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"2023"幻のアサクサノリを探して〜多摩川探訪記〜

皆さん、マーケットに並ぶ海苔の品種について考えたことはありますか?
現状9割以上の海苔は「スサビノリ」という品種が使われています。
ただ昔は「アサクサノリ」という品種の海苔も盛んに養殖されていました。

「アサクサノリ」は色が赤く育ちがゆっくりなこともあり、より黒く育ちやすい「スサビノリ」が評価され、現在わずかな量だけ養殖されています。

そんな「アサクサノリ」が実はまだ多摩川の河川敷に野生で生息していると聞き、専門家の皆さんと訪れたのが2019年2月。
私の実家からもほど近く、幼少期から遊んでいた河川敷にまさか野生の「アサクサノリ」が生きていたなんて思いもしませんでした。
この詳細は私の過去のnoteからご覧ください。

あれから4年。

2019年10月に関東を直撃した大型台風の影響で、多摩川河口の地形が大きく変わってしまったそう。建設中だった羽田と結ぶ橋も開通し、環境が変化したこともあり昨年はたった2個体しか確認ができなかったという「アサクサノリ」。

《環境が変化した多摩川河川敷》

果たして無事に再会することができるのか…?。

今日はそんな希少な野生の「アサクサノリ」の物語。
ご興味ある方はゆるりとお付き合いください。

注:この調査は千葉県立中央博物館分館 海の博物館 菊地先生の調査に同行したものです。調査地が国土交通省によって「生態系保持空間」と位置づけられる場所であり、基本的に人の立ち入りについて一定の制限をしている場所です。調査地がそのような保護された地域となりますので、自然に影響するような活動(生きものの採集等)は極力行なわないようにする必要性があります。危険性も高いため個人での調査や採集はどうぞお控えください。

【葦(あし)の森へ】

研究チームの皆さんと久々の再開を懐かしむ間もなく、さっそく「アサクサノリ」の生態調査へ出発。

《研究チームと出発》

4年前はまだ建設中だった橋が立派に出来上がっているのと同時に、以前あった葦の森がない…これは一体?

《4年前は建設中だった多摩川スカイブリッジ》

冒頭でお伝えした通り、3年前に関東を直撃した大型台風の影響で葦の多くが流され、土砂に埋まってしまったようでした。あの台風はそれだけ凄まじかったんだなと、今さら実感。

橋を潜って少し、ようやく現れた葦の森から調査開始。

《葦の森へ》

話に聞いていた通り、以前はすぐ見つかった「アサクサノリ」となかなか出会えない。
『どこにいるのか?』と気を揉んでいた中、ようやく!

【アサクサノリと再会】

《葦に張りつくアサクサノリ》

干潮で水位が低いこともあり、葦に張りついている「アサクサノリ」を発見しました!再会できて本当に嬉しい。

《少しずつ葉を広げるアサクサノリ》

干からびていても、水に浸かると少しずつ葉を広げていきます。

《葉を広げたアサクサノリ》

葉を広げ、プカプカ泳ぐ姿がまた可愛いのなんの。隣で「スジアオノリ」も気持ち良さそうに揺らいでいますね。

個体数が増えていることを願い更に奥、海の方へと進んでいきます。

《更に河口へ》

【カキ礁との関係性】

奥へ進み見つけたのがマガキのカキ礁(しょう)。カキ礁とは、わかりやすく説明すると"牡蠣(かき)が多く集まった場所"となります。

《マガキのカキ礁》

カキ礁があると「アサクサノリ」を見つける確率がグッとあがります。実はこのカキ礁が野生の海苔にとって非常に重要

海水温が高い夏場は海に細菌などが多ため、海苔の胞子は牡蠣など2枚貝の中に隠れています。貝の殻が様々な細菌や病気から胞子を守ってくれるんですね。海水温が下がると外にでてきて、葦や岩場などより広い場所を見つけ付いて育つ。

実際に海苔養殖でも牡蠣殻を使います。

《海苔養殖には牡蠣殻を使う》

3年前の台風で多くの葦が流され、カキ礁も土砂に埋まってしまったために、「アサクサノリ」の個体数が減ってしまったようです。

牡蠣の殻は"多孔質(たこうしつ)"という表面に小さい穴がたくさんあいている性質。泥よりも比重が少ないために、泥に浮くことができる。牡蠣の赤ちゃんはその殻に次々にくっ付き成長する。そうしてカキ礁が形成されていくそうです。

《マガキ》

一度土砂に埋まったマガキが浮いて出てきたことで、「アサクサノリ」も復活できたんですね。自然の力はすごい。

【岩壁を探索】

更に奥へと進み岩壁も探索してみます。

《岩壁探索》

ここにも立派なカキ礁がありました。

《カキ礁》

近くで柱に貼り付いている「アサクサノリ」も発見!牡蠣との関係性の深さを実感します。

《アサクサノリ》

再会できた嬉しさのあまり笑顔に。(笑)

《アサクサノリと記念撮影》

【河川敷に生きる様々な生き物】

このあたりの泥を網ですくってみると、様々な生き物と出会うこともできました。

《工場の目の前で調査》

網の中でピチピチ跳ねているのは「スジエビ」。小さい時によく網で採っていたことを思い出しました。この透明の体が懐かしい。
一緒に入っていたのは「アラムシロガイ」

《スジエビとアラムシロガイ》

他には「アサリ」の稚魚。昔は大師の河口でいっぱい採れたとういう「アサリ」ですが、今では本当に希少。
みんな元気に育ってくれよと、エビもアサリも川にすぐかえしました。

《アサリの稚魚》

海藻も色々発見。緑藻類である「スジアオノリ」は「アサクサノリ」より多く見つけることができました。

《スジアオノリ》

こちらは「ヒトエグサ」でまた別のアオノリ。「スジアオノリ」とは葉の広がりがぜんぜん違いますね。

《ヒトエグサ》

「アサクサノリ」と同じ紅藻類の「アヤギヌ」「ホソアヤギヌ」なども。
あまり食用にはむかないようですが、こちらも貴重な海藻。

《アヤギヌ》

たった4年で自然はこんなにも変わるものなんだと厳しさを感じると同時に、そんな中でも自然と共存しあい生き抜く「アサクサノリ」に、勇気と感動をもらいました

海苔業界を取り巻く環境もどんどん厳しいものになっていますが、だからこそ生き残っていけるように頑張らねば。
牡蠣と海苔の関係のように「共存」という部分も大切なキーワードだと思いました。

今回もプロの研究チームと同行して調査しています。大変危険ですので、くれぐれも個人での調査はお控えください。「アサクサノリ」はじめ、多摩川河川敷の自然や生き物を一緒に温かく見守っていただけると嬉しいです。

以上、多摩川探訪記の続編でした。
4年前に私が書いた記事はこちらから。川崎海苔養殖の歴史や「アサクサノリ」の由来など、ご興味ある方はぜひ。

4年前分けていただいた「アサクサノリ」の標本はぬま田海苔店舗でご覧いただけます。

多摩川で採取した様々なノリの標本

ちなみに、調査ポイントのすぐそばにはこんな素敵なカフェもありますよ。

本日も最後までありがとうございました。

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