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藤井聡太竜王 NHK杯優勝記念インタビュー全文書き起こし!

藤井聡太竜王のインタビュー「新NHK杯将棋選手権者に聞く」が、NHKラジオ第1の「ラジオ深夜便」で放送されました。

決勝当日に収録されたものだそうです。

2023年3月28日(火)午前0:00まではこちらのサイトで配信されていますので、ぜひ一度聴いてみてください。(残り時間32分40秒頃から)

聞き手の大澤祐治ディレクターの質問は、スマートかつ良く考えられたもので、藤井竜王の現在地を知ることができる、とても良いインタビューです。

これを一週間で消滅させるのはもったいない! と思い、ここにその全文を書き残すことにしました。

なかなかのボリュームがありますので、はじめに要点をまとめ、全文は後掲しています。


藤井竜王インタビュー(まとめ)

  • これまでのNHK杯では、早い段階で時間を使い、最終的に時間に追われて間違えてしまうことが多かった。今期はなるべく決断良く指して、時間を残していこうと思ってやっていた。

  • 指し手の意味や意思を大事にしたい。その一手一手深く考えて自分の考えが盤上に表れるような将棋が指せれば。

  • 形勢判断について、局面がプラス200点だというふうに考えることはほとんどない。少し指しやすいとか少し苦しいとか、言葉で考えていることの方が多い。

  • 終盤の力は奨励会三段の頃とあまり変わらない。AIを活用することで序盤中盤の判断力を強化していくことができた。

  • 後手番でどう工夫していくかが大きな課題。

  • 現時点では八冠についてはまったく意識していない。そのためにはまだまだ実力が必要。

  • 序中盤の構想力や形勢判断はまだまだ伸ばしていける余地が大きい。その辺りを強化して今までと違った将棋にできれば。

  • (ファンとしては藤井聡太竜王に新藤井システムを期待したいが)藤井システムのような大きな構想戦法というのは難しくても、一局ごとに序盤から工夫して指していけたら。

  • 今後の数年間というのが強くなるために一番重要な時期になると思っている。自分自身の課題としっかり向き合って実力を伸ばしていけるように頑張りたい。


インタビュー全文書き起こし

※ 聞き手の質問はなるべく簡潔に整理し、藤井竜王の答えはできるだけ忠実に書き起こしています(「そうですね」や「なんというか」などは除いています。)。


――初優勝された今の心境はどうですか。

NHK杯では前期までベスト16が最高で、なかなか上に勝ち進めていない棋戦だったので、今期なんとか優勝というのはとても嬉しいですし、自分でも驚いているというところもあります。


――今まで5回出場されていますが、苦手意識というか、なぜNHK杯では勝てていなかったのか、自己分析はどうでしょうか。

これまでの対局を振り返ると、早い段階で時間を使ってしまって、最終的に時間に追われて間違えてしまうということが多いかなというふうに思ったので、今期はなるべく決断良く指して、時間をなんとか残していこうと思ってやっていました。


――秒読みに入ってからも、1分将棋と30秒将棋では、読みの深さが半分ではきかないくらい厳しいルールだと思いますが、その点はどうですか。

60秒ですと、局面を見たときにぱっと浮かぶ候補手というのが2通りか3通りくらいあるんですけれども、その複数の候補手を一応それぞれ考えて比較することができるという局面が多いんですけど、30秒ですとなかなか複数を読んで比較するというのが非常に難しくて、どうしても30秒で指そうとすると最終的には判断を直感に頼らざるを得ないというところがどうしても多くなってくるのかなとは思います。

なので、考慮時間を使ってしまいたくなるところが多いんですけど、なるべくそこで決断して、本当に大事な局面で考慮時間を使えたら一番いいのかなというふうに思っていました。


――前期の2回戦、深浦康市九段との対局後、負けた後藤井さんがだいぶがっくりとうなだれて、敗因を分析しているような映像が流れましたが、ご自身では映像はご覧になりましたか。

自分では見ていないんですけれども、そういう話自体は知っています。


――頭の中で敗因を考えておられるのと、悔しさがすごく伝わってきましたが、今期にかける思いというのはどんなものがありましたか。

深浦九段との将棋は、深浦九段の方から積極的に攻め込まれて、こちらに反撃の機会がないままそのまま攻め倒されてしまったという将棋で、自分にとっても少し残念な将棋ではあったので、今期はなるべく積極的にというか難しい局面であればなるべくどんどん攻めていく手を、前向きな手を選んでいければというふうに思っていました。


――今期は決勝まで進まれましたが、どの辺りから手ごたえ、NHK杯の戦い方に順応してきたという感触がありましたか。

ベスト4まで進むことができて、自分としては今期はよく頑張ったなというふうに思っていたんですけど、時間の使い方も今期は考慮時間を残して戦えることが多かったので、その辺りでも前期よりうまくやれているかなという手ごたえはありました。


――将棋界の八つのタイトルのうち五つをお持ちで、周りからすると優勝が期待されてしまうというようなプレッシャーもあると思いますが、その点はどうでしょうか。

このNHK杯戦に関してはまったく今まで実績がなかったので、勝ち上がってからはプレッシャーもなくのびのび指せたんじゃないかなというふうに感じています。


――ベスト4に来て、ノルマは達成したかなというような。

今までベスト16までだったので、ベスト4でだいぶ今期進歩があったかなというふうに思っていたので、はい。


――決勝は佐々木勇気七段との対局になりましたが、どのような気持ちで臨まれましたか。

振り駒で後手番になったんですけど、なるべく受け身にならずに局面をなんとか動かしていくような形にできればというふうには考えていました。


――佐々木勇気七段というと、藤井さんがデビューから29連勝を達成された次の対局相手で、30連勝を阻止されてしまった相手ですが、その点を思い出したり意識することはありますか。

いえ、ずいぶん前のことなので、そのことを思い出すということはないんですけど、佐々木七段とは他の公式戦で何局か対局もありましたし、強さをよく知っている相手なので、こちらもしっかり指していい将棋にできればなという気持ちでした。


――今回は佐々木さんが相掛かりの戦型を選ばれたのも、最初に藤井さんに勝ったときのいいイメージを出したかったのかなと思いました。角換わりを佐々木さんは得意にされていますが、相掛かりを選ばれたときに「おっ」という気持ちになりませんでしたか。

佐々木七段は先手番だと角換わりをよく指されている、で、自分自身も角換わりになる可能性が高いかなというふうに思っていたので、ちょっと意表を突かれたというか、相掛かりになって気持ちを入れなおしてという感じでやっていました。


――今日の解説の木村一基九段は、とてもユニークな解説で有名です。序盤の駆け引きでお互いに7七と3三に金が、あまり良くないとされている形に上がったところがあり、この二人は名前を隠したら強いのか弱いのか分からないと解説されていました。これはAIの影響があったのでしょうか。

従来であれば明らかに悪形とされていた形ではあるんですけど、ただ、飛車先の交換を防ぐというメリットもあるので、形自体は、駒の効率としては決して良い形ではないんですけれども、飛車先の交換を防ぐというメリットと天秤にかけて、あの場合では有力な指し方になるのかなと思っていました。


――後手番ながらも積極的にというお話がありましたが、9三に角を打って局面を積極的に動かしていかれました。あのときはどのような手ごたえを持っておられましたか。

佐々木七段の方に、その前の局面で6七金から5五歩と手厚い受け方をされて、そこでこちらから攻めがないとはっきり受け止められてしまう形になるので、9三角というのは一方向にしか利きがない形で受け止められてしまうリスクもあるんですけど、ただ、どんどん局面を動かしていかないといけないのかなというふうに思っていました。


――佐々木さんに30連勝を止められたときは9三に桂馬がいて、角と同じように頭が丸い駒を攻められて劣勢になってしまったというところがありました。そこに同じく頭が丸い角を打つというのは決断の一手だったのではないですか。

実際角を打つとこちらは攻めが続くかどうかという形にはなるので、局面の展開をはっきりさせてしまうところはあるんですけど、ただ、積極的にというのが今期の方針でもあったので、それを貫けたのかなというふうに思っています。


――佐々木さんが攻め合いを選ばれてからは、驚いたことにNHKで使用しているAIとの一致率が100%に近いような形で進んでいて、本当にびっくりして思わず「強すぎるな」という声が出たほどでした。ご自身の中では自信を持って進めておられましたか。

いえ、決してこれで勝ちだという確信があったわけではまったくないんですけど、ただ終盤というのは、読んでいても完全に読み切れるというところにはなかなか至らないので、ある程度のところで決断する必要があるということで、本局に関しては自分としてもいいペースで終盤は決断して指していけたのかなというふうに思っています。


――今期からNHK杯でもAIの形勢判断グラフが出るようになりましたが、藤井さんはどう感じておられますか。

今までは、視聴者の方からするとどんな局面なのかなかなか伝わりづらいところがあったと思うので、それがああいった形で分かりやすく示されるようになって、今まで以上に多くの方にNHK杯を楽しんでいただけるような形になったんじゃないかなというふうに思います。私自身も囲碁の方のNHK杯をちょっと見ていたことがあったんですが、その方もAIの形勢判断というのが出ていて、私自身、囲碁は本当に初心者で、局面だけを見てもまったく分からないんですけど、形勢判断を見ながら観戦するとおもしろいなというふうに感じたので、そういうふうに楽しんでいただけたらなとというふうに思っています。


――一生懸命考えた一手がAIによってシーソーのようにグラフが動くこともありますが、せっかくあんなに時間を投入して考えたのに、と思われることもあるのではないでしょうか。

どうしても終盤ですと一手で形勢が入れ替わってしまうということもあるんですけど、それはもちろんグラフだけを見ていると、なんかやってしまったという感じにどうしてもなってしまうんですけど、それは本当に際どいなかでそういうふうに揺れ動いている、それも解説の方を通して、そういったことも伝わればなとは思います。


――AIでは本当に怖いところを通ってその勝率ということもあります。人間では選びづらいということでしょうか。

形勢判断というのも主観的なもので、これが絶対に正しいということではないので、もちろんAIの形勢判断もこちらが見ていると非常に勉強になることが多いのですけど、あくまで一つの目安として楽しんでもらえればなというふうに思います。


――AIでもどの将棋ソフトを使うかによって判断が分かれることもあります。

AIには感情や、あるいは意思というのがないので、もちろんその結果、気が付きづらいいい手を指せるということもあるんですけど、自分としても指し手の意味や意思というのを大事にしたいなというふうに思っていて、その一手一手深く考えて自分の考えというのが盤上に表れるような将棋が指せればなというふうに思っています。


――局面を見たときに、今までは「指しやすい」や「どちらを持ちたい」という漠然とした評価基準でしたが、藤井さんが今盤面を見たときに、例えば何%という形で思うのか、何点くらいプラスマイナスだなと思って見ているのか、どのように形勢判断されていますか。

自分自身はそんなにこの局面がプラス200点だというふうに考えるということはほとんどなくて、やっぱり少し指しやすいとか少し苦しいとか、言葉で考えていることの方が多いかなと思います。


――AIによって戦法や戦型選択が左右される時代になってきましたが、藤井さんにとっては研究がしやすくなってプラス面が多いなと思うのか、デメリットも感じるのかどちらでしょうか。

私自身はAIを使い始めたのが奨励会の三段の頃で、今から7年ほど前になるんですけど、当時は詰将棋を解くのが好きで、終盤の力というのは今と比べてもそんなに変わらないくらいあったと思うんですけど、ただやっぱり序盤中盤の力となるとなんというのか評価すればいいのかなかなか分からないままというところで、AIを活用することで序盤中盤の判断力というのを強化していくことができたというふうに感じているので、AIを使うことで今まで以上に強くなれる可能性というのが開けてきたところはあるんじゃないかなと思っています。


――今期は先手番ではほとんど負けていない状況ですが、戦型選択としては不自由になっているような印象もあります。AIに言わせると、矢倉や相掛かりにすると先手番の得がなくなるのではという居飛車党への投げかけというのがあると思います。藤井さんは角換わりを得意にされていますが、他の戦型を選びづらくなっているところもあるのではないでしょうか。

いえ、今は角換わりが有力だと考えて先手番ではよく採用しているんですけれども、その前は相掛かりをよく指していたということもありますし、自分としては仕方なく角換わりを指しているということではなくて、角換わりに一番関心があって指している、で、その前は相掛かりだったんですけど、突き詰めやすくなったというところはあるんですけど、特に相居飛車の将棋ですと、そういった傾向があるかなと。ただもちろん、相掛かりや矢倉というのは変わらず有力な作戦であり続けるので、不自由になったというふうにはあまり、自分としてはむしろ戦型を選ぶときにいろいろ考える要素が増えてきたというのもある意味おもしろいのかなというふうにも思います。


――今期は先手番はまだ1敗しかされていませんが、後手番で少し苦労しているという印象があります。今日のNHK杯の決勝でも後手を引かれましたが、どのような点で後手番は難しいと感じておられますか。

後手番ですとやっぱり序盤から自分の得意な戦型に、展開に持ち込んで戦うということが先手番のときと比べると難しいというところがあって、あるいは戦型に対応する力が求められると思うんですけど、なかなかそこがまだ十分ではないのかなというふうには思っています。後手番でどう工夫していくかが大きな課題だなというふうに感じています。


――今回NHK杯選手権者となられ、これで早指し棋戦においても実績が出たという印象だと思います。

これまで早指しの棋戦では長時間の棋戦に比べてなかなか良い結果が出せなかったので、今期は今までより早指し棋戦において良い結果を出せているので、その点はすごく嬉しく思っています。


――NHK杯では羽生善治九段の11回の優勝が最多記録ですが、これについてはどういう印象を持っておられますか。

11回というのはちょっと気が遠くなりそうな数字で、とてもそれを目指しますとは言えないんですけど、一局一局全力を尽くして少しでも近づけたらとは思います。


――10回優勝すると名誉NHK杯となるので、是非チャレンジしていただきたいと思います。

それは羽生九段専用の称号である可能性も高そうですけど、今期結構手ごたえをつかめたところもあるのでそれをまた来期以降も生かしていけたらなと思っています。


――収録時点では五冠王そして竜王をお持ちですが、これから羽生さんの七冠を超える八冠を期待する周囲の声、絶対王者を見たいという気持ちがあります。

そういうふうに期待していただけることは嬉しく思うんですけど、ただ自分としては現時点ではまったく八冠のっていうのは意識していることではなくて、そのためにはまだまだ実力が今以上に必要かなというふうに思っているので、その実力をさらに伸ばしたうえでそういった数字にも近づければ一番理想的なのかなというふうに考えています。


――実力を伸ばすというと、具体的にはどういう意味で、どういう目標を立てておられますか。

特に終盤に関しては読みの力が大事で、その点はこれ以上大きく伸ばすというのはなかなか難しいのかなというふうに思うんですけど、序中盤の構想力や形勢判断というのはまだまだ伸ばしていける余地が大きいというふうに考えているので、その辺りを強化して今までと違った将棋にできればなと考えています。


――いち将棋ファンとしては藤井さんといえば藤井システムをされた方が有名で、藤井聡太竜王にも新藤井システムを期待したいですが、どうでしょうか。

藤井システムは本当にすごく革新的な戦法で、なかなか序盤でそれを超える構想というのは正直とても難しいんですけど、藤井システムのような大きな構想戦法というのは難しくても、一局ごとに序盤から工夫をして指していけたらなとは思っています。


――来年度になると21歳になられますが、今後どのように将棋界を過ごしていきたいでしょうか。

今後の数年間というのが強くなるために一番重要な時期になるかなというふうに思っているので、自分自身の課題としっかり向き合って実力を伸ばしていけるように頑張りたいなというふうに思っています。


――藤井さんの理想像としてはどんな棋士になりたいと思っておられますか。羽生さんのようなオールラウンダーを目指すということでしょうか。振り飛車を指されたり、今までしていない戦法を長時間の対局で試したりということがあります。

あらゆる展開において的確に判断して急所をつかんで指していくことができるというのがやっぱり一つの理想なのかなというふうに思っています。現状だと先手だと角換わりということで一つの戦型を突き詰めてという形になっているんですけど、その点も将来的にはもちろんいろいろもっと工夫していく余地もあるのかなというふうに考えています。

一局指すごとにまだまだ分からないところが多いなというふうに感じますし、まだ強くなることでまた違った将棋の一面が見られるのかなというふうに思っているので、そういったところを目指していきたいということを、変わらず思っています。

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