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無花果がすき。

無花果がすき。

今日、そんな予定はしてなかったけど、とある産直市場へ行った。
長野という未開の地に突然引っ越して早5ヶ月。「そんな予定はしてなかった」のに、産直市場へ行けてしまう生活をしていることにまだ慣れない。
もっと言うと、なんの緊張もせず毎日車に乗る生活しているなんて、想像もしていなかった。

自動車免許をとったのは大学2回生(多分)のことである。
当時付き合っていた人と夏休みに沖縄に行った。彼はその旅行の直前免許取り立てホヤホヤだったということもあり、まずはわたしがハンドルを握ることになった。
しかし、自動車学校を卒業してからほとんど…というか多分一度も運転していなかった。だって京都ですもの。それこそ遠出の旅行でもなければ自分で運転する機会はおろか、車に乗せてもらう機会すらないのである。
レンタカー屋さんを出発してすぐにアクシデントは起こった。幹線道路に出るまでの、なんとかすれ違うことはできるけど一通でもよさそうな細い道を走っている時に、横道から車が曲がって入ってきたのである。

一瞬でパニクるわたし。ハンドルを切りながらじわじわと左に寄る、なんて当時のわたしはできるはずもなく(というか、最近できるようになった)、半ベソをかいてやってきた車のドライバーに何もできないと表情で訴えかけ、なんとか切り抜けてもらったのである。
冷や汗が身体を伝った。その冷や汗は、車が接触せずにすれ違えるかどうかはもちろんだが、どちらかというと、隣りに座っていた彼から発せられる不穏な空気によるものと言っても過言ではなかった。

結局、無事に幹線道路に出られたものの緊張してろくに運転できなくって、早々に「もう僕が運転するから、あそこのコンビニに入って」と言われ、交代した。
それから車は敬遠するようになってしまっていたのある。(ちなみに、コンビニの駐車場に入っても上手に駐車できずに怒られた。トホホ)

いや待て待て。こんなみぞおちがちょっと痛む話をしたかったのではない。

そう、あの頃は全然想像できなかったけれど、こうして毎日車に乗るようになっているのだ。人生いつ何がどうなるかなんてわからない。
おかげさまで今日も「あ、産直いこ」つって、車でひょーん。ものの15分で着いた。そのお店は近隣地域のものはもちろん、各地の美味しいものが安価で置かれている。
が、それだけではない。「産直」から想像する野菜果物にはじまる食品に限らず、いろーんなものがある。

草木。切り花やポットに入った苗はもちろん、置くとこに置けばしゃれた観葉植物もある。しかも安い。
材料系。薪は広葉樹、針葉樹から選べる。スウェーデントーチも山積みにされている。ご丁寧に軽トラに積むときの注意点をまとめた札までかけられている。これも(多分)安い。
リサイクルショップか?と言いたくなる電化製品たち。「2020年製」POPの貼られた空気清浄機から、シルバニアファミリーを集めていた時にそのレトロさにちょっと憧れていた二槽式洗濯機など。
そして、ガラクタとよばれそう何某たちが無数にある。
よくインド料理やさんで見かける、天面は平たくなっていて壺とか置けそうな象のオブジェ。今どきどこから持ってきたんやと訊きたくなる振り子時計がいくつもかかっている。すげー重そうで凶器になりうることが容易に想像できる昔のアイロン。

他にも挙げ始めたらきりがないのだが、とにかく新鮮なお野菜から何年物かわからない古物まで、数多に取り揃えらている奇想天外な場所として、知る人には知られている。
そういえば、エミューとかヤギとかうさぎとかもいた。いよいよどう説明したら良いのかわからない。とにかくサイコーな店なのである。

いや待て待て。産直の宣伝をしたかったわけではなかろう。ぜひおすすめしたい気持ちはあるが、そこではない。というか生息地がバレる。

で、15分車を走らせて店に入ったら、そこにいたのである。
無花果。
皮肉にも、実家のある「愛知県産」の無花果が4つで300円切る価格で、そこにいたのである。

向かう車の中では、なくなりかけのお米を買おうと思っていた。けれど、レジを通すときのかごにはお米は入っていない。そこにあるのは無花果である。There is no rice, but there are some figs. 

いいのです。
至るところの稲穂はたわわになり頭を垂れている様子を、わたしは見ています。そして数日後にはその姿がなくなっていることも、知っています。新米が出てくるのはもうすぐです。
陳列されたお米のラベルに「2023年8月末」と見つけ飛びついたけどそれは精米日であり、ちゃんと読むと「2022年度」「令和4年度」と書かれていることに気付いたわたしは、ぐっと購入を見送りました。
この地域の新米が店に並ぶのと、わたしがお米を食べ尽くしレンチンご飯で凌ぐのも飽きて我慢しきれなくなるのと、どちらが早いか。ただわたしのエゴでしかない根比べが始まった。

帰りに寄ったコンビニでは、一発でいい感じに停められました。
冷蔵庫にはクリームチーズ、はちみつ、黒胡椒がありました。
(嬉しいことに無花果のポテンシャルが高かったので、はちみつと黒胡椒の出番は少なめ)

良い晩酌になりました。



この度は読んでくださって、ありがとうございます。 わたしの言葉がどこかにいるあなたへと届いていること、嬉しく思います。