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page8 スナック「雨宿り」にて

「止まない雨はないって言うじゃない?」
ママは細いタバコに火をつけ、ゆっくりと吸ってから続けた。
「だけど私は好きよ。雨粒が屋根を打つ音とか、濡れたアスファルトの匂いとか」
僕は続きを待ったが、どうやら彼女は言いたいことをすっかり言葉にし終えたらしい。

「そうだね、雨だって悪くない」
そのときカウンターの端に置かれたコードレスフォンが鳴った。僕の返答は、電話が彼女を呼ぶ電子音に混ざり、汗をかいたハイボールのグラスを越えることなく落ちていった。僕はふと考えた。言葉が地面に落ちるときは、どんな音がするのだろう。「はい、雨宿り。あら! 蛙さん、お久しぶり! 空いてるわよ」受話器の向こうでは、空席を確かめる酔客の声に混じって、雨が降り始めていた。
(小説『一粒の言葉』より)

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小説の一部を切り抜いてみれば、想像力がムラムラします。

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