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『スミス、都へ行く』(1939)①鳥かごの中のスミス

『スミス、都へ行く』はフランク・キャプラによるアメリカの精神性を体現した傑作である。
そして、この物語は田舎で暮らしていた鳥としてのスミスが、鳥かごに入れられ、その中で倒れるまでの物語であると私は考えている。

スミスという名の鳥

1人の上院議員がなくなったことで、子供から絶大な支持を受けるスミスは新たな上院議員として担ぎ上げられる。
そこには、ジムとペインの思惑が関わっているわけだが、これを私は鳥かごに入れられることだと考えている。

まず、鳥の象徴的な意味として「自由」があり、鳥かごは、そのような意味を持つ鳥閉じ込めるため「不自由」を表す
今作の中で鳥かごの中の鳥が登場する場面は2回ある。
1回目は、スミスが田舎から列車によってワシントンD.C.へ移動し、駅に到着した場面である。

この場面で登場するのは、四角い鳥かごの中に入れられているスミスの飼っている白い鳩であり、この白い鳩が入れられている鳥かごは、最終的にペインの側近の手に渡る。(図1参照)

図1:鳥かごを持つペインの側近

このショットの次のショットとして示されるのが、スミスがバスの中にいるショットである。(図2参照)

図2:バスで観光をしているスミス

スミスもまた、鳥かごの鳥同様に、バスという閉鎖的な空間にいることが示される。
よって、この一連のシークエンスから、スミス=鳩であり、彼がペインらの手中にあることがわかる。

スミス=鳥であり、彼が閉じ込められていることを示すものとして、初めて取材を受けた際の新聞記事がある。(図3参照)
スミスは取材の際に鳥の鳴き真似を披露し、これを新聞記者たちに取り上げられたのである。

図3:鳥の鳴き真似をするスミスの写真が掲載された新聞

そして、鳥の鳴き真似をするスミスは、新聞の枠によって捉えられている。
ここでもう一度、スミスが不自由な状態にあることが鳥を使って表されているのである。

剥製の鳥

2回目に鳥かごの中の鳥が登場するのは、スミスがペインの自宅を訪ねる場面である。(図4参照)

図4:ペインの自宅にある鳥かご

この鳥かごは1回目の鳥かごとは違い、中にいるのは剥製の鳥である。
ここからは鳥であったスミスが、上院議員として担ぎ上げられ、仮初めの自由の象徴とされていることを表している。
この鳥かごは、ペインの自宅にあるものである。
よって、この鳥かごの鳥はペインでもあり、ペインもまたジムによって自由の象徴として担ぎ上げられた存在であることがわかる。

この後、もう一度スミスが、ペインの自宅を訪ねる場面では、この鳥かごは映されない。
なぜなら、スミスがペインらの陰謀について知らされたことで、自由のために戦う意思を持った、すなわち、もう一度羽ばたこうと試みているからである。

鳥かごとしてのアメリカの歴史的建造物

この映画にはアメリカの歴史的建造物が複数登場する。
そしてこれらは、この映画においてスミスの鳥かごとして機能している。
まず、1つ目がリンカーン記念堂である。(図5参照)
憧れのワシントンD.C.にやってきたスミスはこのリンカーン記念堂を訪れるのだが、この記念堂はスミスの鳩の鳥かごと同様の形状をしている

図5:リンカーン記念堂

そして、スミスはこの記念堂の中に入っていく。
これによって形式として鳥かごの鳥と同じ状態にスミスは置かれることとなる。
記念堂内ではアメリカの象徴であり、自由のシンボルとされる動物、白頭鷲の石像があり、スミスとともに映される。(図6参照)

図6:白頭鷲の石像とともに映されるスミス

この白頭鷲もリンカーン記念堂の中に囚われている鳥であり、スミスと同じ状態にあるのだ。

そして、この映画において最も重要な建造物がアメリカ合衆国議会議事堂である。
この議事堂は複数回登場するだけでなく、スミスが最後に自由を求めて戦う場所でもある。
この議事堂の上部は、2度目に登場した鳥かごと同様の形式をとっている。
先程あげた駅の場面でも背景として議事堂が登場するが、上部のみが見えており、下部は別の建物によって遮られている。
同様にスミスが、サンダースとともに法案を作っている場面で映される議事堂も下部が隠されている。(図7参照)

図7:窓から議事堂を指差すスミス

これらの場面から鳥かごと形状が類似している議事堂の上部のみがいかに強調されているかがわかるだろう。
スミスはこの議事堂という鳥かごの中に囚われ、自由を求めて羽ばたこうとする鳥なのである

鳥かごの中で散った鳥

スミスは自由のために議事堂で戦うことを決心する。
抵抗の手段として彼がとった行動は、上院の規定を利用した議事妨害によって、発言権を譲らないことであった。
そう、彼は鳥かごの中で自由のために鳴き続けることを決意するのだ。
長時間に渡る抵抗の末にスミスは倒れてしまう。(図8参照)
スミスの上には、子どもたちからの手紙が被さり、その姿はまさに羽を散らして死んでいった鳥である。

図8:抵抗の末に倒れるスミス

スミスは自由のために、鳥かごから脱するために戦い続けたが、力尽きてしまった。
しかし、この作品には忘れてはならないもう1羽の鳥、ペインがいる。
スミスの姿を見てペインは議事堂を飛び出し、自身の不正を告発して物語は終わる。
ペインは鳥かごから飛び出し、自由のために鳴いたのである。

最後に

この映画はアメリカの理想とされる自由な精神を表象するとともに、腐敗による不自由さを示している。
そのような鳥かごからいかにして羽ばたくか。
羽ばたこうとしているものはどれほどいるか。

これは現代の我々にも問いかけられている。

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