めちゃイケのいなくなったテレビ:放送終了に寄せて

4月に入り新年度、新しい生活が始まった。4月はテレビにとっても大きな改編期で新しい番組も始まる季節であり、番組が終わる季節でもある。

4月初めての土曜日が過ぎた。
そこにもう「土曜8時のめちゃイケ」は無かった。

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放送開始時11歳だった僕にとって、めちゃイケの存在は大きかった。中学受験の勉強を始めた頃に始まり、多感な青春時代のそばにずっとあった。辛いこと、大変なことがあっても「土曜の夜になればめちゃイケがある」と思って頑張れた。家族で晩御飯を食べながら観て、一緒になってゲラゲラ笑っていた。岡村さんの横山弁護士のモノマネでは呼吸困難になったこともある。

"放送が楽しみである"それが僕にとってのテレビであり、それを作りたくてメディアの世界で仕事することを志した。

時代は変わった。今はもう、テレビ番組の放送を楽しみにする人はだいぶ減っている。土曜8時という"枠"はバラエティの王者だった。今はもう観たい番組は録画設定し自動で録られていくのが当たり前であり、リアルタイムで観るのはたまたまついていただけの番組だ。楽しみにするのは放送日ではなく配信日になった。

テレビの"枠"の概念は変わった。テレビの枠は、番組自体よりもメタなものだった。土8はバラエティであり月9はラブストーリーであった。これは視聴者に安心感を与えていた。どんな辛いことがあっても土曜の夜は笑い、月曜には恋愛に胸をときめかせられる。今この安心感を与えられているのは朝の帯番組だけになった。

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テレビはなぜ若者から離れたのか。今の10代が観たくなるテレビはほとんどなく、日中に溢れるご意見番MCの主婦向けワイドショーがその形を保ったままゴールデン帯にも鎮座している。若者の視聴率が低いから年配層向けになったのか、若者向けの番組がないから視聴率が低くなるのか、"にわとりたまご"だがどちらも真理だろう。ただ結果として、若者が観なければならないテレビはなくなった。テレビは共有知を生み出すものではなくなり、話す話題はインスタでシェアされたものになった。

テレビの前に座して放送開始時間を待つことはもうない。毎週決まったタイミングで時間が取られることは高コストである。外に出かけず家にいる時でさえ、やることは事前に決まらなくなった。ひとたびスマホが鳴ればそちらに集中し、別の行動をとる。マーケティングに好んで使われるプッシュ通知が、ずっと強力な広告メディアであったテレビから視聴者の注意を奪っていることはアイロニー的である。テレビの価値が「電波受信できる大型ディスプレイを一家に1台置いて生活空間に侵入を果たしたこと」であるとすれば、スマホの価値は「ネットに繋がるパーソナルディスプレイを1人1台配ったこと」であり、人々のメインメディアがスマホになることは必至だったはずだ。

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そしてめちゃイケは終わった。

全編新撮と謳った最終回は、テンポを犠牲にしてでも出演者の想いを届けたいという意図が強く出ていた。

2010年から追加になったメンバー達も想いを吐露していたが、何人かがめちゃイケは自分にとって「憧れ」だと語っていた。8年もレギュラー勤めていたのに、である。番組の中で「新メンバーがいなければもっと早く終わっていた」と評していたメンバーもいたが、新メンバーがいつまでもめちゃイケを手の届かないものと捉えてしまっていたことがめちゃイケが今終わった理由であると思う。テレビは時代の映し鏡であり、23年も同じ番組が続くこと自体が奇跡。その中で新メンバーへの期待はめちゃイケを変えることだったはずだ。だが出演者も視聴者も、メンバーを1軍と2軍と捉えてしまった。それが解消しようやく下克上できたのは、ネタ対決でたんぽぽが優勝した放送終了1ヶ月前であった。

当時は気にしていなかったが、放送開始時のメンバーはみんな20代であり、土曜ゴールデンを任せるのには相当若い。めちゃイケはフジテレビにとってもチャレンジであり投資であった。今年「変わるフジ、変えるテレビ」を新スローガンに掲げたが、果たして投資できている番組はあるのだろうか。

とんねるずのみなさんのおかげでしたも終わった。好き嫌いが別れる番組であることは当然だが、古き良きバラエティを体現しようとし続ける姿は、テレビの多様性を守り続けているように見えた。

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めちゃイケがなくなったも、普通の土曜日で特に寂しさはない。
そもそも番組改編期。ここ1〜2週間のゴールデン帯はスペシャル番組で埋まる。いつも通りだ。後番組が始まるのは5月で、ディレクターが世界各地へ行くというどこかで聞いたような番組らしい。

もう「好きなのはバラエティ」と言うこともなくなる。
テレビをこれからもずっと好きでいられるだろうか。


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