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開幕戦が最終戦?その年最初の仕入れに全てを賭ける、海苔屋のお話。

年も暮れ、11月になると海苔屋はだいたい憂鬱になります。(特に私)
なぜなら海苔の入札、買い付けシーズンが始まるからです。

どんな海苔が買えるのか?表向きはワクワク。
中身は受験のような半端ないプレッシャー。

その年の買い付けに自分の海苔屋はもちろん、卸先やその先のお店の命運もかかってくるからです。

長年海苔入札を担当してきたプロを持ってしても100点満点の買い付けなんてないそう。
卸先や自分たちのお客さまにふさわしい美味しい海苔を仕入れるのはもちろん、いくらで仕入れたか?も重要なわけです。

海苔屋の買い付け担当にとって、最初に行われる"初摘み入札"はこれから始まる長い戦いの第1試合、いわゆる開幕戦。

今日はそんな"初摘み入札"に全てを賭ける、開幕戦が最終戦でもある稀有な海苔屋"ぬま田海苔"の買い付け話。

海苔の仕入れってどうなっているの?
なんてご興味ある方はぜひ。
本日もゆるりとお付き合いください。

【海苔の仕入れ方法は?】

そもそも海苔の仕入れ方法とは?
海産物は初マグロなどのイメージもあり"せり(オークション)"だと思っている方が多いみたいですが、実際は"入札"です。

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その違いはどこにあるのか?

"せり=オークション"だと金額は天井知らずで競り続けることができ、誰も競る人がいなくなったら落札となります。

"入札"は全員同じタイミングで金額を提出し、最終的に一番高い金額を書いた人が落札、要は一発勝負。

なので、入札では価格を上げすぎて思った以上に海苔を買いすぎてしまうこともあれば、価格を抑えすぎて全く買えない、なんてことがざらにあるのです。
"自分の欲しい海苔だけを適正価格で買う"ことがどれだけ難しいか。私も身をもって感じました。
だからこそ、念入りに準備して入札へ向かいます。

【入札の時期は?】

九州・有明海の初摘み海苔入札の時期はだいたい11月の終わりから12月の最初。そこからだいたい4月まで海苔の収穫に合わせ開催されます。
佐賀・福岡・熊本とそれぞれの漁連会場で行われ、同日開催になることはないので時期によっては連日開催に。

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佐賀の次の日は福岡、そこから熊本へ。そこで終わればまだ良い方かもしれません。海苔屋さんによっては兵庫→愛知→千葉へと縦横無尽に移動して入札に参加していきます。
収穫に合わせ入札もそれぞれの産地で10回以上あるわけで、多いところで1シーズン50回以上の参加もあり得ます。初摘みが開幕戦というのもなんとなく理解していただけるかと思います。

【先ずは食味(しょくみ)から】

食味とは、入札本番前のいわゆる下調べ。
初摘みで失敗できない"ぬま田海苔"は必ずここからスタート。

まずはサンプル集め。各漁連の倉庫に集まった海苔箱(通称海苔ダン)から気になる漁場と等級の海苔をピックアップしていきます。何万箱ある中での作業はなかなか大変です。

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まず海苔箱の数が半端ない。

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気になる海苔のサンプルを集めたらいざ"食味"開始。
各漁場の色々な等級の海苔を1枚焼いて食べる。
また1枚焼いて食べる。

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ひたすらその作業の繰り返し。
その数約300枚。『そんなに食べたらわからなくなるでしょう?』
なんて聞く方もいますが逆です。それだけ食べた中でキラリと光る海苔がいるんですよ!

この食味のメリットは、事前に気になる漁場や等級を絞り込んだ状況で本番にのぞめる、という点にあります。

【前見付(まえみつけ)】

前見付は入札の前日に行われます。本番前のリハーサルのようなもので、買い付け担当者はじっくりと見定め"入札手板"に値札を書き込んでいきます。
食味と違ってほぼ全ての海苔が並んでいるので、細かいチェックが可能です。

見付とは"入札手板"にそれぞれの海苔の評価を価格にし記入していくことです。一般的には1箱ずつ触って、見て、値段をつけ、また次の箱へと進んでいく。最後に気になる海苔を焼いて食べて確認する、という流れです。

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この作業が前見付だと圧倒的に人が少ないため、ゆっくりじっくり行うことができます。

そんな中私はとにかく焼いて食べまくる。
食味でマークした漁場の海苔を様々な等級で食べくらべ。
 1等級より2等級が美味しいと思ったらそちらにマーク。
食味で確認していない漁場の海苔で、びっくりするくらい美味しいのを見つけたりと、おいしさに特にこだわりたい"ぬま田海苔"にはこの前見付も重要。

【見付(みつけ)】

いよいよ入札本番です。
特に初摘みともなると全国の凄腕買い付け師が集まってきます。
今はコロナで制限がかかっていますが、以前は溢れるくらいの人でした。

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海苔を観察しながら何気ない会話で隣の人に探りを入れてみたり、勝負師たちの駆け引きはもう始まっています。
手触りだけで判断する人も入れば、一口ずつちぎって生で食べる人、私のように焼いて食べる人と、スタイルはそれぞれ。

前見付に参加していても、ギリギリで滑り込んでくる海苔もあるので気は抜けません。買いたい海苔を最終的に絞っていきます。

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【札入れ(ふだいれ)】

ここからは札入れ。
入札担当が決めた価格を各々提出するのではなく、大手海苔屋さんを軸にグループ分けし、そこで取りまとめていきます。
教室のクラス分けのような感じでクラスごとに同時発表、みたいな流れ。

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実は入札の権利も、海苔屋が皆持っているわけではありません。
人数制限もある中で一斉に参加することは難しいので、大手海苔屋さんに依頼し、希望の海苔を仕入れてもらうのが一般的です。

実際に自分たちで食べくらべてして選びたい"ぬま田海苔"は、入札権を持つ海苔屋さんに同行させてもらい参加します。
本来なかなか参加できるものではないのですが"ぬま田海苔"を応援してくださる大先輩の海苔屋さんのおかげで実現できています。

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自分たちのグループ部屋でサンプルを見ながら金額の最終調整。
時間が来たらグループセッションスタート。
リーダーのかけ声に合わせ各漁場・等級ごとに値札をつけていきます。
最も高値をつけた海苔屋さんがその組で海苔を落とす権利を得ますが、最終的に落とせるかどうかは他の組の札しだい。

¥1でも高い札を入れた人が勝者。
『けつ一丁の美学』なんて言葉が海苔業界にはあります。
¥1だけ高く他の海苔屋より値札をつけて落とせたら素晴らしい、確かに毎回そんな仕入れができたら凄いですね。

ただ生産者を考えたら"フェアトレード"でありたいという思いもあります。美味しい海苔にはできる限りの評価をつける、そんな想いとのバランスで値札を決めていくのです。

先輩海苔屋さんと相談し価格を見直したら最終確定。
最後までドキドキがとまりません。

【結果発表】

まるで合格発表のような気持ちの中、一斉にどこの組がどの海苔を落としたか?プリントアウトされてきます。

『よっしゃー!』となる人もいれば、
『いくらで落とされたの?』とじっと数字を見つめる人、
『え?そんなに買えちゃったの...』と戸惑う人も。

欲しかった海苔が買えた時の喜びは...文字で表現ができないくらいです!

そしてそこからは電話の嵐。
買い付けできた報告はもちろん、買い付けできなかった時は他の海苔屋さんと相談し譲ってもらう、買いすぎてしまった時は譲る交渉。

自分たちが思った以上に海苔を買いすぎてしまうこともあれば、価格を考えすぎて全く買えない、なんてことがざらにあるのです。

この問題への回答がこれ。むしろ入札後が一番忙しいと言えるかもしれません。
こんな痺れる1日の後もまたすぐ次の入札会場へ。

その年の買い付けに自分の海苔屋はもちろん、卸先やその先のお店の命運もかかってくるから、休む間なんてありません。

移動中は雲の隙間から差し込む朝陽にすっと心が癒されました。

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この入札を通していつも感じること。
海苔の生産者、それを評価して等級を付ける検査員、その海苔に値札を入れる海苔屋の仕入れ担当、全員が真のプロなのでその評価にも色々な想いやメッセージが込められたりしています。
日本の海苔が世界でトップクオリティだと言えるのは、一般的には見えない世界で戦うプロたちの努力のおかげなんだと、感謝の気持ちでいっぱいになります。

そして、そんな初摘み入札のシーズンがまさにスタートします!
"ぬま田海苔"にとっての開幕戦でもあり、最終戦。
今年も食味から福岡、佐賀、熊本入札まで駆け抜けます。
どんな海苔が買えるのか?皆さん楽しみにしていてください。

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デザインデータの作成や海苔焼きの工程もあり新しい海苔が並ぶのは来年以降となりますが、基本的にぬま田海苔の海苔は全て初摘み。
乾海苔で保管し毎月焼き加工しているので新鮮な美味しさです。
私が入札で選び抜いて勝ち取った貴重な海苔を、ぜひ店舗で食べくらべして美味しさを体感してみてください。
お歳暮にお年賀のご注文もお待ちしております。

以上、本日もお付き合いいただきありがとうございました。

ぬま田海苔へ何かリクエストがあればいつでもご連絡を。note/Twitter/Instagramどこからでもお待ちしております。フォローも大歓迎です。

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《ぬま田海苔 合羽橋本店 店舗情報》
〒111-0035 東京都台東区西浅草3-7-2
05017459617
[営業情報]
Open : 全曜日営業(11:00〜17:00)
※店内の予防対策にご協力ください。

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