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消しカスに残した二つの関係 〜劇団 ロロ 窓辺第3話『ポートレート』〜

せんがわワークショップフェスティバル2020」の一貫として行われた「感じたことを自分の言葉にするための演劇講座」に参加した。

参加した理由は明白で、いつも劇評を拝見して「そうそう!」と共感することが多い徳永京子さんが講師を務めると聞いたからだ。

開講に当たって徳永さんのnoteも見つけた。これまた「そうそう!」と共感することしきりだったため、迷わず申し込みしたという具合。

講義の中で、ロロ がオンライン配信で上演した窓辺第3話『ポートレート』を見て劇評を書く、という宿題が出た。

『感じたことを自分の言葉にする』ために、「違和感を見つけて、その違和感への着地点を見つけ出す作業をすること」「自分の違和感を出発点に、自分と作品の関係を結ぶこと」「その関係を結ぶ文章を書くこと」というアドバイスがあり、それを踏まえて劇評を書いてみようというのだ。

というわけで、私も甚だ僭越ながら「劇評」というものを書いてみた。そして、講評の時間に憧れの徳永さんに開口一番「💮 花丸 💮」と言われたのが嬉しかったので、記念にnoteで公開しようと思い立ったわけである。私の劇評を読んだ徳永さんから「私もそこが気になった!」といって頂き、やはり以前から劇評を拝見して「そうそう!」と思うことが多かったのは、目の付け所の感覚が似ているのかな、などと勝手に嬉しくなる私なのでした。

以下、初めての劇評です(^o^)

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タイトル「消しカスに残した二つの関係」

劇団ロロのオンライン演劇「ポートレート」。物語はZoomの画面上で進行していく。栗美がTwitterに投稿した「モデル募集」に応募してきたaotarou。栗美はaotarouのポートレートを描き、aotarouはモデルとして画面の前に存在する、そんな二人の物語。

栗美はいくつかウソをついている、と感じた。まずaotarouのポートレートを書くつもりがなさそうだ。鉛筆を走らせる速度、モデルであるはずのaotarouと対峙する態度の適当さ。では何のために、ポートレートのモデルを募集したのか?

この物語には「消しゴム」が印象的なアイテムとして登場する。彼女が本当にやりたいのは「消す」という行為。消すために描いている。消しカスを集めた彼女はそれを「aotarouの破片」と表現する。

彼女が消したものは他にもある。aotarouの前に描いたという彼氏のポートレートだ。
ここでも彼女はウソをついている。ビデオ会議で別れ話をしている時にフリーズした彼氏の画面を見ながら描いた、というポートレートだが、それもおそらく描いてはいない。描きたいと思った記憶が画用紙の上に残っているだけだ。aotarouの前で彼氏のポートレート消しゴムで消してみせるが、消しゴムで画用紙をなぞっているように見えた。欲しかったのは消すという行為と、消しカス、「彼氏の破片」だ。

どうも、栗美という女性は「消しカス」を残したい、残そうとしているように見えてならない。
そして、栗美が消しカスを集めて自分の元から手放すというシーンが2回あるが、そのどちらのシーンでも彼女は消しカスを、少しとは言えないあからさまに残っていると分かる量手元に残す。なぜだろう?

ここで、もう一つ不思議なのが「隣人の村田さん」という存在だ。アパートの壁が薄いのか壁に耳を当てれば向こうの音が聞こえるらしい。そして、栗美が使っている消しゴムは、村田さんの家に届くはずだったものだということがわかる。どうやらその消しゴムは大切な想い出の品だったらしいことがわかり、遅い時間にもかかわらず村田家に届けに行く栗美。

村田家から戻ってくると、村田さんの家でかかっていた「魔法使いミント」のアニソンをaotarouが聞いていた。隣家とZoomの画面越しに同じ曲が聞こえるという。そんな偶然あるだろうか?

もしや、aotarouが村田さんで、栗美は部屋の前まで行って戻ってきた?元から特別な感情が?などと邪推をするのだが、いやいや、aotarouは東京在住、栗美は仙台在住でつながらないのだ。

「消しゴム」というこの作品にとっての重要アイテムと村田さんの関係、なぜ村田さんの消しゴムが栗美の手元に?村田さんの想い出の品の消しゴムって何?もしかして村田さんは栗美の元カレ?aotarouというZoom越しの目の前の人物と村田さんの関係は?…この作品で村田さんにまつわることはどうもはっきりとつながらない。

この作品はオンラインで上演された。オンラインでの人間関係はつながっているのか?つながっていないのか?よく分からない。このはっきりとつながらない関係を物語の中に投影したのが村田さんという存在なのではないか、と思う。

そして、栗美の前にあるのは「彼氏と別れた」という事実と「aotarouという人物が目の前にいる」という2つの事実だ。
一方は別れが、もう一方は出会いがオンラインで行われた。本当に相手との関係が成立しているのか?それを手元で感じるために、栗美には「消しカス」を作る必要があった。消しカスを手放す行為をしながら、消しカスを捨て切りはしないのはどちらの関係も、今、手元に残しておきたいと思ったから。

この物語は、栗美が消しゴムを見つめるシーンから始まる。


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