【物語詩】湖の結晶
ある田舎に湖がありました
小ぶりですがサファイアのように青くて
美しい楕円形の水辺のある湖です
むせるような森の香りが
ふっと和らいだ9月のある日
都から神官様がやってきました
星の道筋を読みながら
はるばる一月を費やして歩いて来たのです
神官様は湖を見て微笑みました
「間違いない この湖だ」
「ここでは大きな結晶が作られている」
「神様の恵みだから大切に見守りなさい」
湖周辺に住んでいた農民たちに告げました
農民たちは湖より目を丸くして焦ります
何しろ湖のムダ遣いをしていたからです
湖の水を畑仕事で好きなだけ使ったり
洗濯に使ったり 使った水をまた戻したり
あとは家畜の水浴びに使ったり……
それでもなぜか美しい湖に甘えていたのが
神官様に……神様にバレたりしたら……??
お告げをして満足した神官様をもてなし
湖の住人は力を合わせ始めました
結晶のために 湖のために
自分たちにできることをやったのです
水は使う分だけで 汚い水は流さずに
秋は深まり 実りを収穫しているうちに
冬将軍がパリンと湖を凍らせました
農民たちがホッと白い息を吐いていると
彼らの子どもが湖を指差して言いました
「ねぇ 湖が光っているよ?」
初めは暗くなったときに
真夏の夜の蛍のような光だけだった湖は
やがて年明ける頃には蝋燭の灯りに
氷の解ける春先には暖炉の焚火に成長した
明るく白い炎が水底から辺りを照らした
湖を見守る住人たちは
夜桜を楽しんで親睦を深めたり
家畜の散歩をさせたりして
いまだかつてない5月を過ごしました
穏やかに青白い湖を見守って
いよいよ湖の近くにある畑で
手塩にかけて育てた麦を収穫をせんと
田舎全体で気合を入れた頃に
ことさら長い雨が降りました
晴耕雨読の読書しかできない日々で
誰もが早い晴れの日と
湖の水面の静寂を祈っていて
三日三晩続いた雨が
新しい世界の幕開けとばかりに晴れて
さざめいていた水面に白い球が浮かびました
農民たちは白くて巨大な丸い物を
しげしげと困ったように見つめています
そこに現れたかつての神官様が
「ああ~やはりっ!!」と
肩で息をしながら指を差します
なんだかギラギラとした眼差し
「これは私が持って行きますね」と
ジャブジャブ湖を泳ごうとするので
湖の住人たちは神官の首根っこを掴みました
「神様の結晶をどうする気だ!」
鬼の剣幕に参った神官様は涙の白状
どうやら結晶を売り飛ばすつもりだった
神官を都へ送り返し農民たちは困った
湖に成った真珠のような結晶の扱い方を
悩んだ末にお堂を作って祀ることにしました
それ以来 6月にはお祭りをするらしいです
小さな湖で 青くて美しい水辺で
もしかしたら貴方も見れるかもね!
湖が生み出した美しい大真珠を
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