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人文系→プログラミング・数学への理転

私は現在、プログラミングと数学を勉強している。

このことから、この文章だけを読んだ人は、私を数理情報系の人間と典型的に思うかもしれないが、それは事実と全く異なる。
むしろ私は、三一歳になるこれまでの間、理系の大学生・大学院生などに比べれば、ほとんどこれらの科目を学んでこなかった。したがって、私は新規開拓の学びを行っていることになる。

そもそも、私が自発的に読書のたぐいを始めたのは、高校一年生くらいからであるが、そのとき読んでいたのは太宰治・芥川龍之介などの文学作品であった。以来、私は文学・哲学・宗教を自学自習してきた。累計で1500冊以上は明らかに読んだし、ハイデガー哲学が好きになった。このことから分かるように、私は典型的な文系の人間である。数学のたぐいは苦手として遠ざけてきたし、事実として無味乾燥と受け止めてきた。

では、どういう風の吹き回しで、私はプログラミングと数学を学ぶようになったのか。一言で言えば、経済的なスキルの獲得のため、否が応でも避けられなくなったためである。以下に詳細を説明しよう。

私には、職歴らしい職歴が何もない。会社勤めの経験はゼロである。ただ、Webライターの案件をこなして、数万円を稼いだことがあるのみである。ここまで読めばすぐに分かるが、私は実家で養われている身である。
そして現在、私は放送大学に在学一年目である。普通の大学進学が、二十歳弱の年齢で困難だった理由は、国立大の受験に失敗して精神をやられたからである。以降、様々な形で療養に努め、ようやく寛解した頃には、三十代初頭になっていた。

「典型的な文系」という前提条件はすでに述べた。もともとの計画では、私は大卒となったあかつきには、哲学系の大学院に進学して、ハイデガー哲学を極めようと思っていた。そのため、ドイツ語の勉強を準備していた時期もある。
とはいえ、哲学で修士号や博士号を取ったからといって、私の年齢では、大学のポストに就くことはまず不可能である。哲学は民間の需要がきわめて少ない分野(いわゆる虚学)のため、一握りの常勤ポストに就けない者は、中学高校・予備校や語学学校の先生をやっているのが実情である。

私も、ごく最近まではこのコースを進もうと思っていた。しかし、私はこの進路に疑問を感じるようになった。そのため、私はプログラミングや数学を学び、理工系への転向を試みるようになったのである。

では、なぜ従来の学びに疑問を感じるのか。主な理由は二つある。

第一に、経済的な問題である。簡単に言えば、哲学や語学は、特別なコネや地位を築いていないかぎり、まず儲からないのである。
もっとも需要の大きい英語といえども、たんなる英語の資格の取得者は、経営者に薄給で使われているのが現状である。そのことは、「英語 求人」で検索すればすぐに分かる。しかも、生成AIは語学の領域をますます支配しており、したがって業界そのものが斜陽である。

これに引き換え、プログラミングや数学の需要は、いわゆる文系のすべての学問(典型的には法学)に比べても、爆発的に大きい上に、その産業構造は日進月歩で堅固なものになっている。
また、リモートワークやフリーランスといった柔軟な働き方を許容する業界の風土がある(むろん、社会人スキルを含めた確かな実務経験と技術力があることが前提)。したがって、客観的に見て、三十代で何もなしとげていない者であっても、新規参入がしやすいと思ったからである。

第二に、学問的な問題である。私は、典型的な文系出身の自分自身に劣等感を抱いていた。むろん、諸学問には伝統の深浅はあっても、優劣の差はない以上、理工系を至上とする一部の功利的な風潮には与しない。しかし、そうであっても、私は哲学を学べば学ぶほど、厳密性や抽象性の面では不完全であるとの感を深くし、この学問に一生を捧げられるとは思えなくなった。
これに引き換え、理工系の学問は、現代世界を支配している。プログラミングや数学は、人間の主観を方法論的に捨象することで、もっとも強力な普遍性を獲得している。

その現状をかんがみて、私は理工系に転向することに決めたのである。

当面、私はプログラミングのスキルを習得し、エンジニアとして就職することを予定している。もともとは苦手と感じていたが、デスクトップパソコンに向かい、思い切って写経をしてみると、案外楽しくやれると気づき、そのような決断を下したという経緯である。その証拠に、私はMacBook Airを無金利分割で購入した。仕事道具には、しっかりと上質なものを買っておかなければならない。

ただし、私は数学を学ばずにプログラミングに自足できるかは疑問である。確かに、Web開発系のエンジニアの場合、数学が必ずしも得意でなくとも、業務はかなり高度なレベルまで遂行可能である。
しかし、せっかくプログラミングを学ぶのに、数学を放置するのはよくないというのが私の立場である。むしろ、微積分・線形代数・統計学を用いるエンジニアの分野は、人工知能の開発は典型例であるが、多岐にわたるのが事実である。

だとするならば、私はプログラミングのかたわら、数学を真剣に勉強しなければならないのである。

なお、私の数学知識は、高校数学だけである。とくに、数学Ⅲ・Cの分野は、一度学んだきりだから、教科書レベルをほとんど忘却している。
そこで、私がこれまでにやったことは、「マセマシリーズ」の参考書(「初めから始める数学Ⅲ・C」、大学数学では「初めから学べる微分積分」「微分積分」)を買い込んで、じっくりと読み込むことである。数学のカルチャーに馴染むことは挑戦的な課題であるが、今のところ、やれば何とかなる範囲である。

では、以上の自己研鑽が実を結び、エンジニア就職を果たし、実務経験を積んだら、何をするのか。

私は、数理または情報系の大学院への進学を志している。一度仕事を中断するだけの価値が、大学院と学位に存在すると考えているからである。
これは、エンジニア職において、たんに私のアカデミックなこだわりだけではなく、客観的な情勢判断である。現に、修士・博士号を必須または歓迎要件とするハイレベルの求人は数多い。(仮に以上の事実がなくとも、院卒は社会的地位が高く、承認欲求を満たせる資格である。これは、あながち馬鹿にはできない観点である)

思うに、「今までがそうだったから、これからもそうだろう」という決定論は誤っている。きれいごとを言えば、人間の生命には無限の可能性が秘められているものだ。そして、平凡な本音に身を委ねることに比べれば、きれいごとを信じ、いささかなりともそれを真実に変える努力を払ったほうが、中長期的に見て得をすると考える。

プログラミングと数学の学習は、その信条の実践である。


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