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at break of dawn
今宵の月は明るい。
日に日に価値を失いつつあることを開き直って多少おちゃらけているのは自覚しているし、これまで失敗した分、たとえ自分に好意のある男性とはいえ寄りかかり過ぎないようにしようと思うようになったものの、むしろそれが裏目に出るということが続いて疲れてしまっている。
恋、をしていた。
燃えるような恋ではなく、芯から温まるような恋だった。
けれど、彼に「私はあなたのことが好きです」と伝えたのは、交際することになった日だけだった。
私はいつもそうだ。
拒絶されるわけがない相手にすら「好き」と言うことがなかなか出来なかった。
それどころか、誰かを名前で呼ぶことも出来なかった。だって、呼んでも振り返ってもらえなかったら悲しいでしょう?
これについては過去の虐め経験が原因だと思うのだけれど、今は思い出したくない。
四季を何度か共にし、ずっと続くと思っていた関係だったけれど、終わりが来た。
私は彼に恋をしていたけれど、彼は私に恋をしていなかったから。その代わり彼は私に愛で応えてくれた。
恋と愛。あの頃の私たちには、その食い違いを無視することが出来なかったのだった。
そうして、私は彼のもとから去った。
その後の私は、まるで別人のように変わった。
感情の起伏が激しかったのに、いつも笑っている人間になった。
周りの目なんて気にしていなかったのに、いつも誰かの表情を窺っていた。
誰かに嫌われても平気だったのに、嫌われるのが怖いと思うようになった。
「いつも笑顔で素敵だね、見習いたい」と、先輩から褒められた。
どんなに忙しくても、笑顔でいることを心がけるようになったし、そのお陰で人生が上手くいっているかのように思えた。
けれど、心の何処かで腑に落ちない自分がいた。本当の自分を失ったように感じた。
薄っぺらい人間になったような心持ちになった。もともと何かあったわけでもないのだけれど。
そうして、代替可能な女として消費されるようになった。季節が巡る度に、隣を歩く男の人が変わった。
私は誰かのことを深く求めることが出来なくなってしまったし、同じように私に興味を持った男の人も私のことを深く知る前に愛想を尽かし去っていった。
もし彼と再会して「また一緒にいよう」と言われたら、私はどうするだろうか。まずあり得ないけれど。
きっとうまくいかないと思う、今でも拠り所にしているにも関わらず。人生は矛盾の連続だ。
おそらく私は、不在のあいだの苦しみを全て彼のせいにしてしまうだろう。逃げたのは私なのに。
たとえ腑抜けのようでも独りで生きていけるようになった私には、もう彼は必要ではないのだ、物理的には。
私はこれから好きになる人に、彼がいなくなった後に身につけた付け焼刃の“いいひと”を見抜いて、それでもなお好きでいてもらいたいと願う。
それがとんでもない高望みだとしても。願うくらいは許してほしいなあと、まばゆい月を見て思った帰り道。
そして、うだうだ考えているうちに、もう夜明け。
夏の夜は短い。
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