宝桃園-自然と人との共同作業- / 宝桃園PV公開によせて
僕の仕事の方向性を変えた大きな出会いの1つはこの宝桃園だった。
桃をおろしている鎌倉のレストランオーナーの紹介で宝桃園の堀井さんに初めて会ったのは新宿のカフェだった。
その頃エンタメを中心とした仕事ばかりしていた僕にとっては、初めて体験する農家との仕事だった。
その業態を全く理解していなかった僕は不安もあり、堀井さんに「とにかく現場を見せて欲しい、可能なら何日か泊まりで農業の現場を見に行きたい」と無茶なお願いをした。
こんな初対面で失礼なことを言う僕に、堀井さんは迷うことなく「良いですよ」と言って笑った。
宝桃園、そして堀井家との付き合いはこの時から始まった。
桃農家の堀井家は、堀井さん、奥さんのえっちゃん、そのお母さんの洋子さん、そしてちっちゃなあやとくんの4人家族だった。
僕はそこで数日間滞在させてもらい一緒にご飯を食べ、呑みながら(僕は呑めないから堀井さんがと書くべきか)、話し、一緒に畑に出た。
山梨の盆地にある畑はとても広く(月並みの比喩で言うなら東京ドーム一個半分)で、遠くには山々が僕らを囲むように美しく連なっていた。盆地なので昼は暑く夜は涼しい。気温のせいなのか雲が表情をコロコロと変える。
最初に見た桃畑の印象は単純に“美しい”だった。
畑にはまだ青い桃しかなく、それに袋を被せる作業をひたすら手伝った。
初めてやる僕のペースはとても遅く、1日数百枚程度しか被せられなかった(堀井さんは1000枚近く被せていた、ごめんなさい)。
「僕ら農家が桃を育てているんじゃないんです。自然が育てているものを少し手伝っているだけなんです。全ては自然。そんな桃を育ててくれる美しいこの風景を子どもたちに残してあげたいんです」
と堀井さんは言った。
美しい風景がおいしい桃をつくる、そしてそれを残していく…それは素晴らしい考え方だなと思った。
最初の不出来な袋掛けからもう10年以上が過ぎた。そこから僕はほぼ毎年桃園に通い、ごはんを食べ、話し、一緒に畑に出た。(今は手伝いではなく撮影になってしまったけれど)
最初は1人で畑を駆け回っていた小さなあやとくんも、今ではさやちゃん、いおりくん、2人のお兄ちゃんだ。
雨が降り、陽が差し、虫が飛び、風が吹く。
そんなこの山梨県笛吹の自然と一緒に彼ら家族は暮らしている。
そしてその自然と共同で桃を育てる。
彼ら家族を眺めていると、その変わらない日々の営みそのものが(寝る前にあやとくんがダダをこねる、そんな些細な事でさえ)桃をつくるということなのだと思う。
この映像は僕が桃農家、いや、堀井家に通い撮り溜めた記録を編集したものです。
途中コロナで撮影が止まった期間もあったけれど、こうやって無事に完成することができてとても嬉しく思います。
この動画を見て彼らの営みの中に流れる豊かな時間、空気を少しでも感じてもらえたら嬉しく思います
そしてまた今年もみなさんが、自然と堀井家からの素晴らしい贈り物に出会えますように。