生演奏と本場のミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」に魅せられて
ブロードウェイミュージカルの来日公演「ウエスト・サイド・ストーリー」を観に行くことができました。
この作品を初めて意識したのは6年前のことでしょうか。
個人的にも思い出深く、2021年作のスピルバーグ監督の映画も楽しみにしていました。
Tonightを筆頭に、Jet Song、America、Somewhereなどなど、バーンスタインの音楽は耳になじみ、悲劇でありながら身をえぐられる辛さはありません。
英語上演(日本語字幕付き)の本公演、幸い時間の余裕もあり、万全の予習で臨むことができました。
最近の自分を顧みると、予習には上演時間の5倍はかかるように思います。
今回の公演は、第1幕85分、休憩20分、第2幕50分。
休憩を除いて2時間余りですので、10時間くらい聴いてようやく及第点といったところです。
※ 休憩時間とカーテンコールは写真撮影可能でした。記事中の写真はそのときのものです。
舞台については、非の打ち所がありません。
まず、特筆すべきはオーケストラです。
やはり生演奏は心に迫るものがあります。
オーケストラピットを覗いたところ、バスクラリネットにコントラバスサックスなど、思わず目が行く楽器が所狭しと並べられていました。
生オケですと、開演前に練習が聞こえてくるのもポイントが高いです。
チューニングが始まると、こちらまで心拍数が上がります。
オーケストラとキャストのバランスも良く、ストレスを感じさせません。
体育館でのダンス対決は圧倒的ですし、マリアとトニーのTonightにも惚れ惚れします。
Americaは8分の6拍子と4分の3拍子が交互に繰り返されていると最近知り、納得しつつ聴くことができました。
五重唱のTonightは、字幕がなかったことで、むしろ歌に集中できたと思います。
第1幕と第2幕とでは、時間差もさることながら、名曲が第1幕に集中している気がします。
「クラプキ巡査殿」は、映画のイメージから前半にあるものだと思っていました。
あの軽い雰囲気は決闘前の方が相応しいかもしれません。
ただそうすると時間配分に難がありますので、coolを第2幕に移すか…。悩ましいところです。
そもそも本公演は、オリジナルの演出に忠実に、なので、これが正解なのでしょう。
物語には、悲劇の結末につながるターニングポイントがいくつも存在します。
最も直接的な要因はアニタの伝言でしょうが、これは彼女の身を思うと責められません。
ではジェッツの暴行は? あの場にドクがいたら? などと遡ってみると、一番避けられたのは、シュランク警部の事情聴取かもしれません。
職責を果たした彼を指弾するのは酷とはいえ、あと5分遅く、マリアの出立後に訪れていたら、あるいはもっと前なら…と考えてしまいます。
ただその場合、殺人事件の当事者が逃亡することとなり、物語の筋書はずいぶん異なるものとなります。
ハッピーエンドとなると二人は殺され損ですし、悲劇で終わるなら原作どおりで良いよねとも思います。
避けられた悲劇、避けようがなかった悲劇。
物語は観客に投げかけられ、言葉にしがたい余韻を生みます。
そして舞台は暗闇につつまれ、カーテンコールに万雷の拍手。
「マンボ!」の音楽に、幸せだった頃の登場人物たちを思い、切なさがこみ上げます。
いい作品だなぁ。
そんな感慨のなか、極めてシンプルに終演のアナウンスとなりました。
劇団四季のカーテンコールに慣れると「もっと」と思いがちですが、四季の方にこそ感謝すべきなのでしょう。
そういえば今回は会場でのグッズ販売もTシャツとトートバッグのみ、幕間のカフェもなく、こちらもシンプルなスタイルでした。
何せ猛暑の大阪です。紙コップのアイスコーヒー500円でも行列ができたと思います。
それにしても、本当にいい舞台でした。
オーケストラの生演奏、本場ブロードウェイの歌と踊り。
バーンスタインの音楽に、質の高い舞台装置。
悲劇でありながら、多幸感とともに帰路につけるって凄いことだと思うのです。
念願の「ウエスト・サイド・ストーリー」、最高の形で堪能することができました。
キャスト、スタッフ、関係者の皆様に深く感謝申し上げます。
オペラ座の怪人、平成中村座、ドン・ジョヴァンニと巡った舞台三昧もこれで一息。
次に出会える名作が楽しみです。
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