見出し画像

私立恵比寿中学10周年のうち、いつが最高なのか

記録が無いものはなかったことにされる

特にメジャーでないカルチャーを嗜好する身であれば、その危険性は想像する以上に大きい。考えてみて欲しい。自分が一番楽しかったコンサートについて、ファンに通じる言葉で何があったか書かれたレポートを検索して何件ヒットするだろうか。セットリストの記録ではない、そのコンサートの記録だ。
自身にとってだけで考えても、記憶は時が経てば薄れていく。その時目で見て感じたこと、感じていたはずのことを記録する。その時の感情は、記録しなければ永遠に参照することが出来ない。

だから僕は今回、10周年を迎える私立恵比寿中学のこと、僕が見て今感じていることをネット上に記す。ネットの海に放流するのではなく、きっとnoteとその運営者ならこのような記録を大事にしてくれることを信じて。


ゆびまつり新規

まずは、初期の話を時系列で追わせて欲しい。時は7年前に遡る。
初めて彼女たちのパフォーマンスを私が観たのは2012年6月25日に日本武道館で開催された「ゆびまつり」であった。これは指原莉乃がプロデューサーとして実施された10組の当時売れっ子であったアイドルが出演するコンサートで、乃木坂46やBuono!も出るという破格のイベントだ。ここにももクロ目当てで行った私は、ビジュアル系メイクを施しトップバッターで「放課後ゲタ箱ロックンロールMX」1曲のみを披露した私立恵比寿中学に出会う。他のビッグネームに対抗するため、インパクトを最大化した飛び道具のような攻め方。彼女たちにとっても初めての武道館のステージ。ポジティブな想いと極度の緊張がぐっちゃぐちゃになっていただろう。ただ、のちに推しとなる(この時まだメンバー個人について何も知らなかったので)真山りかさんが曲中で叫ぶ「ビビってねーし!」は、確かに命を削る音がしたのだ。

その後、私立恵比寿中学単体のイベントに足を運んだのは同年7月22日の「私立恵比寿中学 サマーデフスター最強ツアー2012 ~はじける汗の塩天国~」(通称:塩ツアー、ロックリーツアー)@ラクーアガーデンステージ、杏野なつ生誕祭の日だった。たまたまその日の模様はナタリーに掲載されている。

ゆびまつりの日から気になり、当時TOKYO MXで放送していた「エビ中の永遠に中学生(仮)」も観、YoutubeでMVもチェックした。その中で、メンバーの1人の真山りかさんが一番可愛いかなーと思った。ブログへコメントもするようになった(もちろんなるべく目立つように)。そしてホームページを見てこのイベントの存在を知った。

それまでコンサートやバンドのライブは行ったことがあったが、平イベと言われるオープンな場所でのリリースイベントは初めてだった。どういう進行で進むのか、握手や2ショット写真も撮れるらしいがそのためにはどうするのか、優先エリアとは何かーードキドキしながら不安になりながら情報をかき集める。よくわからないイベントに行く心理的な障壁は大きい。でもそれを超える「行ってみたい」という気持ち。この頃の感覚をもう味わうことが出来ないが、この"初期衝動"こそが入り口の気持ちよさ・素晴らしさなんだろう。

その日、初めてアイドルと2ショット写真を撮った。とても緊張したのは覚えている。2ショット写真は自分の手元だけにあり、アイドル本人が写っていることよりも自身のための思い出の記録の側面が強い。だから写真は撮っておいた方が良い。自身と対象の関係性のログなのだから。

そこからは早かった。イベントに通い詰め、最初にあった「同じCDを複数枚買う」ことへの抵抗もすっかり無くなった。翌々週のTokyo Idol Festivalではガンダム前ステージで最前と超級のレス(ファンサ)を経験し、たまたま遭遇した友人にエビ中のオタクも紹介してもらった。これが大きな転機の1つだった。イベントは早朝から並んでる時間が長く、友人がいるだけでだいぶ楽しくなるし、当時は代理購入も出来て実際有利だった。その友人を起点に、よくいる人たちと話すようになり、初めて行ってから3ヶ月で生誕委員の声もかけていただき…と凄じい勢いだったと自分でも思う。今でもそこで出会った古参の方たちは、現場で会えば話しかけてくれる。これは貴重なありがたい縁だ。

その後一時離れる時期も挟みつつ結成10周年の今に至る。
(一応前置きのために振り返ったがとても長くなった。。)

イイ曲であること

エビ中の一番の良いところは”イイ曲の多さ”だと思っている。

月並みな表現に見えると思うが、曲の良し悪しを語ることはとても大事。好みの問題だと考えを止めてはならない。
楽曲、音楽がアートの領域に分類されるものであるならば、好き/嫌いの好みとは別に聴いた人それぞれの価値観において良い曲かどうか、何故良いかは批評されるべきと考える。この評価は主観的で、評価軸自体も複雑で具体化も難しいが、イイ曲かどうかは考え続けたい(それが制作する方々への最低限の誠意だとも思う)。

その上で、エビ中はイイ曲が多い。しかも各楽曲が何故良いかもそれぞれで異なっている(個々の楽曲への言及をし始めるとマジで終わらないので今回は割愛する)。その理由としてイイ曲を生み出そうとする制作チームのディレクションと張っているセンサーの広さと深さだと考える。

例えば2015年1月に発売されたアルバム「金八」に収録されている「ちちんぷい」という曲がある。

この曲の提供者はバンド「魔法少女になり隊」だ。今ではフェスの常連である大人気バンドだが、彼らが大きく世に出たのはROCK IN JAPANフェスへの出演をかけたオーディションコンテストで優勝し出演を果たした時だ。それが2014年の8月である。魔法少女になり隊がインディーズでCDをリリースしたのが2015年の2月。つまり、エビ中陣営はCDのリリースもされていないバンド、フェスにオーディション枠で一度出演しただけのバンドに楽曲提供のオファーをしていることになる。制作期間を考えれば、フェスの直後のオファーだったのだろうか。

特にアイドルにおいて、売れかけている頃に楽曲提供を依頼する先として有名アーティストがあがる場合が多い。それ自体がニュースになるし、有名アーティスト側のファン・知名度を利用することが出来る。…でもそれがイイ曲になるとは限らない(むしろガッカリすることが多いぞ!)。自身が歌う有名アーティストが他人の曲も良いものが書けるとは限らないし、オファー元のディレクションがしにくいというのもあるだろう。客観的に見ようとすればメリットの方が大きいのは理解できるのだが。。

しかしエビ中は、提供する側の知名度なんかよりもエビ中にとって良い曲となるかどうかを最優先に考え続けていると思うのだ。しかもそのための労力をいとわない。この印象は7年間ずっと変わらない。これは運営への多大なる信頼でもある。

「いつだって最新のエビ中が最高だよ」

これは友人の発した言葉だ。
一番通っていた2012-13年の頃ももちろん良かった。楽しかった。

しかし、今の方がもっといいと言える。
10周年のツアー「私立恵比寿中学ようこそ秋冬ホールツアー2019~世界のみなさんおめでとうアイドルって楽しい~」が文字通り”最高"だったのだ。
初期の頃のような不可解な設定に振り回された過剰な演出もなく、今までのエビ中の良さと今のエビ中の良さとこれからのエビ中の良さを練り合わせたライブ。一貫性の無いことが一貫性となるイイ曲たちの洪水。楽曲のバリエーションが多大であるゆえに、それぞれのメンバーの魅力と成長が曲ごとに全て異なる視点から示されていく。30代男性が2人して「いい曲だ」と言いながら涙を流す様をメンバーが視認できていないことを祈る。

一般的に、自分が好きになったタイミングがその人にとって一番楽しい時期であることが多い。
これは当然だ。何とも思っていない状態から好きになるのが感情の動きとして一番激しく移行障壁も大きいのだから、コンテンツ自体が移り変われば「好きになった頃より楽しくなくなる」。前述の初期衝動の補正も大きい。もしそうなっていないものをあなたが好きならそれはとても幸運なことだ。僕自身も使う時間・使う金額は大きく減っている。接し方が変わっている。熱量としては減っている。それでも、エビ中のライブとして、僕の経験した中で今回のツアーが最高のライブであったと思えた。

何よりも楽しいこと

私立恵比寿中学は10周年を迎えた。
特有の出来事としては「MUSiC」フェスの主催と10年間を綴った書籍「私立恵比寿中学 HISTORY 幸せの貼り紙はいつもどこかに」の発売があげられるだろうか。
書籍「HISTORY」ではとかくエビ中の悲しい出来事、波乱万丈なグループとしての側面が強調されていたように感じる。起きた事実を追い、思春期の本人たちを追い、関係者を追えばそのような書籍として出来上がることは避けられないだろう。しかしわかって欲しいのはーー忘れたくないのはーーエビ中に触れている人たちは、ファンたちはいつもエビ中を心の底から楽しみ笑顔になっているという”事実"だ。

「MUSiC」フェスはアイドル主催のフェスには珍しく、今まで曲提供で縁のあるバンド/アーティストが名を連ねる野外フェスだった。こんなに多様なフェスもないだろう。終演後には「(出演していた)ゲスの極み乙女のライブがこんなに良いと思わなかった」という感想を友人から聴いた。フェスイベントの成功を証明する最高の感想だ。

個別メンバーや楽曲への想いを書かずとも仲々長文になってしまった。。
読んでいただいた方、ありがとう。そして出来れば読んでいただいたあなたにも、好きなこと、好きな記憶をどこかに記して欲しい。人の”好き”は読んでいて楽しいので。

12月18日にイイ曲満載の新アルバムが出ます。


この記事が受賞したコンテスト

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?