押し潰されそうになるのを堪えている。どうしたって何かを押し除けなければならないのなら、生きることは痛みである。重くて苦い、しかし何処までも現実の写実であるような物語。

この短編集には、星のモチーフがそれぞれに登場する。土地が人を見守ってきたのだとすれば、人は星をずっと見上げ続けてきた。人間の時間尺度からすれば、星はずっと変わらずそこにあるもので、その存在は時間や空間を超えることができる。太陽や月のように大きな存在感を持つわけではないけれど、ふと夜空を見上げたときに同じように星はそこにあり続けている。それが過去の思い出だったり、いまは遠くにいる存在だったりとを結びつける。

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