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【詩】じわじわジンジャー

ここは冬将軍の主催するパーティ会場
クリスマス 正月 バレンタイン
イベントは過ぎ去りそろそろ大詰め

雪細工やオーロラで会場は大盛況
けれども人間代表の私にはちょっと寒い
艶やかでスマートなドレスコード勢の中で
一人だけ まるで雪だるまみたいな着こなし

でも ハードモードの中でこそ映えるうたげ
どうにか最後まで楽しめますようにって
とっておきのお守りを持ってきた
自家製・自慢のホットジンジャー!

蜜蜂から分けてもらった琥珀の雫と
冬支度よりも前に収穫しておいた生姜に
ふわりと煮詰めた恵みの雪で割ったドリンク
一口ずつ ゆっくり楽しむのがポイント

甘い から
でもつらくはない むしろ甘えさせてくれる
なんて不思議な味なんだろうね

じんわりと体の芯と心を包んでくれる
ふぅっと吐いた息に
湯気が混じってホワイトアウトする


開けた視界で微笑むのは将軍の奥様
鶴や雪女のようにスレンダーなラインをもつ
絶世のクールビューティ―が氷点下で笑う

シュワシュワと泡の弾けるグラスを片手に
優雅に隣に腰掛けて話し掛けてくる
私のドリンクの作り方を訊いてくる
だから予備用のシロップを差し出した

スプーンに1杯 グラスに混ぜ入れて
ふんわりと飲んでほんのり染まる
夫人は溶けそうな笑顔で私に言った
最高のジンジャーエールが飲めたと

ぽつり ぽつりと春が芽吹いている
そろそろ次の会場を探さなくちゃねと
彼女は雪が舞うように夫の元に戻っていく


じわじわとお守りが効いてきた体の真ん中で
私は過ぎ去りゆく冬を想う
なんだか長い旅をした気分で

少しばかり自分の世界に引きこもろう
そして春を出迎えて夏にも会うのだ
その間に新しいジンジャーを育てるために




あとがき

 本当のことを言うと、この詩は1月中旬くらいから書きたくて、筆を進められずにいました。
 イラスト(トップ画像)はわりとすぐにできたのですがね。たぶん、ホットジンジャー(温かい)や、ジンジャエール(冷たい)の飲み物をどう作品内で共存できるかで悩んでいたのが原因です(笑)。

 ファーストインプレッションのままに表現できたかというと、違います。あーでもない、こーでもない……そんな感じでカイロみたいにコネコネしながら、やっと完成できました。

 うん、でも、こういうのもいいよね。

 時間を掛けながら心血を注いで、途中で変化するのもいいよね。だって世間の子育てだって、産む前と成人式後では、違うものでしょ。作品も子どもも、少しくらい思惑と違う育ち方をしたって、愛せるものでしょう?


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