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夢を見ることば

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短編集。シュルレアリスム絵画に着想を得て。 まるで夢を見ているように、不思議で不可解で幻想的で、時々ちょっと不気味な、そんな雰囲気のお話が書けたらいいなあと思います。
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#残像のゆくえ

残像のゆくえ(2/2)

残像のゆくえ(2/2)

中学を卒業すると、村を出て町の進学校へ通った。高校を出てからは、さらに都心にある大学へ進学した。就職を機に上京し、いつしか村へはほとんど帰らなくなった。
大人になるにつれ、残像たちとの距離も次第に離れていった。
満員電車の中で窮屈そうに変形しているものや、スクランブル交差点の途中で立ち尽くしているものもいたが、残像たちに気を配るには、東京はあまりにも生身の人間が多すぎた。
一度も交流したことはない

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残像のゆくえ (1/2)

残像のゆくえ (1/2)

幼い頃、私は生き物の残した残滓が見えた。
たとえば、ふと宙を見上げると、鳥が飛んでいった跡が飛行機雲のように見えたり、切られてしまった大木の切り株の口を、名残惜しそうに取り巻いているのを目にした。よく動き回る犬などを見ていると、実像が掴みにくくなるほど、残滓がそこらじゅうに散って見えた。
人は、とりわけ濃い残滓を残す生き物だった。
人が去って間もない残滓は、ほとんど人のかたちを留めたまま残っていて

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