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03.カップ焼そばの望まれぬ進化

 今日は良い知らせと悪い知らせがある。どちらから紹介しようかと迷ったが、まずは悪い知らせからにしよう。実は「一平ちゃん」と別れることになった。まさかこんな日が来るとは・・・

 私と一平ちゃんの出会いは20年以上前、私が大学生時代の頃だ。勤勉な学生だった私は日々徹夜で飲んだり、徹夜で麻雀したり、徹夜で99年設定の桃鉄をやったりと、やたら徹夜で頑張っていた。そして一睡もしてないフラフラな状態で講義に出て、講義中にぐっすり寝てた。自分でいうのもなんだが学生の鑑だった。
  そんな風に徹夜で頑張っていると、必然的に腹が減る。特に朝四時あたりが空腹のピークだ。田舎の大学だったので、24時間営業の店もそんなにない。そんな危機的状況を救ってくれたのは、いつでもカップ焼きそばだった。
 当時、私の住む地域はペヤングが進出していなかったので、必然的にカップ焼きそばはUFOか一平ちゃんの二択になったのだが、私は断然一平派、筋金入りの一平ちゃんフォロワーだった。私の記憶が正しければ、その当時からすでにUFOはカップ焼きそばの矜持を捨て、本物の焼きそばっぽいモチモチとした食感へと変化し始めていた。私はそれが受け入れられなかった。私が求めていたのはカップ焼きそばが持つチープさ、カップ焼きそばらしい麺のボサボサ感だ。どうしても譲れなかった。モチモチした麺が食べたいのなら、マルちゃんの3食入りチルド麺を食べればいいのだ。
 更に言うまでもない事だが、一平ちゃんにはからしマヨネーズが付いている。からしマヨネーズとカップ焼きそばが合わないはずがない。カップ焼きそばの破壊力をブーストさせるニトログリセリンだ。空腹の絶頂の中、からしマヨネーズをぶちまけたカップ焼きそばをざるそばみたいに一気に啜り上げる。まさに至福。深夜のカップ焼きそばほど美味いものはない。
 こうやって徹底的に一平ちゃんを体に叩き込んだ学生時代を経て社会人生活に入るのだが、やはりそこにも一平ちゃんはいた。エリートビジネスマン(自称)の週末は平日に負けず劣らず忙しい。徹夜で飲んだり、徹夜で麻雀したり、徹夜でモンハンをやったりと、猫の手を借りたいほどの忙しさだ。抑圧された平日の反動で暴走してる私の週末。育ち盛りは過ぎたものの、まだまだ食べ盛り。いつだって腹ペコな深夜の胃袋を支えてくれたのはやはり一平ちゃんだった。
 
 そして月日は流れ現在へ至るわけだが、近頃は一平ちゃんを食べる頻度が下がってきた。原因は私自身のナイスミドル化だ。代謝が落ちてきたのか知らないが、若いころと比べて太りやすくなってきたので自制しなければいけなくなったのだ。
 こうして夜間のカップ麺を控えるようになったのだが、どうしても我慢できなくなったときは食べるようにしてる。禁欲しすぎは良くない、心はゴム毬で押さえつけたら必ず跳ね返る云々と、どこかの偉い人が言っていた気がする。偉人の教えには素直に従うべきだ。
 いつ食べても一平ちゃんは最高だが、我慢に我慢を重ねた日々を経てから解放する一平ちゃんは最高を超える。抑圧からの解放が感動的な美味しさを生み出すのだが、「食べてはいけない時間帯に、食べてはいけないものをモリモリ食べてる」という背徳感もスパイスとなって美味しさに拍車をかけているのだろう。学生時代よりも100億倍美味しく感じる(※当社比)。
 毎週のように食べる普段使いの一平ちゃんから半年に1回くらいの頻度で食べる特別感のある一平ちゃんへ。こうして私と一平ちゃんは新しい関係を再構築する事が出来た。
 

 人生の半分以上の時間をともに歩み、家族以上の絆で結ばれていた一平ちゃん。だが、蜜月の日々は突然終わりを告げた。

 先日、久しぶりにハイになろうと思い一平ちゃんを食したのだが、食べた瞬間に違和感を感じた。食感が違う?妙にモチモチ感を感じる。そう言えば、麺とソースを混ぜている時にも違和感を感じていたのだ。完璧に湯切りした一平ちゃんならソースが容器の隅に溜まる事はない。しかし、今回は隅にソースが溜まっていた。私の湯切りが甘かったと思っていたのだが、これはもしかして・・・
 ゴミ箱に捨てた蓋を見返して愕然とした。やはり、私の知らないうちにリニューアルされていたのだ。それはもう「私の愛する一平ちゃん」ではなかった。「一平ちゃんの皮をかぶった何か」だった。

 困惑した頭で色々と考えてみたのだが、出たのは悲しい結論だ。きっと私は一平ちゃんが先に進むうえで切り捨てられるべき存在なんだろう。スーパーの陳列棚を見ると、新しい一平ちゃんが昔より多くの棚を占拠している事実がそれを示している。近所のスーパーでは3列。昔は2列だった記憶があるので、今のモチモチタイプのほうが評判が良くて売れてるのだろう。おそらく、ペヤング派以外の世の中の多くの人はカップ焼きそばにモチモチ感を求めだしているのだ。
 一平ちゃんと別れるということはカップ焼きそばと別れることだ。UFOは論外。ペヤングは味が好みだけど、私には麺が細過ぎる。近所のスーパーやドラッグストアで買える他の商品も色々と試してみたのだが、あいつほどのご馳走感を与えてくれるブツには巡り合ってない。つまり、潮時ってやつだろう。カップ焼きそばからの引退の時が来たのだ。 
 「昔は良かった」と言うおっさんにはなりたくないので、一平ちゃんについて語るのはこれで最後にしたいと思う。この場を借りて一平ちゃんへの謝辞を述べたい。今までありがとう、一平ちゃん。君との思い出はプライスレスだぜ。

 悪い知らせで暗い気持ちにさせてしまったようだ。申し訳ない。次は良い知らせだ。近所のスーパーに「やきそば弁当」が並ぶようになった。北海道限定のカップ焼きそばなのに不思議だ。流通の発展のおかげだろうか?
 数年前に売り場の端っこでスポット的に販売されてたそれを試しに買ってみたのだが、おそらく私の前世は北海道民だったのだろう、これまた私好みで実に美味かった。
 優しい味がするソース。カップヌードルの謎肉に通ずる正体不明の肉々しいかやく。湯切りしたお湯で作る中華スープ(このスープは普通に飲むだけでなく、麺をつけてつけ麵風に食べる事も出来る多機能さを備えている)。噂はかねがね聞いていたものの、予想をはるかに超えていた。北海道で覇権的カップ焼きそばの地位を確立しているのも頷ける。すっかり魅力されてしまった。
 それ以降は一平ちゃんの目を盗み、半年~1年程度周期でちょくちょく入荷される度に浮気していたのだが、ついに先日、「俺の塩」や「日清ソース焼きそば」あたりが並ぶ2軍の棚に配置されるようになった。UFO、ペヤング、一平ちゃんが鎮座する1軍の棚に手が届くのは難しそうだが、一平ちゃんなき今、2軍の棚に並んでくれているだけで安心感を私に与えてくれる。
 そう、私は深夜のカップ焼きそばを諦めなくていいのだ。カップ焼きそばとの別れの傷は新しいカップ焼きそばとの出会いで癒す、そうだろう?俺のカップ焼きそばはこれからだ!!


・・・書き初めに考えていた内容と全然違う話になってしまった。当初の予定では、

①一平ちゃんと私の関係。
②焼きそば弁当の魅力を知るが、あくまでも地域的にレア物。
③一途に愛していた一平ちゃんがリニューアル。ショック!!
④と、思っていたら焼きそば弁当が近所のスーパーで常に買えるように。一平ちゃんの代わりが見つかった!!

 そんな、日常の中で起きたささやかな奇跡を書くつもりだったのだが、下記の文章を書いた辺りから雲行きが怪しくなってきた。

【それ以降は一平ちゃんの目を盗み、半年~1年程度周期でちょくちょく入荷される度に浮気していたのだが】

 この文章が入る事により以下の様に話の流れが崩壊した。

①一平ちゃんと私の関係。
②焼きそば弁当の魅力を知るが、あくまでも地域的にレア物。

③【レア物だけど、結構な頻度で入荷されてたので食いまくった】

④一平ちゃんがリニューアル。ショック!!
⑤焼きそば弁当が近所のスーパーで常に買えるようになった。

 何でこんなことになってしまったかというと、私の時間感覚では「やきそば弁当との出会いから半年程度経って一平ちゃんがリニューアル」と思っていたのだが、この話を書き進めるにあたって時系列を良く思い出してみると全然違った。
 今まで食ったカップ焼きそばの個数なんか覚えていないし、ましてや最初に食べた日付なんか覚えてないが、当時の自分の身の回りで何が起きていたかを思い出す事で、ある程度の時期は特定出来た。当時の記憶を遡った結果、私がやきそば弁当に出会ったのは約4年も前だった。つまり、そこから4年間にわたってやきそば弁当を食べ続けていたのだ。
 歳を取ると1年が早いと言うが、1年どころか4年も経っていたとは。だとしたら、リニューアル自体が数年前の出来事だったのかもしれない。

 とりあえず話を立て直そうと四苦八苦してみたが無理だった。4年間も一平ちゃんを蔑ろにし、こそこそとやきそば弁当を食べていた事実がある以上、筋が通った落としどころに到達するのは不可能だろう。もう、諦めました。
 収拾がつかなくなってきたので、二股ゲス野郎らしい逆ギレ気味なふてぶてしい態度で強引に終わらせたいと思う。

「確かに『俺は一平ちゃん一筋!』って言いつつ、陰ではやきそば弁当を食べまくってましたけど、それが何か問題でも!?文句があるなら訴えれば!?」

 
 

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