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GPSと個性の話/自分が納得するための走書

突然だか僕という人間は超がつくほどの方向音痴と左右盲だ。

運転中に助手席に座っている人から「交差点を右折して」と急に言われると高確率で左折してしまうし、目的地までの経路を人に尋ねても基本的に理解できない。自分が助手席に乗ってドライバーに道案内なんてもってのほかで「あっち、こっち」しか指示ができない無能アシスタントに成り下がる。「右と左なんて箸を持つ方でわかるだろ」という声が恵方から聞こえてくるが、何なら僕は目の前に置かれた箸を無意識に利き手じゃない方で取ってしまうレベルなので黙っていただきたい。

最近僕は気の知れた友達に深夜のドライブに連れて行かれる。当然無能ドライバーの僕は助手席に座り、道案内はグーグル先生に丸投げし、話を展開し好きな曲を流すアマチュアラジオDJとしての役割に徹する。毎回都会の穢れが垂れ流された東京湾を望む海辺にあぐらを掻き、クタクタのおろしポン酢牛丼を頬張りながら他愛もない話をする。

心優しい友達は僕の自宅まで毎回送ってくれるのだか、ある日彼は道程の半分ほど来たとき「あんた本当にGPSに生かされてるよな。今日はこっから家までマップ無しで案内してよ」と言われた。深夜ドライブのルートは毎回同じだし、通算20回は行ってるし、10分もあれば着く程度の距離であるため普通の人なら何の気負いもなく案内ができるのだろう。

しかし僕はその瞬間背中の冷や汗が止まらなかった。

結果から言うと10分ほどの道のりに僕がかけた時間は45分だった。

いや、まじで。

同じコンビニの周りを何度も周り、交差点の直進・右折と・左折の三択をことごとく外す。決して当てずっぽうではなく脳みそを捏ね繰り回した選択が、である。

運転をして(僕だけ)ミステリーツアーに同行をしてくれた友達は6年来のベッタベタ癒着のキモキモの関係なのでゲラゲラ笑いながら楽しんでくれたけど、当の本人は暗中模索の五里霧中で「多少は自覚してたけど正直まじで病気なんだろうな」と思った。

このミステリーツアーは最終的には爆笑の末にグーグル先生にお世話になりハッピーエンドで幕を閉じたのだが、自分自身の絶望的な空間認知能力に流石に不安を感じ「方向音痴 重度」「空間認知能力 低い 大人」など様々な単語を組み合わせ原因の究明と解決策を探した。

検索結果はお察しの通り流行りの「大人の発達障害」の類に溢れていた。

ページをスクロールするとASD(アスペルガ症候群)やADHDが原因の空間認知能力とワーキングメモリ(短期記憶・作業記憶)の低さが招いている症状である可能性が高いことがわかった。

空間認知能力とは人や物の位置を立体的に把握する能力で、方角・距離・大きさ・広さを的確に理解し把握する役割を果たす。
ワーキングメモリは短期記憶や作業記憶と呼ばれ、何かを考えたり作業を行った利するときに必要な情報を一時的に置いていく場所であり、この情報をもとに人は行動する。このワーキングメモリは言語性ーと視覚性ーに分かれ、言語性ーは言語化できる情報を保持し、視覚性ーは言語化できない情報を保持する場所である。

行った道を帰れないし、馴染みの道でもルートを変えると脳内マップは別世界にワープし「あーれれ〜知らない道だぞ〜」となる僕はきっと、絶望的な空間認知能力と視覚性ワーキングメモリの小ささが招いた症状であることをなんとなく理解した。

原因は究明した。しかし発達障害には深刻なトラップがあった。

脳のエラーであり具体的な解決策が存在しないことは理解できるが、どのサイトの締めの言葉は「発達障害は【個性】なので受け入れて生きていこう!」と脳みそ捨てたんか?と思うようなものだった。

は?なにが個性だ馬鹿野郎。

対人関係が必須の人間社会や自分自身にとっての問題があるから原因を探っているのだから個性という都合のいい言葉で片付けないでいただきたいと憤慨した。

障害に対して【個性】と銘打つのは「普通」の人のエゴではないだろうか。

個性という言葉は非常に響きがいい。例えば「あなたのルックスは個性的だね」と言われたとき、話し手に悪気がなかったとしても聞き手は馬鹿にされているような気持ちになるだろう。この場合「魅力的」と言い換えるのが適切だろうが、これを障害に置き換えられるようには思えない。

個性という言葉で障害を形容することには異議を唱えるわけではない。しかし個性という言葉は障害を持つ人と健常者の双方向に使える言葉ではない。

健常者が障害を持つ人の特性に対して【個性】という言葉を使うべきではなく、その障害を乗り越えた障害者自身が【個性】としてポジティブに表現するための言葉である。当事者の障害に対する受け取り方を蔑ろにして簡単に【個性】と銘打つのはナンセンスだと思ってしまう。

ここまで駄文を連ねてしまったが、己の病的な方向音痴はおそらく何かしらの診断をされうるものであるが、Google Mapを使えば普通の生活を営むことができるし僕の周りの人間は僕が左右や道を理解できないことを理解し笑ってくれるからそこも憂うことではない。これは僕にとってのスベらない個性だから。

GPS必須人間に【個性】を突きつける社会に対するプロテスタントになりマウス。

※視覚性ワーキングメモリが欠落している僕の脳にインプットするための言語化なので駄文すぎワロタ。

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