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page14 カラアゲ

わけもなく精神を参らせてしまうことが時々(あるいは頻繁に)あって、そういうときに僕は揚げた鶏を求める傾向があるみたいだ。唐揚げチキンカツチキン南蛮フライドチキン。普段は鼻腔の奥あたりに固いゴム風船が空気をしっかり溜め込んだ状態で膨らんでいて、僕を鼓舞している。梁をかけたように。さあやるぞ。さあ行くぞ。さあさあと。それが何かの拍子に(もしかすると薬の飲み忘れなんかがもとで)風船はほんのわずかながら緊張感を失う。固く結びつき合っていたゴムの粒子と粒子が緩み、隙間から少しずつ空気が漏れていく。すると風船は表面に皺を寄せ、ボヨボヨと張りを無くし、そして僕にネガティブな言葉を植え付ける。もういいか、もういいじゃん、おわりおわり。僕はあらがうことができない。無抵抗でただ天井を眺める。そこに僕はいなくなって、僕の抜け殻が横たわっている。
揚げた鶏はそうしてしぼみはじめた風船を、再び強固な粒子の結びつきをもったものに変えてくれる。そういう気がする。それからビールの泡でもって空気を入れ直し(少しずつゆっくりと)、鼻腔の奥にしっかりとした梁をかけるようにして、僕は僕の抜け殻を再び纏う。

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