はるか昔に巣食った情念へのアプローチ
街は僕の世界そのものだった。
擦り傷だらけで遊びまわっていた頃の僕にだけ見えていた世界はきっとある。
歳を重ねた今だからこそ、そう確信している。
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あの頃を恋しく想うのは何故なのだろう。
焼けた夕陽に融けるあの子を眩しく想ったり、季節の風の香りをくすぐったいと感じたり、
疲れ切って家路についた足取りが軽いと気付いたりする事と関係があるのだろうか。
大人になった少年は、その足で様々な街を練り歩くようになった。
刺激に飢え、見聞を広げる事の魅力に取り憑かれ、次第に距離を伸ばす。
距離を伸ばせば伸ばすほどに広がる世界。
素晴らしい!この世界は無限だ!可能性に満ち溢れている!世界はどこまでも広がっていて、その先にはきっと見たこともないような桃源郷が広がっている…!
はずだった。
まだ見ぬ世界の果てにあるはずの桃源郷が実は存在しないのではないかと、ふと考えてしまうようになったのはいつ頃の事だったのか。
僕は大きな迷路に迷い込み、ぐるぐる繰り返し、盲信し、彷徨い、漂い、そしてまだここにいた。
桃源郷どころか、ここには何も無い。
いや僕には何もない。
僕は誰だろう。
来た道を振り返る。
どこだここは。
故郷はどこだったか。
焼けた夕陽に融けるあの子を眩しく想ったり、季節の風の香りをくすぐったいと感じたり、
疲れ切って家路についた足取りが軽いと気付いたりしたのは、そう想ったのはいつが最後だったのか。
僕はもう一度あの頃の君に会いたいのだ。
会えないけれど会いに行くのだ。
そこにあったはずの拗れた情念を、ファインダー越しにそっと写す。
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