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夫がちいかわおじさんになってから

たびたびnoteでも書いていますが、我が家の夫(30歳)は、ちいかわ好きのおじさん、いわゆるちいかわおじさんです。

元々、夫婦ふたりとも自分ツッコミくまが好きで、その流れでちいかわの物語も追っていたのですが、夫の様子が変わったのは改めてコミックスを購入してから。

ちいかわちゃんとハチワレちゃんの友情を描いた「ほめられリボン編」というお話があるのですが、それを読み返した夫は、真剣な顔で「神回や…」と溢していました。私が、おや…?と思い始めたのはここから。

そこから、夫はちいかわのグッズやイベントの情報をまめにリサーチするようになりました。新しいガチャやコラボ商品が出るたび、私に教えてくれるようになり、二人で一緒にお店に足を運びました。

ここらへんまでは、ふたりともゆるーくちいかわが好きなんだな〜と、私は認識していました。元々夫婦揃ってライトなオタクなので、違和感もなく。

始めて夫の熱量を感じたのは、「ちいかわコレクションカードグミ」を買ったときです。

いわゆる食玩というやつで、グミに一枚カードがついてきます。これがまた可愛い。作中に出てきたキャラクターや名シーンが描かれていて、レアカードなんかもあります。

ランダム封入で全30種類。揃えるのは結構大変です。私はそこまでコレクション欲がないので、軽い気持ちで何袋か買ってきたのですが、夫は違いました。

毎日、仕事おわりにご褒美のように大事に袋を開けて、出た柄のかわいさに喜んだかと思えば、被りが出て落ち込んだり。おじさん一喜一憂です。手持ちのグミがなくなると、「買いに行こう!」と夜のイオンに繰り出しました。それまで、私のウォーキングにはあまり付き合ってくれなかった夫が、イオンに行くために毎晩一緒に歩いてくれるようになりました。

夫もかつては遊戯王カードやベイブレード集めに夢中になっていた世代です。その血も騒いだのでしょうか。何度もイオンに行って、カードをコンプしました。

そのカードを、100円ショップで買ったカードファイルに入れて、毎晩宝物のように眺めている夫を見て、私はやっと彼が「ちいかわを推している」ことに気付きました。

それからはアニメも始まり、怒涛のグッズ発売、コラボ決定…など、目まぐるしい日々を送っています。

夫はそのなかで「何かを推す」ことを始めて体感しています。私はその感情の機微をずっと見守ってきました。

ちいかわの一番くじを買いに行ったとき。先に並んでいた他のちいかわおじさんが、ちいかわちゃんとハチワレちゃんのぬいぐるみをゲットしていました。私は初めて自分達以外のちいかわ好きを目にして、嬉しくなったけれど、うさぎをゲットできたはずの夫は悲しい顔をしていました。車の中で彼は「3人を揃えてあげたかった」「ちいかわとハチワレをとられて、悲しかった」と呟いていました。初めて知る、推しの悲しみでした。

新しく発売されたグッズを買いにいったとき、ちいかわちゃんとハチワレちゃんが並んでいる柄を見て「最近、二人だけの絵柄だと寂しく思うようになってきた」「おれは3人が揃って、楽しそうにしてるのが一番好きみたい」と彼は溢しました。その日彼は、箱推しという言葉を覚えました。

一緒に着ぐるみとの撮影会に行った時、あまりにも家族連れが多くて「おれ…場違いかも…」と緊張している姿が心に残っています。それでも目の前にした動くちいかわの可愛さに、おじさんは全てを忘れて手を振っていました。

私はキャラクターや作品にハマることはあっても、人混みや競争が苦手なので、あまりグッズを集めたり、イベントに参加することはありません。

けど、夫の熱意に押されて、いま、ちいかわを推す活動=「ちい活」を楽しめています。刺激が強くて、家に帰ると寝込んでしまうこともあるけど、楽しい気持ちの方が多いです。自分では見られない世界を夫に見せてもらって、夫が楽しそうにしている姿を見て、日々、幸せな気持ちを感じています。

ある日、ちい活をした帰りに寄った喫茶店で「何かを推すこと」について、夫と話したことがありました。

推すということには、どうしてか競争心や自尊心が伴ったり、想いの強さから争いが生まれることもあるよね、と私は彼に話しました。それは自分自身が、オタクをやっていて経験したことによる実感でした。

同じものを好きな者同士なのに、解釈の違いで相手を責める人がいたり、かけたお金や労力がマウントに感じられたりして、私は苦しかった。だからいつも、何かを推すときは最後は一人だった。情報が入らないようにSNSに鍵をかけて、でも最終的には嫌になってジャンルから遠ざかっていた。

そう話すと、夫は「おれは逆だな〜」と穏やかな口調で言いました。

子供の頃、あんなに流行ってたのに遊戯王やベイブレードをやる友達が近くにいなかった。いつも、お母さんに付き合ってもらっていた。だからいま、こんなにちいかわが人気で嬉しい。イベントに行ったら、たくさん人がいて、この人たちみんなちいかわが好きなんだ!おれ一人だけじゃないんだー!って思う。

それが一番嬉しい。

そう口にする夫の顔は、とても輝いて見えました。純粋に、何かのことがとても好きで、それを好きな人たちが沢山いることも嬉しい。私が忘れてしまっていた推し事の楽しみを、夫は自然と身につけていたのでした。

近頃、私たち夫婦の狭いアパートに、毎日のようにちいかわグッズが増えています。掃除や整理が大変だし、休日もあれこれグッズを探しに行くのが大変。

だけど、部屋が狭くなるたび、スケジュール埋まっていくたび。

「また新しいグッズ出るんや!どうしよぉ〜!」と困ったふりをしている夫の笑顔を見るたび。

私の心は、不思議と満たされていくのです。

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